機会があるたびに海外のキャッシュレス事情をご紹介してきた本連載。今回はシンガポールを取り上げます。アジア初開催の小売関連展示会「NRF Asia Pacific 2024」の開催に合わせて訪れた6月のシンガポールでは、個人的な完全キャッシュレスを達成できました。
シンガポールはクレジットカード利用が中心
シンガポールは東京23区よりも少し大きい約720平方kmという小さな都市国家です。人口は2022年時点で約564万人。歴史的にはイギリスの植民地からマレーシアの一部となり、1965年に独立して国家として成立しています。独自通貨のシンガポールドルが発行されたのは1967年と、新しい国です。
そんなシンガポールですが、キャッシュレス決済比率が9割を超えているという調査結果もあるくらい、多くの決済がキャッシュレスになっているようです。実際、ほとんどの店でクレジットカードを受け付けていて、少なくともVisaとMastercardという国際ブランドには対応しているため、旅行者にとっても優しい国になっています。
まず入国後、最初の空港からの移動もクレジットカードが使えます。今回、チャンギ国際空港からはEast-West Lineで1駅の「Expo」駅からDowntown Lineに乗り換えてホテルに移動するルートでしたが、地下鉄(MRT)ではクレジットカードのタッチ決済での乗車が可能になっており、手持ちのクレジットカードでそのまま乗車できました。
鉄道の場合は、入場時の改札にタッチして退場時に再び改札にタッチする仕組みで、距離によって値段が変わる仕組みです。欧州のような信用乗車やゾーン制でもなく、日本と同様の仕組みです。
バスは乗車時と降車時にそれぞれリーダーにタッチする、いわゆる2タッチタイプ。これも乗車距離によって値段が変わるためのようです。
もともとシンガポールにはプリペイド型のICカード「EZ-Linkカード」などがあります。1~3日間は無制限で公共交通期間に乗降できる旅行者用カードもあり、一部のMRT駅で購入できるようです。
ただし、それらをあらためて購入しなければならないので手間はかかります。そのままクレジットカードで乗れるのでそのほうが手軽ですが、こちらには旅行者用の割引などはないようです。狭い国土とは言え、毎日公共交通機関で頻繁に移動するのであれば、EZ-Linkカードの購入を検討した方がいいかもしれません。
そうでなければ、クレジットカードだけで地下鉄やバスに乗れるようになっているため、迷うことはありません。クレジットカードのタッチ決済での乗車は、小銭を用意する必要もなく、路線図を確認していくらかかるかをチェックする必要もありません。
ただ、いくら使ったのか分からないというデメリットもあります。シンガポールの場合、1日分の公共交通期間の利用金額が翌朝にまとめて請求されるため、個別の乗車記録とその料金は分からないようです。
Grab PayでQRコード決済もクリア
交通機関以外の、街中でのキャッシュレス決済の対応状況ですが、基本的にはおおむねクレジットカードが使えるようです。中国や台湾のように街中に屋台のような小規模店が溢れているという感じでもなく、クレジットカードの利用率は高そうです。
歴史的には2009年にはNETS FlashPayがリリースされており、ICカードによる支払いが可能になっていたようです。日本でいうコアタイム・モアタイムである「FAST(Fast and Secure Transfers)」が2014年に始まり、24時間365日の即時銀行間送金が可能になっています。さらに2017年には銀行口座間の個人間送金であるPayNowがスタート。これはQRコード決済にも対応しているようです。
そして2018年には、シンガポールの共通QRコード決済「SGQR」がスタートしました。2021年にはタイのPromptPayとPayNowの相互利用が開始されており、両国民が相互に送金できるようになっています。
というわけでこのSGQRですが、シンガポール国内では広く浸透しているようです。この仕組みは東南アジア各国にありますが、複数のQRコード決済のQRコードを1つにまとめ、どのコード決済でも読み込んで決済ができる仕組みです。複数のQRコードを店頭に並べる必要がないなどのメリットがあります。
ホーカーセンターではクレジットカードが使えないことも
シンガポールでは多くの場合クレジットカードが使えるので問題ないと思っていましたが、今回の訪問で唯一クレジットカードが使えなかった場所がありました。それがシンガポール特有の「ホーカーセンター」と呼ばれる場所です。
ホーカーセンターは「屋台街」などといわれることもあるようですが、要は小さな飲食店が軒を連ねるフードコート的なスポットで、シンガポールの観光名所ともなっています。有名なところでは「ラウパサ」があり、これはシンガポールのビジネスの中心街にあり、観光客も多い場所のようです。
ラウパサではクレジットカードも使えるようになっていて、安心してホーカーセンターを体験できます。しかし、このラウパサ以外のホーカーセンターだと、(2カ所回っただけですが)クレジットカードの利用ができないようでした。
その理由はよく分かりません。手数料問題などがあるのでしょうか。ただ、クレジットカードが使えなくてもSGQRは使えるようになっていたので、現地の人の利用には問題なさそうです。
こうしたQRコード決済は、基本的に国内ユーザー向けで、外国人旅行者だと使えないのが一般的。そう思って、現金でのホーカーセンターの利用を考えていたのですが、よく見るとSGQRには「Grab Pay」が入っています。
シンガポールのライドシェアサービスGrabは、クレジットカードでチャージしてその残高でライドシェアの支払いができます。このライドシェアサービスは外国人旅行者も使えるので、普段使っている人も多いでしょう。
この残高をQRコード決済として使うのがGrab Payです。筆者のスマートフォンにもGrabがインストールされており、起動してみるとGrab Payの表記があります。ひょっとして使えるのかと思って試したところ、そのまま支払いもできてしまいました。
これは想定外でしたが、嬉しい誤算です。Grab Payに日本のクレジットカードでチャージをして、店頭に掲げられたQRコードを読み込み、代金を指定して支払いを行うだけで、すぐに支払いができます。
これによって、シンガポール内での現金利用ゼロが達成できました。今回はシンガポール到着後に現金を下ろさなかったのですが、問題はありませんでした。
シンガポール自体は、前述の通りとても小さい国です。人口も少なく、キャッシュレス化は他の国に比べれば容易だったのでしょう。結果として、旅行客も現金ナシで支障はありませんでした。
シンガポールを含めた東南アジアでは、日本のQRコードである「JPQR」との相互運用を目指しています。将来的には、Grab Payを使わなくても例えばd払いやau PAYで海外でも支払いができるようになる見込みです。それまでは、Grab Payでシンガポールは乗り切れそうです。