今後の3〜5年で重視したい「掛け算」とIoTのかたち
―― 今後3〜5年の成長ロードマップを描くうえで、日本市場で特に重視したい領域はどこでしょうか。AIナビゲーション、スマートホーム、サブスク、B2Bなど、いろいろなキーワードがあると思います。
今後の日本市場で特に重視したいのは、「ペット領域との掛け算」です。猫砂が散らばったらルンバが自動で掃除する、見守りカメラと連動するなど、“生活の悩み”を複合的に解決する価値は非常に大きいと考えています。
ポイントは、単なる「アプリ操作のIoT」で終わらせないことです。照明・空気清浄機・ロボット掃除機などが自然につながり、生活の中で“気づいたら便利になっている”状態をつくることが理想です。国内メーカーで、冷蔵庫とレンジを連携させるためにアプリが複数必要だった例がありますが、これは“お客様の価値”ではなく“会社の都合”です。
本来メーカーが目指すべきは、室温が上がったときに「ワンちゃんがいるのでエアコンをつけますか?」と自動で提案が出るような、“お客様にやらせないIoT”。だからこそ、日本の生活者が何に困り、どんな価値を求めているかを深く理解し、それを本社に伝えていく──。それがアイロボットジャパンの最大の使命だと考えています。
「会社が好きな社員」が残った10年をどう次につなぐか
―― ここからは組織とカルチャーについて伺います。新社長として、アイロボットジャパンを今後どのような組織にしていきたいと考えていますか。
山田氏:まず大切にしたいのは「アイロボットらしさ」です。日本法人は数十名ほどの小さな組織ですが、変化の大きかった数年間を乗り越えて社員が残ってくれているのは、「この会社が好きだ」という思いが強いからだと感じています。このカルチャーは守っていきたい。
そのうえで強化したいのは、「お客様の声をもっと早くビジネスに反映する」ことです。たとえばコールセンターでどんな相談が寄せられているのか、KPIだけでなく“中身”をきちんと把握する。リージョン拠点として、お客様のリアルな声を正しく汲み取り、製品やサービスに反映するスピードを上げることが、これからの重要な役割だと考えています。
日本法人10年で見えた「2つのターニングポイント」
―― 2017年の日本法人立ち上げから長く舵取りをされてきた挽野さんにも伺います。この10年間で「最も成果を感じた瞬間」や、「ターニングポイントだった出来事」は何でしょうか。
挽野:来年の2026年3月でアイロボットジャパンは創設10年目を迎えます。この10年は大きく2つのフェーズがありました。
最初の3年間は、日本の組織が総合代理店から完全子会社へ移行する「ポスト・マジョインテグレーション期」。前者は0→1に強いメンバーが多くいた組織に、私のような1→100の役割を持つ人材が入り、チーム作りを進めた時期です。その中で2018年の「ルンバ e5」、2019年の「ルンバ i7」「ルンバ m6」など、市場に大きな影響を与えた製品を生み出せました。
次の3年間は2020年以降のパンデミック期。世の中の混乱の中でも、会社が好きな人が多く価値観が共有されていたことで、リモート中心でも事業を回し続けることができました。巣ごもり需要も追い風となり、世帯普及率10%を達成したのもこの時期です。この2つのフェーズが、私にとっての大きな転機でした。
5年後、「ロボット掃除機の会社だったんだっけ?」と言われたい
―― 最後に、5年後のアイロボットジャパンの理想像を伺います。挽野さんにとって「山田さんに引き継いで本当によかった」と思える姿とはどんなものか。そして山田さんにとって、「自分が引き継いだからこそ、ここまで来られた」と思えるゴールは何か。それぞれ教えてください。
挽野:僕の理想は、「アイロボットで働きたい」と思う人が増えている状態です。もちろん「製品を使いたい」というお客様が増えることも大事ですが、「この会社、おもしろそうだから働いてみたい」と思う若い人がたくさんいて、応募が殺到して「さすがに全員は採用できません」と言えるくらいになっていたら、とてもうれしいですね。
山田氏:私はもう少し具体的に言うと、「アイロボットって、ロボット掃除機のメーカーだったんだっけ?」と言われるくらいの状態を目指したいと考えています。
つまり、ロボット掃除機だけでなく、それ以外の領域でもお客様の生活に自然に溶け込んでいるブランド。B2CだけでなくB2Bの領域でも、さまざまな場面でお客様の役に立っているブランドになっていたい。「いつの間にか、いろいろな場面でアイロボットにお世話になっているよね」と言われるような存在になっていたら、理想的だと思います。
山田氏は、猫・犬・ハムスターと暮らす“ペットオーナー”としての視点を持ち、「ペットトイレとルンバを連動させる」といった生活起点の発想を自然に語っていた。こうした“ユーザーのリアル”を基点とするアイデアこそ、今後のアイロボットジャパンがグローバルに発信できる価値であり、次世代のロボット掃除機像を形づくる力になると感じた。
一方で、中華勢が「価格×スペック」で攻勢をかける現状は厳しい。正面から消耗戦を挑めば勝機は薄いだろう。だからこそ、山田体制が掲げる“スペック競争から体験価値へ戻る”という方針は、アイロボットだけでなく日本の家電業界全体への示唆にもなる。
市場は成熟し競争環境も厳しいが、山田氏が最後に語った「もう一度お客様に向き合うところからやり直す」という言葉には、確かな手応えがあった。今回のインタビューを通じ、アイロボットが次に向かう方向性が少しだけ見えた気がしている。家電スペシャリストとして、そして一人のユーザーとして、その挑戦をこれからも追いかけていきたい。


