シャープは、2027年度を最終年度とする中期経営計画を発表した。
2027年度には、営業利益800億円、営業利益率7%を計画。売上高は1兆8500億円を想定している。シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、「中期経営計画を着実にやり遂げ、再成長を実現するとともに、将来の飛躍に向けた確かな基盤を構築する。シャープらしい新たな価値を次々と提案していきたい」と意欲をみせた。
また、ディスプレイデバイス事業の再編として、液晶パネルの生産拠点で、亀山モデルの基幹工場となっていた亀山第2工場を、2026年8月までに鴻海に譲渡する計画も明らかにした。譲渡価格については現時点では決定していないという。
さらに、現在の本社がある大阪府堺市の本社工場棟の売却したことにあわせて、2026年3月をめどに、大阪市中央区に本社を移転することも明らかにした。堺筋本町のJTBビルに入居する予定だ。
新たな中期経営計画、「再成長」と「飛躍」に取り組む
新たな中期経営計画では、「ブランド事業のグローバル拡大と事業変革の加速」、「持続的な事業拡大を支える成長基盤の構築」、「成長をドライブするマネジメント力の強化」の3点を重点テーマに掲げ、「競争力の向上を図るとともに財務基盤の改善を進め、再び成長軌道へと舵を切る」との基本戦略を打ち出した。
シャープは、2024年度を構造改革の1年と位置づける一方、2025年度から2027年度までの3年間を「再成長」の時期とし、2028年度以降の「飛躍」へとつなげる考えだ。
ひとつめの「ブランド事業のグローバル拡大と事業変革の加速」では、従来は3つに分かれていたブランド事業の体制を、スマートアプライアンス&ソリューション、テレビシステム、エネルギーソリューション、センサーデバイスで構成し、「暮らす」の領域にフォーカスした「スマートライフビジネスグループ」と、ワークプレイスソリューション、コンピューティングソリューション、モバイルコミュニケーションにより、「働く」の領域での新たな価値創造に取り組む「スマートワークプレイスビジネスグループ」の2つに再編。沖津社長兼CEOは、「スマートライフビジネスグループでは、強みを活かせる領域にリソースを集中するとともに、他社との協業により、グローバルにSHARPブランドを拡大していくほか、多様なAIoT機器群を核に、より多面的なデータを活用したビジネスモデルへの転換を図る。また、スマートワークプレイスビジネスグループでは、ITと通信を融合し、新たなプロダクトやサービスを生み出し、ソリューション型ビジネスへの転換を加速。新規事業の立ち上げにも集中的に取り組む」と語った。
スマートライフビジネスグループでは、「あなたの明日を、もっとあなたらしく、ワクワクする日々に」をビジョンに掲げ、2027年度に売上高で7020億円(2024年度実績は6440億円)、営業利益率は6.0%(同3.4%)を目指す。さらに、AIoT家電で累計1450万台、COCORO MEMBERS会員数で1300万人以上、AIサービス利用者数で400万人以上、そのうち有償プラン利用率で5%以上を目指す計画も明らかにした。
最重要取り組みとしてAIoT事業をあげ、現時点で累計1000万台を突破したAIoT家電において、生成AIに対応した商品を続々と投入。「将来的には、AIを活用して商品の形自体も大きく変えていきたい」と述べた。また、商品別に分断していたデータを統合。2025年度からは生成AIを利用した新たなAIサービスの展開や、暮らし全体をサポートする独自のAIサービスの事業化にも挑戦するという。「スマホを活用しながら、生成AIを活用し、より利便性を高める。生成AIによって、UIをさらにシンプル化できるメリットもある」としている。
また、美容においては、プラズマクラスタービューティーシリーズを軸とした商品ラインアップの拡充、ボディケア商品などの新規カテゴリーへの挑戦に加えて、ブランドコミュニケーションの再構築にも取り組む。さらに、健康においては、独自の非接触センシング技術を核とした新規事業への挑戦を進める。
海外事業では、ASEANにおいては高付加価値化に取り組むとともに、テレビ事業のサプライチェーンの効率化を推進。インドネシアでの成果を、ASEAN全体に広げていくという。米州では、ドロワーレンジでの強みを生かして、キッチン家電市場における主要カテゴリー分野への参入や、商品力の強化を推進。中近東やアフリカでは、エジプトのエルアラビとの戦略的協業を強化するという。
スマートワークプレイスビジネスグループでは、「テクノロジーとネットワークで、世界中のコラボレーションを強化する」をビジョンに掲げ、2027年度に売上高で8380億円(2024年度実績は8364億円)、営業利益率は7.2%(同6.0%)を見込む。また、スマートビジネスの売上構成比を2024年度の16%から、2027年度には30%に引き上げる。
AIや特長技術を活用したスマートプロダクト、SaaSを中心としたDXサービス、プロダクトとサービスを組み合わせたハイブリッド型ビジネスを展開。オフィス、リテール、ロジスティクス、パブリックの4つの産業領域を中心に事業を推進する。
オフィス向けの取り組みとしては、MFPやノートPC、スマホにおける商品力の向上やラインアップの拡充、販売やサービスの強化を図るほか、M&Aによる欧米市場におけるマネージドプリントサービスの強化、PC向けに展開しているライフサイクルマネジメントの連携商材の拡大によるオフィス丸ごと提案、議事録作成支援ソリューション「eAssistant Minutes」をはじめとした独自AI技術「CE-LLM」を活用した新たなDXソリューションの展開などにより、スマートビジネスを重点強化していくという。
さらに、リテール向けDXサービスを強化。モバイルOSを活用したDX機器やクラウド型サービスの開発、POSや決済端末、ハンディターミナルなどをトータルパッケージとして提供するリテールソリューションプラットフォームの構築を進めるという。また、ロジスティクス向け事業では、自動化および無人化ソリューションの活用や、1000台超の自動走行ロボットを最適制御する独自システムなどを通じて、物流倉庫や工場のDXを推進。コンサルティングサービスから提供する体制も整えるという。また、衛星通信事業として、スマホで培った小型軽量化技術を活用して、世界最小レベルの低軌道衛星通信端末を開発。船舶領域を中心に、次世代通信分野に参入する。将来的には建機や農機、自動車、ドローンへの搭載を視野に入れた技術開発を進め、端末だけでなく、独自ソリューションの創出にも取り組むという。
一方、ブランド事業への投資を強化。今後3年間で、これまでの2倍以上の成長資金を投下する考えを打ち出し、ASEANや米州における工場の生産能力増強、既存事業の競争力強化のほか、AIやITソリューションビジネス、ロボティクス、AIoTサービス、美容・ヘルスケアなどの成長領域におけるM&Aも積極的に展開し、事業変革を加速する姿勢も示した。 「かつては、デバイス事業への投資の比重が高く、ブランド事業への投資が制限されていたが、アセットライト化により、ブランド事業に投資を拡大できる体制が整いつつある」と述べた。ブランド事業に対しては、3年間で約1800億円の投資を見込んでいる。
成長基盤としてEVやAI、研究開発の比重を高める
2つめの「持続的な事業拡大を支える成長基盤の構築」では、競争力の源泉となるコア技術の開発を加速し、再成長や将来の飛躍に向けた基盤を構築する方針を打ち出した。
全社横断プロジェクトである「I-Pro」を通じて、EVやAIに関する3つのプロジェクトを推進しているが、特長技術や新規事業の立ち上げをさらに加速。AI研究開発専門組織の立ち上げや、国内外の大学および研究機関、スタートアップ企業との連携強化も進めていくという。
「エッジAI、通信、画像解析、エネルギー、QoL、マイクロフォトニクスなどの特長技術をより深化させ、将来技術の探索や、新たなイノベーションの創出に重点を置いた研究開発の比重を高める。暮らす、働くといった領域での新たな事業展開や、モビリティ、宇宙などの新産業への挑戦にもつなげる」という。
ここでは、独自AI技術である「CE-LLM」について触れた。
CE-LLMは、迅速な応答性や強固な安全性を強みとする「エッジAI」と、深い思考力や広い汎用性を強みとする「クラウドAI」を、用途に応じて切り替えて活用することができるAI技術で、シャープの様々な機器から収集した「利用履歴や保存データなどの過去の情報」と、「機器の状態やセンシングデータなどの現在の情報」を活用して、ユーザーの環境に合わせた最適なソリューションを提案できるという。また、エッジAIの性能向上やLLMの小型化により、エッジ側での処理を増やすことで、顧客に寄り添った価値提供が可能になるとしている。
さらに、AI人材やデジタル人材、グローバル人材などの育成、獲得に注力。従業員エンゲージメントの大幅向上を目指す考えも明らかにした。
3つめの「成長をドライブするマネジメント力の強化」では、2025年4月に実施した組織変更に合わせて、コーポレートとビジネスグループの役割と責任を明確化したことに触れ、「経営スピードのさらなる向上とともに、事業の成長を強力にドライブしていく」と述べた。
また、シャープでは、2028年度以降の「飛躍」に向けて、成長が期待される新産業領域でのNext Innovationの具現化にも取り組む方針を打ち出した。
鴻海のリソースを有効活用しながら、EVやAIデータセンターソリューション、インダストリーDX、ロボティクス、宇宙などの分野にも踏み出す。「EVについては、事業化ができるかどうかを、この中期経営計画期間中に見極める。AIデータセンターはスタートしたばかりだが、さらに進捗していけば、I-Proとして、全社の力を集中させることも考えられる」と述べた。
亀山第2工場を売却、亀山第1と白山は車載やXR、産業用途に集中
なお、亀山第2工場の売却を発表したディスプレイデバイス事業については、亀山第1工場および白山工場を活用し、競争優位を持続できる「車載」、「XR製品などのモバイル」、「産業用途」に集中した事業展開を進めていくという。
亀山第1工場では、成長している車載用LCD需要に対応し、車載専用工場として活用。超低反射やデュアルビュー、クリックディスプレイなどの特長技術の開発を加速するとともに、ベトナムの実装拠点の生産能力を増強し、地政学リスクを背景とした完成品メーカーの調達網再構築需要を取り込み、大型および高付加価値の車載ディスプレイの受注拡大を図るという。
また、白山工場では、IGZO技術を導入するなど、特長技術を結集することで、大きな成長が期待されるXR向けの超高精細LCDの量産や、車載用超低消費電力ディスプレイ、高画質ePosterなどの高付加価値製品を供給する考えを示した。
さらに、三重第3工場では、すでに日産1100枚にまで規模を縮小しているが、最終的には試作ラインだけを残すことになるという。
亀山第2工場については、鴻海に譲渡したあとも、現在、シャープが提供している重点顧客向けのパネルを鴻海から調達し、販売する予定だ。「鴻海との話し合いによって、重点顧客向けの製造が継続できないということになれば、一定量を作りだめして、それを供給しながら、話し合いを進めることなる」とする一方で、「ボラティリティの高い亀山第2工場を譲渡し、固定費の大幅削減を図るとともに、高付加価値商品の販売を拡大することで、2026年度には黒字転換を目指す」とした。
これらの取り組みによって、ディスプレイデバイス事業は、2027年度の売上高が3100億円(2024年度実績は4517億円)、営業利益率は1.8%(同マイナス5.8%)を見込む。
シャープでは、新たなミッションとして、「誠意をもって人々の日常を見つめ、創意をもって新たな体験を提案する」を掲げた。
沖津社長兼CEOは、「かつては、『目の付けどころがシャープでしょ』の言葉の通り、他社とは一味違った『シャープらしい商品』を次々と生み出してきた。成功したものばかりではないが、違いを生み出す力こそが、シャープらしさであり、競争力の源泉であると考えている。経営危機やマネジメントの変化などを背景に、シャープらしさが徐々に失われつつあると感じており、その危機感から、社長就任時に、再びシャープらしさを取り戻すことを使命に掲げた。シャープらしさの根幹にあるのは、創業者である早川徳次の精神、経営理念、経営信条であり、これにこだわりながら事業活動に取り組もうと、社員に呼びかけてきた。この精神が少しずつ社内に浸透しつつあるように感じている」とした上で、「このミッションを共通の合言葉に、日々の事業活動において、創業の精神や、経営理念、経営信条にこだわり、シャープらしい価値創造に取り組む」と宣言した。
シャープのDNAである「目の付けどころ」と「特長技術」に加えて、鴻海傘下で培った「スピード」を、3つの強みとして、「あなたらしく暮らす」、「共創的に働く」という観点からの提案を進め、「独創的なモノやサービスを次々と生み出すだけでなく、新たな文化をつくる会社へと成長していきたい」と抱負を述べた。
2024年度(2024年4月~2025年3月)業績、デバイス課題も黒字化
一方、シャープが発表した2024年度(2024年4月~2025年3月)の連結業績は、売上高が前年比7.0%減の2兆1601億円、営業利益は前年度のマイナス203億円の赤字から273億円の黒字に転換。経常利益はマイナス70億円の赤字から176億円の黒字となり、当期純利益は前年度のマイナス1499億円の赤字から360億円の黒字に転換した。
沖津社長兼CEOは、「2024年度のブランド事業は、3セグメント(スマートライフ&エナジー、スマートオフィス、ユニバーサルネットワーク)すべてが増収となり、営業利益も円安によるマイナス影響があるなか増益となった。全社トータルの売上高は前年度を下回ったが、営業利益、経常利益、最終利益はいずれも大きく改善して黒字化した。また、売上高、各利益ともに公表値を上回っている。アセットライト化や2025年度以降に向けた基盤の構築についても着実に進展した」と総括した。
セグメント別業績では、ブランド事業の売上高が前年比10.0%増の1兆4804億円、営業利益は23.1%増の816億円となった。
そのうち、スマートライフ&エナジーは売上高が前年比2.0%増の4613億円、営業利益は26.8%減の203億円となった。「ASEANで、家電の大型モデル、高付加価値モデルの販売拡大や欧米での調理家電の伸長などにより増収となった」という。スマートオフィスは、売上高が前年比16.9%増の6806億円、営業利益は43.6%増の426億円。Windows 11への切り替え特需の追い風のなか、法人向けプレミアムモバイルノートPCが好評で販売が拡大したという。また、日本や欧州でのオフィス向けソリューションが伸長したという。
ユニバーサルネットワークは、売上高が前年比8.5%増の3385億円、営業利益は110.4%増の186億円となった。スマホのAQUOS wish4や、AQUOS R9の販売が好調に推移。テレビ事業では海外で売上げが伸長したほか、国内でもXLEDやOLEDモデルが堅調に推移したという。 デバイス事業の売上高は前年比30.2%減の7093億円、営業利益は前年度から354億円改善したがマイナス347億円の赤字となった。
「デバイス事業全体では減収となったものの、ディスプレイ事業の構造改革が進み、営業赤字が大幅に縮小した」という。
ディスプレイデバイスは、売上高が前年比17.5%減の5071億円、営業利益は前年度のマイナス832億円の赤字から改善したものの、マイナス405億円の赤字が残った。また、エレクトロニックデバイスは、売上高が前年比49.6%減の2022億円、営業利益は前年比56.3%減の57億円となった。
沖津社長兼CEOは、「2024年度は構造改革の1年としたが、黒字化するという社員の共通意識のもとで、アセットライト化を行い、資産売却も完了した。その成果をもとに、2025年度は予定通りのスタート台に立てるところまできた。だが、ブランド事業のなかでも、国内テレビ事業は黒字化し、年間トップシェアを獲得したものの、海外テレビ事業は改善の余地があり、マレーシア工場を閉鎖し、ODMからの調達に切り替えて、これから利益改善が進む。また、エネルギー関連など、業績が悪いものも残っており、ここでは国内事業に集中する必要がある。デバイス事業も中小型ディスプレイにおいて、さらなる改革が必要である」などとした。
2025年度(2025年4月~2026年3月)見通しは減収減益、関税が不透明
シャープでは、2025年度(2025年4月~2026年3月)連結業績見通しとして、売上高が前年比14.1%減の1兆8500億円、営業利益は同26.8%減の200億円、経常利益は前年比71.2%減の50億円、当期純利益は同72.3%減の100億円と、減収減益の見通しとした。
「現時点では、米国における関税の影響を具体的に予見することが難しいため、保守的な業績予想を立てている」という。
営業利益は、前年比で73億円の減益となるが、スマートライフは、生成AI対応家電の拡販や海外での販売拡大、構造改革効果などにより、130億円の増益計画。スマートワークプレイスは、クロスセルの推進や新規事業の拡大に取り組むが、Windows11切り替え特需の反動や、米国における関税政策の影響懸念があることなども踏まえて、170億円の減益を想定。ディスプレイデバイス事業は、白山工場における高付加価値商品の投入拡大や、亀山第1工場における大型車載パネル比率の向上、構造改革効果などにより、71億円の増益を見込んでいる。
なお、資産売却益については、2024年度に、ソフトバンクによるシャープ堺工場の土地および建物で1000億円、2025年度にはKDDIへのシャープ堺工場の一部売却で100億円、積水化学への本社工場の売却で250億円、三重第一工場の売却で70億円を想定している。
今回、シャープが発表した2027年度を最終年度とする中期経営計画は、「再成長」と位置づけているが、売上高は2025年度目標で2桁減の1兆8500億円。しかも減益の計画だ。そして、最終年度となる2027年度も売上高は1兆8500億円と横ばいの計画だ。営業利益は2025年度の200億円から、2027年度は800億円となるが、トップラインの成長が見られないだけに、「再成長」の期間と言い切れない。言い換えれば、もうしばらくは体質強化の時期が続くことになる。