こんにちは。eスポーツライターの小川です。
2026年のeスポーツには、どんな変化が期待できるのでしょうか。
その手掛かりは、2025年12月に実施された、半導体産業向けの国際展示会「SEMICON Japan 2025」における特別セッション「eSports Innovators - 未来を切り拓く挑戦者たち」にありました。
同セッションでは、eスポーツ界の有識者12名が3名ずつに分かれて、4つのテーマで議論。4つのうち3つのテーマにおける、印象的なコメントを抜粋しながら「2026年のeスポーツがどうなるのか」を考えます。
まずは前置き:2025年のeスポーツは何があったのか
まずは「2025年のeスポーツ」を総括します。
国内では、国際的な大会が多く開催され、オープン大会(誰でも参加できる大会)も優勝賞金1億円の規模の大会が複数タイトルで実施されました。
eスポーツの「観戦」「参加」がともに活性化した1年だったといえます。
1月には、北海道・札幌の大和ハウス プレミストドームで『Apex Legends』の世界大会「Apex Legends Global Series Championship(ALGS)」が開催され、来場者総数は3万4,000人、札幌市が試算した経済効果は13億円とされました。
8月には、千葉県のLaLa arena TOKYO-BAYで『VALORANT』のアジア圏における国際大会「VCT Pacific Stage 2 Finals Tokyo」が開催され、国内海外から多くのファンが会場に駆けつけました。
3月には両国国技館で『ストリートファイターVI』による優勝賞金1億円の「カプコンカップ」、および「ストリートファイターリーグ: ワールドチャンピオンシップ 2024」が実施されました。年末の12月にはパシフィコ横浜にて『シャドウバース ワールズビヨンド』の世界大会「Shadowverse World Grand Prix 2025」が開催されました。
海外に目を向けると、サウジアラビアで開催された「Esports World Cup」の印象が強く残り、桁違いの賞金規模は、日本のeスポーツ業界のビジネスシーンを中心に大きな影響を与えています。
日本人に馴染みのあるタイトルの少なさと、配信時間帯が深夜であることから、国内での盛り上がりは発展途上ですが、2025年大会のクラブチャンピオンシップ賞金額(上位24チームに対して総額2,700万ドル、優勝チームの賞金は700万ドル)は無視できるものではなく、今後、日本のeスポーツチーム間でも選手獲得競争が激化する可能性があります。
eスポーツの「推し活」は更新できるのか:国内の需要に応えると国外への挑戦機会を失う
ここから本題です――2026年のeスポーツはどうなるのでしょうか。
まず現在のeスポーツシーンにおいて、ファンからプロゲーマー・ストリーマーへの「推し活」は集客面を支える重要な文化です。
ただ、今回のセッションでは、その「推し活」について、いくつかの懸念事項が示唆されました。
「コロナ明け以降の推し活ブームによって、昨今ではファンの方々に支えられて運営できるようになってきた。ただ、いくら推し活がすごいと言っても、日本は少子化している。またいろんな会社がグローバル規模でマーケティングを展開する中で、eスポーツには、グローバル規模のマーケティング予算が降りてきていない」
これは「eスポーツは“推し活”に依存するのは危険」という注意喚起とも捉えられます。
また、国内のニーズに特化させすぎると、グローバル市場への挑戦機会を逃すと解釈できそうです。
「現状は『この選手がいるからFENNELを応援する』だが、理想なのは『FENNELにこの選手がいるから応援する』である。チームの構造自体を推してもらう時代にならないとeスポーツチームは伸びづらい」
Fennelの金山氏は別の視点から「推し活」に言及しました。
「個人にファンがつくが、チームにファンがつかない」は、多くのeスポーツチームが抱える課題です。
「Crazy Raccoon」「ZETA DIVISION」「RIDDLE ORDER」「NOEZFOXX」「MURASH GAMING」などの一部のゲーミングチームには、箱推しへの兆候がみられますが、いくつかのチームは、各チームオーナーの知名度・人気に依存している面もあり、まだ「単推し」の延長線上であるという見方もできます。
2026年のeスポーツ業界のエンタメ領域におけるテーマは「単推し」から「箱推し」への転換。さらには国内の「推し活需要」からの脱却、およびグローバル市場への挑戦といえるでしょう。
「弊社でも2024年から海外のイベント(大崎氏もRAGE初の海外オフラインイベント「RAGE WORLD CHALLENGE in Bangkok」の立ち上げにも参画)を実施している。今後、日本から海外への進出もチャレンジしていきたい」
大崎氏からは、すでに海外市場への挑戦が始まっているという旨のコメントもありました。
平日のeスポーツ大会は成立するのか:「観る文化」の醸成と「会場がない」問題の本質
昨今、土日祝のeスポーツ大会は増えましたが、プロ野球やBリーグのような「平日」開催はほとんどありません。
そこに関連する点を指摘したのが、RAGE 総合プロデューサーの大友氏です。
「観るカルチャーが浸透してきてるかというと、野球やサッカーと比べるとギャップがある。好きな配信者が出るイベントは観たいとはなるが、それらに頼らない形で、日常的にリーグ戦を楽しんでもらえる状況にはなっていない。そこが今後のポイントになる」
ここでの「日常的にリーグ戦を楽しんでもらえる状況」とは、平日にeスポーツの大会が開催され、学業や仕事終わりの観客で埋まることが想定されます。
海外に目を向けると、平日開催のeスポーツイベントはいくつか存在しており、直近では『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』の韓国公式リーグ戦「League of Legends Champions Korea(LCK)」が平日にオフライン開催されています。
この流れで取り上げたいのが「東京都内にeスポーツ向きのスタジアムが不足している」という課題です。
セッション中、司会の平岩氏から「(収容人数の都合で)都内はオフライン大会の実施のハードルが高いように思える。スタジアムとしては『LoL Park(※)』ぐらいのサイズが理想である」と問題提起がありました。
※ 韓国で2018年に設営されたLoL専用のeスポーツ施設。最大500人収容可能なスタジアムに加え、施設内にはカフェやショップが併設されている。
これに対して、大友氏は「都内にも1000人の規模の会場はあるが、その次は1万人以上の規模感になってくる。3,000~5,000人ぐらいの会場が都内にもっと必要」と述べました。
加えて、小林氏からは「eスポーツのイベントは3か月前に決まることもあり、そのタイミングでは会場が空いていない」という補足がありました。
実際のところ、中程度な収容人数であり、十分なネットワーク環境や音響設備、大画面モニターや客席の配置など、eスポーツ向けの諸条件を満たした会場は多くありません。
この直後の平岩氏からの「是非、3社で共同して、スタジアムを作っていただいて」という発言があり(半ば冗談だとはわかりつつも)筆者は心のどこかで期待してしまいました。
将来的に、eスポーツ専用スタジアムの登場は期待したいところですが、本当の問題は「(休日開催の)スタジアムが足りない」ではなく「国内のイベントが土日に偏り過ぎている」であるように思えます。
平日開催の懸念は「集客が上手くいくのか」です。
この課題については(別テーマの議論ですが)「Rakuten esports cup」を主催する楽天グループの川畠氏からの「別軸のKPIを設定することの重要性」がヒントになりそうです。
「弊社の配信では『視聴数』をKPIとして設定していない。重要視しているのは、配信中に『商品がどれだけ売れるか』である」
eスポーツの平日開催のためには「平日開催で失われる数字(来場者数、視聴者数)」に対して「平日開催だからこそ得られる数字」は何なのかを考える必要がありそうです。
2026年は、平日に定期開催されるeスポーツイベントの登場に期待したいところです。
eスポーツは公益性を手に入れられるか:「サ終問題」と「教育的eスポーツの価値」
「eスポーツの未来を考える」のテーマでは、GLOEの古澤氏が「eスポーツタイトルの継続性」について指摘しました。
「プロシーンにはゲームタイトルが必要。営利目的で作られているゲームタイトルをeスポーツではプロシーンなどの“公益性”の高いものにシフトさせて運用している。ゲーム会社さんのロードマップや売上の都合でタイトルが切り替わるのは、eスポーツにとっては課題である」
どんなにeスポーツの現場が熱量を持っていても、ゲームタイトルがサービス終了すると、活動が終了してしまいます。その不安定さがeスポーツ事業者がアクセルを踏み切れない要因であり、投資がしづらいボトルネックになっているのでしょう。
とはいえ、ここ最近は、少しずつゲームタイトルの長寿化が進んでいるようにも思えます。
例えば、これまで「FPSは4年周期で流行タイトルが入れ替わる」と云われてきましたが、『Apex Legends』(2019年)と『VALORANT』(2020年)はともにリリースから5年以上ですが、現在でも人気のタイトルであり、今後もeスポーツシーンの継続が発表されています。
eスポーツ業界の継続のためのキーワードとして、古澤氏から「公益性」という言葉が出てきましたが、それと関連深いテーマである「eスポーツの教育的活用」における有識者の発言もチェックしていきましょう。
「まだeスポーツ業界にはロールモデルが少ない。活躍している人として結びつきやすいのが、プロゲーマーやストリーマーなどだが、実際にはもっと多くの人が関わっている。そこでどんな人がどんな仕事をして関わっているのかをロールモデルとして、学生たちに提示していくのが重要である」
「まずは企業がどのような人材を求めているのかを理解したうえで、それに向けてどんな人材の育てて、社会に輩出していくかを考える必要がある」
「eスポーツをどのようにビジネスに繋げていくか。学生がビジネスを覚える際に、eスポーツがどうやって儲かるのかという授業科目は学生の人気も高く、出席率が高い。法律やSNS上のマナーを学べるので、eスポーツをとおして教育していくのは効果的である」
江村氏、大浦氏、江端氏からは、eスポーツの教育的活用について「eスポーツ業界の職業を透明化することの重要性」「企業ニーズを意識した人材育成の必要性」「eスポーツを切り口にすることで学生の関心が高まる」が語られました。
eスポーツ業界が継続するためには、これらの公益性を意識していく必要があります。
まとめ:2026年はeスポーツチームの合併が進むか
ここからは筆者の予想も交えて、2026年のeスポーツ界の展望を「公益性」と「競技性」の2つの側面から述べます。
eスポーツの公益性については、今回のSEMICON Japanの議論をまとめる形になります。
少しずつ身近な存在になってきた「eスポーツ」ですが、さらなる公益性の獲得において、eスポーツイベントの平日開催の定着は目標の1つとなります。また、教育分野については、eスポーツを活用した学習手法の開拓が進むことでしょう。
2026年は「eスポーツだからできる価値提供」を考える年になるといえます。
eスポーツの競技面については、EWCのクラブチャンピオンシップの存在が強く意識されていくでしょう。2026年のEWCのクラブチャンピオンシップは、賞金総額が前年比300万ドル増の3,000万ドルとなることが発表されており、今後の制度の継続も見込まれます。
結果、世界中でクラブチャンピオンシップに向けた、選手の獲得競争が活発になる可能性がありますが、筆者は「選手の移籍」ではなく「チームの合併」(ジョイントベンチャー)もありえると考えています。
実際、(EWCとは無関係ですが)今年1月、ロサンゼルスを拠点とするゲーミングブランド「100 Thieves」と、日本のゲーミングチーム「Crazy Raccoon」が、ALGSにおける競技活動を統合するためのジョイントベンチャーの締結を発表。このパートナーシップにより新チーム 「100 Thieves Crazy Raccoon」(通称 Crazy Thieves)が誕生しています。
クラブチャンピオンシップには参加条件があり、EWCのパートナープログラム(現状40チーム、日本は「ZETA DIVISION」「REJECT」のみ)に選出されるか、EWC本戦の2タイトル以上でトップ8以上の成績を残す必要があります。
クラブチャンピオンシップの賞金を狙うのであれば、単一のチームに戦力を集中させたほうが合理的なので、そうなると「ZETA DIVISION」「REJECT」(または2025年に賞金を獲得した、唯一の日本チーム「DetonatioN FocusMe」)のどこかに戦力を集中させるか、新たな連合チームが誕生することも考えられます。
チームの体制によっては、組織から「ストリーマー部門」だけを切り離して、分社化、「プロゲーマー部門」同士で合併するというケースも発生するかもしれません。
2025年のクラブチャンピオンシップ上位チーム「Team Falcons」(1位)「Team Liquid」(2位)をはじめとした競合チームを倒すために、国を跨いだ「選手の移籍」「チームのパートナーシップ」に期待です。
















