こんにちは。eスポーツライターの小川です。
スマホゲームが冬の時代を迎えています。2022年は、世界のスマホゲーム市場規模が前年比2.8%減の8兆9146億円となり、成長が停滞。国内においても、家庭用ゲーム機やPC向けゲームの市場規模が拡大するなか、多くのスマホゲームが減収、サービス終了を余儀なくされています。
そんななか、先行体験会に長蛇の列をなす、2025年注目のスマホゲームが現れました。
『ウマ娘』で有名なCygamesによる新作デジタルカードゲーム。約1年のリリース延期を経て、ついに正式にリリース日が発表された『Shadowverse: Worlds Beyond』です。3月23日には、ベルサール秋葉原で体験会イベントが開催されました。
なぜ、ここまで話題なのでしょうか。半年前の記事【かつて話題を呼んだ「賞金1億円」のeスポーツ『シャドバ』の現在とこれから】の内容を振り返りつつ、考察します。
前回のおさらい:メタバース「ワールド機能」に向けられたファンからの批判
実のところ『Shadowverse: Worlds Beyond』は、半年前の「リリース延期の発表時」にプチ炎上しています。
特に、カードゲームがメインコンテンツである『シャドウバース』に、メタバース要素(MMO要素)が追加されることについて、ファンの間で物議を呼びました。
【前回の記事から引用】
リリース延期の具体的な理由は明かされていませんが、ファンの中では「カードゲーム部分は完成しているものの、メタバース要素の開発の遅れが原因で延期した」という憶測があります。
当初の予定どおりリリースされるならまだしも、「延期の理由」=「メタバース要素」であるような見え方になってしまったことで、ファンから歓迎されるような形にはならなかったようです。
「そんな(余計な)ものをつけるより、さっさとリリースしてくれ」という機運になってしまったのは、Cygamesからすると想定外だったでしょう。
【前回の記事から引用】
個人的にはこのメタバース要素(公式では「ワールド機能」)が気がかりです。ちょっとしたおまけ要素であればよいのですが、SNSやサードプレイスに近い形での大規模なプラットフォームとしての運用を想定しているのであれば、かなり挑戦的です。
当時を思い返せば、新要素そのものが批判されていたのではなく、「リリース延期の発表」(ネガティブな情報)を「新要素の発表」(ポジティブな情報)でダメージコントロールしたように見えたことがファンたちの逆鱗に触れ、批判の矛先が新要素に向かったのかもしれません。
前回のおさらい:ミニゲーム要素(麻雀・釣り)の是非
ミニゲーム要素(麻雀・釣り)については、ファンから「ちょっと楽しみ」という意見もあり、賛否はあるが「頭ごなしに否定されるものではない」という温度感だったように思えます。
【前回の記事から引用】
シャドバ部分とミニゲームの主従関係が逆転しないよう、「ミニゲーム新規をシャドバに流す」といった導線設計は必要不可欠。
ただ、カードゲーム部分の品質が肝心であることは、言うまでもありません。
カードゲーム部分のおもしろさが不十分であれば、「ミニゲームを実装するぐらいならカードバランスを調整しろ」と批判の矛先にもなりえます。
【前回の記事から引用】
いち個人の意見としては、「シャドバでは限界があるから、ミニゲームやプラットフォームでユーザー数を増やそう」ではなく「シャドバの魅力を最大化するためにも、このプラットフォームが必要」の考えで作ってくれることを願っています。
カジュアルに遊べるソシャゲであり、競技的に遊べるeスポーツでもある『シャドウバース』には、異次元レベルの神がかり的なゲームバランスが求められます。
旧型『シャドウバース』の環境後期は、そのバランス感覚を逸していたように思えます。
個人的には、ミニゲームを緩衝材にするのではなく、徹底的にカードゲーム部分のバランスを見直して「最高のカードゲームを作って、それ1本で勝負する」ぐらいの意思表示が欲しかったところでした。
リリース日の決定、メタバースとミニゲーム要素の見直し
ここからは、新たに発表された情報をもとに考察していきます。リリース延期の発表から約6カ月後の2025年3月13日、正式リリース日が「2025年6月17日」と発表されました。
発表時の情報では、新要素は全般的に「見直した」とされており、メタバース要素は仮想空間「シャドバパーク」として、コンパクトな形で再構築されたことが明らかになりました。
また、ミニゲーム要素は「ギルドラウンジ」における「サッカー」のみと発表されました。(今後、ミニゲームが追加される可能性については示唆されているものの)現時点では「縮小した」と解釈できます。
前回の記事では、筆者も「麻雀が実装されれば、Mリーグとのコラボが想定される」などの前向きな展望を書きましたが、本心では、「麻雀の人気に便乗するのではなく『麻雀を倒す』ぐらいの気概で新作を作ってほしい」という想いでしたので、今回の発表には肯定的です。
「ファンの声」を踏まえて新要素は見直された?
新要素が「見直された理由」については、明らかにされていません。
実態としては「Cygamesがリリース延期の発表とともに開発中の情報を公開した」「ファンから様々な反響があった」「諸々の事情を考慮して、Cygames社が判断を下した」ということになります。
筆者の推測にはなりますが、Cygamesがファンの声に耳を傾け、ファンの要望を汲み取り、ファンの最大の願いである「リリース日の確定」を実現したという可能性もあります。いずれにしてもCygamesが「ファンの声を取り入れる機会」を得たのは事実です。
一般的なゲームの開発過程において、今回のような「ファンからフィードバックを得る」タイミングはあまり設けられません。
これはゲーム業界のコンプライアンス意識が高く、開発中は極めて高い機密性が求められるからです。
「機密性の高い」ゲーム開発において「プロセスエコノミー」は成立するのか
昨今のコンテンツ制作・エンタメ業界においては、マーケティングの一環として、制作過程をファンと共有して、ファンとのエンゲージメントを高めるという、プロセスエコノミー的な手法が取り入れられています。
機密性が重んじられるゲーム開発と、プロセスエコノミーの嚙み合わせは悪く、開発過程でファンやコミュニティを関与させることは、ほぼ不可能といえるでしょう。
オープンβテストなど、リリース直前にユーザーにプレイさせる開発手法こそありますが、そのタイミングでは大幅な方向転換ができる段階を過ぎていることが多く、制作過程にファンを巻き込むようなプロセスエコノミーには当てはまらないと考えます。
結果的に、多くのゲームが出たとこ勝負になっています。これが飽和期・衰退期となった市場で、多くのスマホゲームが失敗している理由の1つでもあるでしょう。
Cygamesも同様に機密性を重んじているゲーム開発会社ではありますが、今回は「リリース延期の発表」と合わせて「開発過程の公開」をしたことで、思いがけず「ファンの声を取り入れる機会」を得たことになりました。
また、先行体験会のイベントの後半では、プロデューサーが「視聴者からのQ&A」に回答するコーナーも設けられており、今後もCygamesは「ファンとの対話を続けていく」という意思表示をしているようにも見受けられました。
これから『Shadowverse: Worlds Beyond』がどのような変化を遂げ、どのような対話を(ファンと)続けていくのか、注目が集まります。