「意のままに動くからかな? すごく気持ちいい。好感が持てる」

トヨタ自動車の新型車「カローラ スポーツ」に試乗している時、安東弘樹さんが口にした言葉だ。「運転は快楽」と語る安東さんだが、このクルマに今後、マニュアルトランスミッション(MT)車が登場すると聞いて俄然、食指が動いたようだ。

※文と写真はNewsInsight編集部・藤田が担当しました

カローラが「全く別のクルマ」に

トヨタが開催した新型「クラウン」と新型車「カローラ スポーツ」の試乗会。長い歴史を持つトヨタの看板商品に立て続けに乗った安東さんは、「カローラの方が好きです、断然」(以下、発言は安東さん)と言い切った。

  • トヨタの新型車「カローラ スポーツ」

最初に乗ったカローラ スポーツは、最上級の「HYBRID G“Z”」というグレード。ハイブリッド(HV)システムを積む排気量1.8Lのクルマで、最高出力は98PS、最大トルクは142Nmだ。

乗り込むなり「標準でタコメーターがあるのはありがたい」と話した安東さんだが、それは「エンジンがどのくらい回っているか、常に把握していたいから」との理由から。ステアリングを握ると、「パドル(指でシフトチェンジできるパドルシフトという装置のこと)は付いてて欲しいなー!」とのこだわりも見せていた。

  • 「標準でタコメーター」に安東さんは好感を持った(画像提供:トヨタ自動車)

走り出すと、「走り味には好感が持てる。MTが出るという話なので(8月2日に発売、試乗したのは7月初旬)、そこは期待したい」と楽しげな様子に。「ステアリングの応答性を含め、今までのカローラのイメージを完全に覆した。全く別のクルマ」というのが運転してみての印象だ。

このグレードで標準装備となる「スポーツシート」は、トヨタが出来栄えに自信を示すフロントシートだ。クルマの乗り心地については、途中休憩があったとしても、続けて「1,000キロ運転できるかどうか」だという独特の評価基準を持つ安東さんだが、このシートについては「座面が少し短いかな」としつつも、おおむね高評価だった。「フットレストも、いい位置にある」ので、「これなら疲れないかも」との感触を得たそうだ。トヨタはカローラ スポーツの開発にあたり、走りの面では「ずっと走っていたくなるような気持ちよさ」を目指したというが、その部分を安東さんも感じ取ったようだ。

「初めてカローラを格好いいと思った」

次に乗った1.2Lのダウンサイジングターボについては、パドルシフトでギアを変えても「あまりメリハリがない」と話していたが、走行モードを「SPORTモード」に変更して以降は「パドルに対するリニアな反応が出てきた」と印象が変わった様子。「HVより運転は楽しいが、願わくばCVTは『デュアルクラッチ』(ポルシェなどのスポーツカーブランドが採用するトランスミッション)にしてくれないかな」と独特の願いも口にしていた。

試乗の最中、同じく試乗中のカローラ スポーツとすれ違った際には、「純粋に格好いい。ヘッドランプの形とか」「生まれて初めてカローラを格好いいと思った」との言葉も。エクステリアカラーとしては「紺色」(ブラッキッシュアゲハガラスフレークという名称)が気に入ったという。

  • 安東さんも気に入ったという「カローラ スポーツ」の外観

“若者のクルマ離れ”について安東さんの見解は

安東さんには好印象だった様子のカローラ スポーツ。このクルマでトヨタが狙うのは、カローラユーザーの若返りだ。

カローラはユーザーの平均年齢が60歳を超えるクルマになっていて、トヨタは今回の刷新で若い世代の取り込みを狙っている。セダンとワゴンに先行させる形で、新しく採用したボディタイプであるハッチバックのカローラ スポーツを発売したのも、トヨタがターゲットユーザーと位置づける「新世代ベーシック層」、つまりは20~30代の顧客にアピールしたいとの考えからだ。この目論見を安東さんはどう見たのか。

「(クルマに何を求めるかといえば)僕は『魔法の絨毯』、つまりは好きな時間に、好きな場所に連れて行ってくれるところ、それに尽きると思っていて、若い人もそういうツールがあったら嬉しいというのは変わらないと思います。だけど、若い人は『買えねーじゃん』と」。これが安東さんが想像する若者の本音だ。「スマホとか、他にお金の掛かるものがある」から、クルマのローンにお金を回す余裕がないのでは、と見る。

  • 若者がクルマを欲しくても買えないのだとすれば、自動車メーカーはどんなクルマを作るかと同時に、どうしたら買ってもらえるような状況を作り出せるかにも知恵を絞らなくてはならないだろう

「僕らが20代前半の頃って、クルマくらいしかお金を掛けるところがなかった。今はスマホでデバイス代を払って、ゲームもやったりすると月々3万円とか。クルマのローン分がスマホ代に消える。そしたらクルマは買えない」。つまり、若者がクルマを買わない理由は、「単純に買えない」からだと安東さんは考える。「魔法の絨毯というクルマの良さはいまだに響くはず」だし、「タダならポルシェだって乗りたいだろう」とは思うが、「現実問題として、税金や駐車場代を含め買えない。維持できない」のが問題だというのだ。

「クルマを安くするしかないけど、それができないとしたら、税金を下げるとか超低金利ローンを設定する、自動車税は35歳未満は免除にする、それくらいしなければ若い人はクルマ、ましてや新車なんて買えませんよ」

“こみこみ300万円”で購入検討リストに

確かに、最初に試乗した「HYBRID G“Z”」というグレードは、車体価格こそ268万9,200円(税込み)だったものの、シートヒーター、ドライブモードをセレクトできる機能、販売店オプションのナビ(9インチ)などを含めると、総額は357万7,133円に達していた。後に乗ったガソリンエンジン車もオプション込みで280万円前後はする。全体としてクルマが高くなっている感じがしていたが、“大衆車”カローラの価格を見て、改めて実感は深まった。

  • クルマのオプションは、モノにもよるが結構な価格になる

とはいえ、ポルシェ「911 カレラ 4S」、ジャガー「F-PACE」に続く3台目のクルマを真剣に選んでいる最中の安東さんは、カローラ スポーツのMT車に「ちょっと、購入リストに上がるレベル」の期待を抱いたとのことだ。3台目候補はMINI(ミニ)「クラブマン」とマツダ「アテンザ」の2台に絞られたかに見えたが、ここへきて伏兵が登場した。

オプションを含めた価格で、クラブマンが600万円程度、アテンザが500万円程度というリストに、カローラ スポーツのMT車が全部込みで(おそらく)300万円くらいで加わるとなれば、悩む気持ちも分かるというものだ。「あの色(紺色)でターボエンジンなら考える。後は実用燃費がどのくらいか。かなり気持ちいいクルマだ」というのが試乗会の後に聞いた安東さんの感想。そんなクルマであっただけに、試乗後のエンジニアとの話もかなり盛り上がった。その模様は本連載の第4回でお伝えしたい。