今回も前回に引き続き、CompTIA日本支局 支局長 / リージョナルダイレクタージャパン 清水秀彦氏(以下:清水氏)、(ISC)2 日本代表 衣川俊章氏(以下:衣川氏)、ラックセキュリティアカデミー 支配人 与儀大輔氏(以下:与儀氏)の3人により行われた特別対談の模様をお伝えする。

認定資格が差別化の一要因になる


清水氏: CompTIAの認定資格は、米国では、企業がお金を出して取得させるというより各個人が取得しているケースが多いようです。一方、日本は97%の受験者は企業側が受験費を負担して社員に受験を促しているケースが多いようです。

衣川氏: 認定資格の役割としては、ベンダー側だけではなく、ユーザー側に資格という可視化できるスキルをもつ人がいることが理想なのではと思っています。ITを取り巻く状況もどんどん変化をしている中、クラウドの導入やITガバナンスなど、ユーザー側の企業がきちんと内容を理解し、常にコントロールできるという環境を作り出す必要があるわけです。

CompTIA日本支局 支局長 / リージョナルダイレクタージャパン 清水秀彦氏

清水氏: そうですね。今後のクラウドなどの環境を考えた場合、サービスも含めて海外から提供を受けるという形も増えてきます。そのような状況下では、ベンダーが海外のサービスプロバイダーと競争をするケースもある。ワールドワイドで認識されている認定資格を取得しているということは差別化の一要因となるでしょう。また、ユーザー側にとっても、認定資格を取得していることが適切なサービスを提供してくれるベンダであると見極める上で重要な要因となりえます。

企業競争率を上げるため、資格を取らせるという観点が必要


与儀氏: 一方で、ユーザー側で認定資格の取得を推進していくためには、資格を取得している個人のインセンティブにつながるような社会形成も必要だと思います。日本の場合、資格の取得のメリットが他国と比べて感じにくい場合があるかと思います。資格を取得することが、今後の自分自身にプラスになるという意識が個人にも企業にも必要です。

(ISC)2 日本代表 衣川俊章氏

衣川氏: 以前、アパレル企業でのITセキュリティを担当されていた女性の方が、CISSPを取得されたことで、大手証券会社のITセキュリティ部門に転職されて活躍されているという事例がありました。転職を勧めているわけではありませんが、業務経験を積み、資格を取ることによってキャリアとして飛躍された良い事例だと思います。

清水氏: 日本ではまだまだキャリアパス、イコール転職という図式を思い描いてしまう人が多いのですが、他業界の方が、知識やスキルを身につけることによってIT業界で働けるようになるという話は良いケーススタディとなると思います。

衣川氏: 認定資格を取得された方を中途で採用した場合、企業にとって非常に貴重な人材になるということもあります。一方で、社内では人材育成プランを作り、中途で採用された方とも同等に戦える人材を育成していくといった相乗効果が理想だと思います。

ラックセキュリティアカデミー 支配人 与儀大輔氏

与儀氏: 以前にCISSPを日本国内で紹介する際に、よくワインのソムリエ資格を例にしていました。レストランに行った時に、資格を持つソムリエとワインのうんちくを語れるボーイとどちらにワインを選んでもらいたいかと聞くと、皆さんソムリエを選びます。このように、知識やスキルを持つ人をきちんと可視化して、それを仕事に結びつけていくことが重要だと思うのです。また、レストランの観点で言えば、効率的に適切なアドバイスをできるソムリエを自分の店に雇うことは、経営面からも顧客サービスの面からも良いことですよね。実際に、某航空会社が、客室乗務員にソムリエ資格を取得させて、差別化を図ろうとしていました。同じように、IT資格でも、まずは企業競争率を上げるため、資格を取らせるという観点が必要ですね。

衣川氏: 人材育成での問題点と言うと、講師の不足も挙げられます。講師をどのように育成していくのかといった課題です。特に「学」では、講師ができる人材が本当に少ないのが現状だと思います。例えば、CompTIAから提供されている講師を評価するような認定プログラムをうまく活用するなど、講師の量・質といったことを解決していく必要があるでしょう。

継続的なキャリアアップモデルを「学」からスタート


衣川氏: 別に取り組みが必要なのは、「学」との協業ですね。卒業後も継続的にキャリアアップにつなげていけるモデルを、「学」からしてスタートしていただかなくてはならないと思っています。そのためには、我々が取り組めることを一緒にうまくつなげていくことが重要なのではないでしょうか。

与儀氏: ラックでは、SSCPという認定資格のトレーニングを専門学校に提供しています。現在のような就職氷河期では、トレーニングを情報系カリキュラムに組み込み、認定資格を取得して卒業をするというのは、学生にとっても貴重な武器になるのではないでしょうか。

清水氏: 我々CompTIAでも、学生のうちにエントリーレベルとしてCompTIA Strataシリーズを取得していただき、次のステップとして、CompTIA A+、Network+、Security+といったキャリアを積んでもらうことを提案しています。今回のパートナーシップの発表を機に、ぜひ今後のIT人材を見据えた様々な取り組みをご一緒させていただければと思っています。