「バイト」と読むが、BytesではなくBITE(Built-In Test Equipment)のことである。日本語に訳すと「組み込み自己診断装置」だ。ヴィークルがらみの話ではあるが、アビオニクスも対象に含むので、アビオニクスの項で取り上げるのは妥当だろう。

コンピュータでコンピュータをテストする

機械的な可動部分がない、あるいは少ない分だけ故障の可能性が下がるとはいえ、アビオニクス機器についてもやはり、整備・点検は必要である。むしろ、機械的な可動部分がない分だけ動作が目に見えず、トラブルシュートは大変かも知れない。

アビオニクス機器はたいてい、用途別にボックスに収めて、コネクタとケーブルで他のアビオニクス機器と接続するようになっている。最近なら、アビオニクス同士を連接するために機上のデータバスに接続することもあるだろう。

だから、整備点検の際にはそのボックスを取り外して、担当部門に持っていく。そこで動作をテストするわけだが、相手が電子機器だから、接続用のコネクタを通じて電気的な信号を与えて、正しいアウトプットがあるかどうかを調べることで動作を検証することが多いと考えられる。それをコンピュータ制御で自動的に行えれば、検査作業の効率化が図れる。

すると、コンピュータでコンピュータをテストするようなことも起きるわけだ。すると今度は、コンピュータをテストするためのコンピュータを、さらに別のコンピュータでテストして……なんていう無限ループが発生しそうだが、そんな話は措いておくことにして。

効率を考えれば、予備のアビオニクス機器をワンセット用意しておいて、検査のために降ろしたアビオニクス機器の代わりに、とっとと整備済みの予備品を取り付けてしまえばよい。すると、整備のためのターンアラウンドタイムを短縮できる。アビオニクス機器に限らず、エンジンでも用いられる方法である。

降ろさなくてもテストできるのでは?

この考えを発展させると、「どうせコンピュータでアビオニクス機器をテストするのであれば、その仕組みを一式、機上に積み込んでしまえばよいのでは?」という発想が出てくる。そこでようやくBITEの話になる。

つまり、地上でアビオニクス機器を試験するために使用している試験装置をそのまま機上に積み込むとか、さらに考えを一歩進めて、アビオニクス機器の中に当初から試験装置と同じ機能を組み込んでしまうとかいう話になる。これがすなわちBITEである。

BITEを導入した場合、アビオニクス機器の電源を入れて立ち上げた時点で、まずBITEが作動して、機器が正常に機能するかどうかを検査する。もしも不具合が見つかった場合には直ちに警告を発して、機器の交換を求める。その場合、地上でスタンバイしている整備済みの予備品と交換すれば、最低限のダウンタイムで機を正常な状態に戻すことができる。

また、BITEによる自己診断の結果を保存しておいて後で読み出せるようにすれば、故障部位の探求に効果があるだろう。さらに、その自己診断による不具合データを蓄積すれば、故障しやすい機器、あるいは故障しやすい部位に関する統計データを得ることができ、機器の品質改善・整備体制の改善・それらの結果としてコスト低減と可動率の向上、といった成果につなげることができる。

といったところで余談。「可動率」と「稼働率」は別物である。可動率とは、不具合がなく、ちゃんと動作できるかどうかを示す指標である。それに対して稼働率とは、不具合がないにも関わらず稼動していない場合の数字が入ってくる。

だから、「不具合がなく、正常に機能している飛行機だけを飛ばしている」という前提であれば、稼働率が可動率を上回ることはない。逆に、機体が完調であっても、「パイロットがいないので飛ばせない」とか「搭乗率が悪くて減便する羽目になり、機材が余ったので飛ばさずに駐機している」とかいった事情があれば、稼働率は下がってしまう。

この可動率と稼働率、意外と混同している人が多いので注意が必要である。

BITEで得られそうなメリット

それはそれとして。

BITEがあると、いちいち機器を降ろさなくても動作チェックができるわけだから、逆にいえば「検査のために、不具合があるのかないのか分からない機器を降ろす手間を省ける」という話になる。地上で検査する方法だと、機器を降ろして検査機器にかけるまでは不具合の有無が分からないが、BITEがあれば、不具合があるかどうかは機器が機上にあるうちに分かる。

ということは、「○時間使ったら機器を降ろして検査する」という機械的な検査ルールに代えて、「BITEが不具合をレポートしたら代替品と交換、降ろした機器を検査・修理する」というやり方を導入できる。つまり、CBM(Condition-Based Maintenance)である。これで検査・修理の頻度を抑制できれば経費節減になるし、機体のターンアラウンドタイムが減って可動率や稼働率が上がることでも経済的メリットが得られる。

経済的メリットは民航機の話だが、軍用機であれば、同じ機数のままで実現可能なソーティ数が増えるわけだから、その分だけ作戦効率が向上して、大きな戦果を得られる可能性につながる(ソーティとは軍用機の出撃を示す単位で、1機が1回出撃すると1ソーティという)。

そこでさらに電子化したマニュアルを組み合わせて、BITEであれ地上の試験装置であれ、検査の結果とマニュアルの参照を連動させられるようにすれば、さらに効率が向上するかも知れない。つまり「エラーコード○○××が返ってきた」→「画面に表示されたエラーコードのハイパーリンクをクリック」→「電子マニュアルの当該エラーコード説明画面にジャンプ」→「直ちに対処方法を把握できる」というわけだ。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。