ホンダが「フィット」に続いて「アコード」をモデルチェンジした。通算10代目となる新型は、「シビック」や「インサイト」を思わせる流麗なファストバックスタイルが特徴だが、よく見るとアコードならではの個性もある。なぜ新型はこの形になったのかを考えた。
意外に長い国産ファストバックの歴史
ホンダのクルマの歴史を「シビック」とともに長い間支えてきた「アコード」が7年ぶりにモデルチェンジした。1976年デビューの初代から数えて44年目の今年、ついに10代目になる。
実はこの10代目アコード、米国では2017年夏に発表、同年秋に発売されていて、翌年の北米カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。日本では2019年秋の「第46回 東京モーターショー」が初公開の場となった。
とはいえ、「NSX」などとともにブースの奥のほうに置かれていたので、気づかなかった人がいるかもしれないし、目にはしたものの、それが新型アコードだと認識しないまま通り過ぎてしまった方もいる可能性がある。
というのも、この新型アコード、写真でお分かりのとおり、シビックや「インサイト」に似たプロポーションを持つクルマとなっているからだ。ルーフからリアエンドにかけてなだらかなラインでつないだ「ファストバック」と呼ばれる造形を持つことが共通している。
ファストバックについては昨年、「マツダ3」のデザインについての記事で少し紹介した。あの時は、フランスのプジョー「508」も、モデルチェンジとともにファストバックスタイルに衣替えしたことにも触れておいた。
その理由については、SUVやミニバンが実用車の役目を担うので、ハッチバックはパーソナル化していくと以前、書いたことがある。同じことが、セダンにも当てはまると考えている。ミニバンもSUVも背が高いので、低くてスマートなスタイリングは難しい。こういったスタイルはセダンやハッチバックの特権なのだ。
この流れは、偶然にも同じ2009年に発表されたアウディ「A5スポーツバック」、BMW「5シリーズ・グランツーリスモ」、ポルシェ「パナメーラ」あたりが発端で、つまりはドイツのプレミアムブランドが仕掛け役ということになるが、それ以前からファストバックのクルマはいくつもあった。
日本車では1965年にトヨタ自動車「コロナ」に設定された5ドア、同年デビューした三菱自動車工業「コルト800」あたりがパイオニアだ。このうちコルト800は、後に3ドアや4ドアが追加となるものの、当初は2ドアのみで、実用性を重視したコロナ5ドアよりもスタイリング重視だった。よって、これを日本初のファストバックと呼ぶ人は多い。
スタイリングの秘密は北米にあり?
今はセダンのイメージが強いアコードも、初代の発売当初は3ドアハッチバックのみだった。当時、シビックは今の軽自動車よりも小柄なハッチバックだったが、アコードはシビックよりも余裕のあるボディサイズをいかし、リアゲートの傾斜角を緩くしてあった。その後、アコードは3代目までこのボディをラインアップし続けた。
3代目のハッチバックは、日本ではルーフが長くリアゲートが垂直に近い「エアロデッキ」となったが、北米や豪州市場ではファストバックが継続して売られた。
そんな昔のストーリーを知る筆者にとって、新型アコードのファストバックスタイルは復活と呼べるものだ。ついでにいえばインサイトも、3ドア2人乗りの初代、5ドア5人乗りの2代目ともにファストバックであり、3代目となる現行型はリアゲートがなくなったとはいえ、スタイリングは一貫していると思っている。
ともあれこれで、ホンダのセダンで、トランクがひとつの箱として独立した「3ボックス」は、フラッグシップの「レジェンド」と5ナンバーの「グレイス」だけとなり、残りは燃料電池/プラグインハイブリッド車の「クラリティ」を含め全てファストバックになった。
ちなみにグレイスは、日本以外では「シティ」の名で中国、タイ、インドなどで販売していて、北米には導入していない。レジェンドは、北米ではプレミアムブランドのアキュラで売られる。つまり、北米のホンダブランドのセダンは、全てがファストバックとなったのだ。逆に、アキュラのセダンは全て3ボックスになっていて、差別化を図っていることが理解できる。
なぜ、北米の話ばかりしているのかと気になった読者もいるかもしれない。ただ、ホンダの現行セダンはアコードだけでなく、シビックやインサイトも世界初公開の場は米国である。もちろん、軽自動車や「ステップワゴン」などの日本専用車種もあるが、ホンダにとっては、それだけ北米市場が重要なのだ。
ホンダは1950年代に、まずは2輪車で北米進出を果たした。そのキャリアの長さに加え、現地生産に乗り出したのもトヨタや日産自動車より早かった。初代シビックは不可能といわれた米国の排出ガス規制「マスキー法」を世界で初めてクリアした。近年は米国に本拠を置くホンダジェットが新たな市場を築いている。
金にモノを言わせた進出ではなく、先進的・独創的な発想と技術で米国に地盤を築いたのがホンダという会社だ。ゆえに現地では、スマートでクリーンなイメージが根付いている。ラインアップをファストバックでそろえるブランドとしては、米国のテスラもある。その線を狙ったかどうかは分からないが、ホンダらしい方向性だと思う。
似ているようで違うシビックとアコード
それにしても、新型アコードがシビックやインサイトと似ていると思っている人も多いだろう。そこで、3台の違いを説明していくと、まずアコードのボディサイズは全長4,900mm、全幅1,860mm、全高1,450mmで、シビックセダンの4,650mm×1,800mm×1,415mm、インサイトの4,675mm×1,820mm×1,410mmと大差がある。北米でも日本でも、ライバルになるトヨタ「カムリ」とほぼ同じボリュームだ。
でも、新型アコードのスタイリングは、単純に「大きなシビック」あるいは「大きなインサイト」と呼べるようなものではない。前後のフェンダーの張り出しを強調し、サイドウインドーは後方に向けてせり上がるウエッジシェイプとした2台と比べると、サイドのキャラクターラインはほぼ水平で、むしろリアに向けて下がっている。フェンダーの張り出しも穏やかで、エレガントな姿だ。
もうひとつ気づくのは、フロントピラーの位置がシビックやインサイトよりも後ろ寄りにあること。おかげで、前輪とキャビンが離れた後輪駆動車のようなプロポーションを獲得することに成功している。上級車種ならではのたたずまいだ。
インテリアは広さが目につく上に、仕立ても違う。インパネはドライバーを主役としたシビックやインサイトに対し、左右対称のT字型が基調となる。シルバーやウッドパネルをふんだんに使い、シートはブラックのほかアイボリーの選択を可能として、上質な空間を作り出している。
パワートレインは北米では1.5リッターや2リッターのガソリンターボエンジンも用意するが、日本仕様は2リッターエンジンと2モーターからなるハイブリッドシステム「e:HEV」のみの設定とする。つまり、1.5リッターハイブリッドのインサイトの兄貴分的な存在になる。
2リッター2モーターというスペックは旧型と同じで、力強く滑らかで燃費も良いという高評価も受け継がれていると思われる。しかし、旧型はそれを包み込むボディがなんともオーソドックスで、ホンダらしさが感じられなかった。その点、スマートかつエレガントなボディに一新した新型からは、かつてのアコードが持っていた先進・洗練の雰囲気を感じる。どんな走りを見せてくれるか、今から楽しみだ。