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ヒット商品連発! キリンビールのマスターブリュワーが明かす、"本当においしいビール造り"の裏側

Updated DEC. 25, 2025 18:12
Text : 加賀章喜
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キリンビールでビール醸造における最高責任者“マスターブリュワー”として活躍し、スプリングバレーを立ち上げた田山智広氏。おいしいビールづくりにこだわり続けてきた同氏に、これまでの歩みと日本のクラフトビールの“いま”について伺った。

  • キリンビール マスターブリュワー 田山智広氏の歩みとビールへのこだわりを伺った

身近な存在になったクラフトビール

この10数年で、クラフトビールは非常に身近な存在になった。以前はクラフトビールを飲もうと思うと限られた専門店に行くしかなかったが、いまでは街角にクラフトビールを扱うバーがあり、コンビニやスーパーに行けば国内外のクラフトビールが手に入る。クラフトビールブームを牽引したビールのひとつである「ブルックリンラガー」も、いまでは気軽に楽しむことが可能だ。

  • 米国の代表的なクラフトビールメーカー、ブルックリン・ブルワリーの「ブルックリンラガー」

その背景には、クラフトビールを普及させるために尽力してきた人たちがいる。キリンビールのマスターブリュワー、田山智広氏もそんな一人だ。田山氏はキリンビールのクラフトビールブランド「SPRING VALLEY BREWERY(スプリングバレーブルワリー)」を立ち上げた第一人者だ。

最近では、キリンビールの会員制 生ビールサービス「Home Tap (ホームタップ)」で「常陸野ネストビール ブルワーズクラフト へレス」を監修するなど、ビールへのこだわりをさらに加速させている。

  • 会員制 生ビールサービス「ホームタップ」で楽しめるつくりたて生ビール

今回、東京都中央区にあるブルックリンブルワリーのビアバー「B by the Brooklyn Brewery」で、田山氏とお話しできる機会をいただいた。同氏のこれまでの歩みとともに、クラフトビールとはなにか、そしてクラフトビールの現在と今後について紐解いていきたい。

賞味期限60日のチルドビール「まろやか酵母」

田山氏は、1987年にキリンビールに技術職として入社、滋賀工場からキャリアをスタートし、「一番搾り」の立ち上げに関わった。そしてR&D部門に異動、ドイツのベルリンに留学しビールづくりについて2年間学んだのち、横浜工場で醸造を担当。「キリンオールモルトビール<素材厳選>」などを立ち上げる。

2001年からは念願だった商品開発研究所に移り、3年間商品開発のリーダーとして活躍。「淡麗 グリーンラベル」や「淡麗 プラチナダブル」、現在の「とれたてホップ 一番搾り」といったいまも続くヒット商品をはじめ、さまざまなビールづくりに携わった。

「一番思い入れがあったのは『まろやか酵母』ですね。これはキリンビールとセブン-イレブン・ジャパンで共同開発した賞味期限60日のチルドビールで、瓶やキャップも専用開発し、物流にまでこだわりにこだわり抜いた商品でした」(田山氏)

  • 田山氏は思い入れのある製品として「まろやか酵母」を挙げる

画期的なチルドビールだが、本当に売れるかどうかは分からない。そこで東京都内のわずかな店舗から販売をスタート。好感触から徐々に販売エリアを広げ、最終的に全国の販売チャネルで10年ほど販売されたが、管理や流通の難しさから、惜しまれつつも終売となる。

2004年に田山氏は経営企画部に移動し、長期経営計画の策定に従事。しばらく“ロッカーで着替えないサラリーマン人生”を歩む。ここで提案した健康機能性食品を第4の柱とする方針は、現在のヘルスサイエンス事業に繋がっている。

リアルエールのおいしさを目指した「GRAND KIRIN」への挑戦

その後3年間、ヤクルトとの合弁会社に出向したのち、田山氏は研究開発部門に異動。再びビール開発の現場へと舞い戻ってきた。

新たに開発に携わったのは、ポストまろやか酵母ともいえる「GRAND KIRIN (グランドキリン)」。こちらもセブン-イレブン・ジャパンとの共同開発だ。

「『まろやか酵母』がうまく回らなかったという反省から、今度は賞味期限60日ではなく、常温で流通できるようにしました。ボトルの形も少し変えて、コンビニの500ml缶の棚に収まる高さは維持しつつ軽量化も行って、グッドデザイン賞もいただいています」(田山氏)

目指したのは、通常の物流でありながらも「お客さまが飲んだことのないような、おいしいビール」。それはどんなビールだろうか。田山氏は、長年温めてきたアイデアとして「リアルエール」を提案する。

リアルエールとは、イギリス発祥の伝統的な製法で作られるエールビールのこと。工場での一次発酵を終えたビールを樽に詰め、腐敗を防ぐためにも防腐作用があるホップを投入する“ドライホッピング”を行い、樽の中で熟成させるのが特徴だ。

生きた酵母を瓶や樽に詰めるため、熟成の度合いによって味が変化していく魅力があるリアルエール。飲み頃になったらパブのマスターが樽を開栓し、ハンドポンプで提供するのだが、それゆえに品質管理が難しく、現代では廃れつつあった。

「イギリスではリアルエールのファンが立ち上がって、リアルエールの協会を作りました。ロンドンでは毎年、リアルエールフェスティバルも開催されています。私も1992年ごろに初めてそこに行ったんですけれども、ときどきすごくおいしいビールがあって感動したんですよ。いつか自分もこういうビールを手がけたいなと思っていました」(田山氏)

  • グランドキリンのコンセプトはリアルエールの再現だったという

とはいえ、大手のビール会社でこれを実現するのは非常に難しい。ある意味、小さな規模だからこそ可能なつくり方だからだ。だが、リアルエールでしか得られないおいしさは間違いなくある。田山氏はこの味を「GRAND KIRIN」でなんとか再現したいと思った。

近代化によって自動化の進んだビール工場の中で、効率を落とすことなく、かつ品質管理上の問題なく、リアルエールの味わいを再現するにはどうしたら良いのか。田山氏が同僚とともに考え出したのが「ディップホップ製法」だ。

一般的なピルスナーの製法では、麦汁を煮沸する工程の中でホップが添加されるが、ディップホップ製法では煮沸後、麦汁が十分に冷めてから酵母とともにホップを添加する。これによってドライホッピングの良さである豊かな香りを乗せつつも、雑味がなく、苦すぎず、かつ飲み飽きない味を実現した。

こうして2012年6月に発売されたのが「GRAND KIRIN」だ。その後、缶での展開や季節に合わせた期間限定商品なども発売されたが、現在は終売している。

クラフトビールは「つくり手を思い浮かべて飲むビール」

「GRAND KIRIN」開発後、2012年にマーケティング部に異動した田山氏。それから13年間、同氏は変わらずクラフトビールの啓蒙を続けている。

2015年に立ち上げた「スプリングバレー」には“クラフトビール市場の活性化を目指す”という思いが込められており、まさに田山氏の思いが結実した結果だろう。そして2016年には“マスターブリュワー”という立場につき、クラフトビールとナショナルブランドの両方を見るようになった。

いま日本のクラフトビールは非常に盛り上がっているが、実は市場はそれほど大きくなっていない。一方でクラフトビールのつくり手は増加しているという。とくに質的な変化は大きく、もともとクオリティの高かった老舗だけでなく、つくり手全体の向上が著しく、海外の評価も上がっているそうだ。

昔はごく一部の専門店でしか飲めなかったクラフトビールが、いまではちょっと街を歩けば飲むことができる。毎週のようにビアフェスが開催されるようになり、つくり手はさまざまな味を知ることができる。

これによってビールづくりの情報を得やすくなり、インフラが整い、コミュニティが醸成され、グローバル化も進んだ。フットワークの軽いつくり手は、海外の醸造所に直接アクセスし、最新のビールづくりを学んで帰ってくる。日本のクラフトビールは、非常に面白い状況にある。

「最近では、開業わずかなブルワリーが国際コンペティションで金賞を受賞するなどの事例も多く耳にします。非常にドラマチックで、そういうブルワリーがスピード感を持って作り続けているのは本当にすばらしいと思います」(田山氏)

最後に田山氏にクラフトビールの定義について聞くと、次のような答えが返ってきた。

「僕にとってクラフトビールかナショナルブランドかは関係がないんです。ビールはビール。でもお客さんの視点で表現するならば、『つくり手を思い浮かべて飲むビール』ではないでしょうか。もちろん、つくり手とは個人に限りません」(田山氏)


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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