2024年12月には規制問題を考える集会も開催

2024年12月に山田太郎議員らを招聘して開催された「クレジットカード会社等による表現規制『金融検閲』問題を考える」では、開催団体のうぐいすリボン代表の萩野光太郎氏から、「シンガポールやマニラに本社を置いている、クレジットカード会社の本社から委託されたコンサルタントや調査会社から、規約違反をパトロールしていて、作品に問題があるようだから対応するようメールが来る」という事例が紹介されており、さらに第三者が関係している可能性があります。

  • 山田太郎 参議院議員

    山田太郎参議院議員

山田太郎議員は同会で、「コンテンツの中身ではなくタイトルを見ている。完全に言葉狩りで、何を取り締まりたいのかもよく分からない」と強調しており、キーワードによる作品の排除が求められているというのが現状で、結果としてアダルトでもない作品も対象となっていることを指摘しています。

適法かどうかの確認を求める国際ブランドに対して第三者が過剰な対応を求めており、指摘を受けたアクワイアラなどが機械的に利用停止するか何らかの対処をしようとするかはそれぞれの事業者ごとで異なっている――ということなのかもしれません。

その意味では、ライフカードが事前にキーワードリストなどを入手して、「あらかじめコンテンツの中身を確認しておき、法的な問題がなければ問い合わせがあってもタイトルだけでは削除や停止を求めない」という対応をしているならば、確かに意味があるかもしれません。

いずれにしてもキトニー社長を含むVisaの説明と状況は、一貫しているとも言えます。2024年になって利用停止の問題が拡大したのは、国際ブランド側の確認作業が本格化したのか別の事情があるのか、それはまだ分かっていません。

Visaと同時に利用停止に名前が挙がることの多いMastercardは、現時点で日本での広報体制が機能していないため、取材ができていません。ただ、複数の国際ブランドがセットで扱われていることが多いことから、国際ブランド個別の動きではなさそうです。

ちなみに日本の国際ブランドであるJCBの加盟店規約を見る限りは、同様の項目として「公序良俗違反の取引」が禁止されています。明確な内容が指定されていないため抽象的ですが、通常は法に違反するかどうかで判断されることになるでしょう(もちろん法に反しないような公序良俗違反もあるでしょうが)。特に、「合法な」アダルトや特定のジャンルを標的にした項目はないようです。

重要インフラとして適切な規制の検討を

さて、こうした現状は、あまり好ましい状況ではありません。どういったコンテンツを どのように判断しているのが不明瞭なうえ、サイト全体でクレジットカード決済が停止されるのは問題です。

政府は、サイバーセキュリティ基本法において、クレジット分野を「重要インフラ」と指定しています。日本ではキャッシュレス決済比率がようやく4割に達するところですが、この比率をさらに高めることが国の目標で、クレジットカード各社もシェア拡大を目指しています。

そうした重要インフラであればこそ、それにふさわしい扱いが必要です。国際ブランドやその他の決済インフラが特定の商材の取り扱いに規制を設けるのは、それが責任問題にもなりえるからでしょう。

例えばインターネットであればプロバイダ責任制限法が制定されており、プロバイダなどの責任が制限される要件が明確化されています。

  • 米カリフォルニア大学アーバイン校ロースクールのJack Lerner教授のプレゼンテーション

    米国では、Pornhubの問題で国際ブランドが訴えられました。米カリフォルニア大学アーバイン校ロースクールのJack Lerner教授のプレゼンテーション。これも「クレジットカード会社等による表現規制『金融検閲』問題を考える」におけるもの

加盟店と消費者の決済において、国際ブランド/イシュア/アクワイアラ/決済代行業者といったクレジットカード決済インフラに関わる各社が、その内容まで責任を負う必然性はありません。

逆に言えば、決済インフラが商材の内容を判断するのは最小限に抑える必要があります。さらに決済事業者側には加盟店に対する不正・不当な取り扱いの禁止が求められます。少なくとも、直前に理由もなく利用停止を通告するような行為は認められないでしょう。

マンガ図書館Zでは、決済事業者が審査終了まで既存の決済分の支払いを停止したことを同サービスを設立した漫画家で参議院議員の赤松健氏が説明しています。これでは安心して事業を行えず、決済システムの信頼性の問題となっています。

  • 赤松健参議院議員

    赤松健参議院議員

  • マンガ図書館Zのクレジットカード停止の経緯

    マンガ図書館Zのクレジットカード停止の経緯

現時点でも一部国際ブランドの利用が復活していないニコニコでは、「ニコニコサービス全体を対象とした規制範囲の見直し」として、日本だけでなく海外の法令も考慮した規制を行うとしています。欧米以外の海外の法令も考慮するかどうかは特に定められていません。また、海外からのアクセスを一部サービスで制限するともしています。

こうした対応からも、(国際ブランドの関与があるかどうかはともかくとして)海外の法令への準拠が求められていることが予想されます。

こうした状況を踏まえると、今年も同様の事態が続くようであれば、重要インフラとして国が規制を検討する時期に来ているのかもしれません。クレジットカードの信頼性を取り戻すことが必要でしょう。