USB充電器やモバイルバッテリーなどで知られるUGREENが、NASキット「NASync」シリーズを発表。ストレージ機器は門外漢のメーカーなのでは…?と思ったのですが、ボディはコンパクトで質感が高く、SDカードスロットや各種USB端子も備えるなど、ハードウエアは競合メーカーの製品を研究し尽くしたと感じさせる仕上がりでした。スマホやタブレットでも機能や使い勝手に制約がなく扱えるのもイマドキで好印象。デジカメやスマホで撮影した動画や写真を確実に保存し、外出先や家族の間で参照したい人に向く製品だと感じました。各種クラウドストレージへの保存とは異なり月額料金は不要で使え、プライバシー漏洩の心配がないのも見逃せません。

  • USB充電器で定評のあるUGREENからNASキット「NASync」シリーズが登場。デジカメやスマホ、動画カメラなどで撮りためた写真や動画の簡単&確実なバックアップ先として、家族全員で便利に活用できる。クラウドファンディングサイトのGreenFundingで取り扱うが、販売開始は2月14日と少し先で、製品の発送は4月の予定となる

本体はコンパクトな設計ながら端子類が充実

手持ちのHDDを組み込めばNAS(ネットワークHDD)が構築できるNASキットは、家庭内のさまざまな機器からアクセスできる点や、外出先からでもインターネット経由で参照できるなど、パソコンのUSB端子につないで使う外付けHDDにはないメリットがあります。NASキットは、Synology(シノロジー)やQNAPなどが定評のあるメーカーとして知られていますが、そこにUGREENが殴り込みをかけるように初のNASキットを発表しました。

日本市場で販売するのは、2ベイの「NASync DXP2800」、4ベイの「NASync DXP4800 Plus」、6ベイの「NASync DXP6800 Pro」の3製品。いずれも、クラウドファンディングサイトのGreenFundingで2月14日から取り扱いを開始します。今回、売れ筋になるとみられる4ベイのNASync DXP4800 Plusを借りてレビューしました。

  • 3.5インチベイを4基備える高性能モデル「NASync DXP4800 Plus」。標準価格は99,880円で、GreenFundingでは最大40%引きの59,928円で購入できる

  • 6つものベイを備えるフラッグシップモデル「NASync DXP6800 Pro」。標準価格は169,880円で、GreenFundingでは最大40%引きの101,928円で購入できる

  • 2つのベイを備えるエントリーモデル「NASync DXP2800」。標準価格は55,880円で、GreenFundingでは最大40%引きの33,528円で購入できる

本体はコンパクトな設計で、底面積は11インチのiPad Proとほぼ同じ大きさ。奥行きが比較的短いのは好印象で、設置に困ることはなさそうです。外装はアルミ素材で、UGREEN製品のイメージカラーである濃いグレーに仕上げられ、質感やデザインは高いと感じました。前面のHDDベイには「01」~「04」の番号が記載され、エヴァンゲリオンのゼーレの会議をほうふつとさせます。

  • 前面からアクセスできるドライブベイを4つ備える。各ベイには簡易的ながらロック機構も備わり、稼働中に誤ってHDDを抜いてしまうトラブルを防げる

  • 底面積は11インチ版のiPad Proとほぼ同等。奥行きが短いのがありがたい

前面には、USB Type-CとUSB Type-A端子に加え、SDカードスロットも用意され、外付けHDDやSDカードなどからスピーディーにデータを転送できます。SDカードスロットがあるのは、カメラを趣味にしている人にとってポイントが高い要素といえます。

  • 前面にはSDカードスロット、USB Type-C端子、USB Type-A端子が並ぶ。この手のNASキットでSDカードスロットを搭載するのは珍しく、カメラからのデータ転送に活躍する

  • USB Type-C端子やUSB Type-A端子にUSBハードディスクなどのストレージを接続すれば、NAS内のハードディスクにデータをバックアップできる

背面には冷却ファンを搭載し、背面から給気して前面から排気する仕組みです。凝っているのが、磁力で固定する金属製フィルターを搭載しており、付着したホコリを簡単に除去できること。ファンは、回転数を自動調整する「デフォルト」に設定しておけば、騒音はほとんど気になりません。

  • 背面。上部は大型のファンを搭載し、下部に端子が並ぶ

  • UGREENのロゴが入ったパーツは金属製のフィルターで、ホコリの進入をある程度防いでくれ、付着したホコリも手早く掃除できる

  • HDMI端子も搭載しており、NASに保存した動画データを薄型テレビなどで表示して楽しめる。電源はACアダプターを用いる

気になったのが、ACアダプターが他社製でかなり大きいこと。UGREENは小型軽量設計のUSB充電器で定評があるメーカーだけに、自社の技術を生かしたコンパクトなACアダプターに仕上げてほしかったと感じます。

  • ACアダプターは旧態依然とした大型タイプが付属し、場所を取る。ハードウエア面で唯一手を抜いていると感じさせた部分だ

HDDはドライバーなしで取り付け可能

肝心のHDDは3.5インチか2.5インチタイプを4台まで内蔵でき、前面のボタンを押すと取り出せるケージに装着してはめ込みます。ユニークなのが、ケージはネジを使わずに3.5インチHDDを固定できるように工夫しており、ドライバーを一切使わずにHDDの装着作業が完了できること(2.5インチHDDはネジによる固定が必要)。底面にはM.2 NVMe SSDのスロットが2つ用意され、増設用のストレージか読み出しを高速化するキャッシュ用として利用できます。

  • 下の鍵のある部分を押すとハンドルが飛び出し、ケージが引き出せる

  • ケージは、ネジを使わずに3.5インチHDDを固定できるよう構造を工夫している

  • HDDを収めたケージを奥まで押し込めば設置完了。HDDの装着にドライバーを一切使わずに済むのが便利

  • 底面にはM.2 NVMe SSDのスロットを2つ用意し、ストレージやキャッシュ用として使える。隣はメモリーカードスロットだ

同時に4台のHDDが取り付けられることで、1台のHDDが故障してもデータが復元できるRAID 5だけでなく、同時に2台のHDDが壊れても復元できるRAID 6にも対応するのがポイント。データを失う危険性をできる限りゼロにしたい…と考える人は、記録容量が実容量の半分に減るものの安全性が高いRAID 6を利用するのがよいでしょう。ウエスタンデジタルの「WD Red」のような信頼性の高いNAS用HDDを利用するなら、RAID5でも問題ないと思います。

  • 最大4台のHDDを接続できるNASync DXP4800 Plusは、RAIDの選択肢も充実している

  • 万が一のHDDの故障によるデータ損失を防ぐには、4台のHDDを用意してRAID 5かRAID 6に設定するのがベター

アプリの数は物足りないが、スマホでの使い勝手は上々

HDDを装着したあとのセットアップはとても簡単。同一ネットワークに接続したパソコンやスマホのWebブラウザで「find.ugnas.com」と入力すればNASを検出してくれ、その後は分かりやすい対話形式で20分もかからずセットアップは完了します。

セットアップが完了すると、日本語の表示に対応したNASync DXP4800 PlusのOS(UGOS Pro)のデスクトップ画面が現れます。いくつかのアプリがすでに導入されており、専用のアプリストアから写真管理などのアプリをインストールできます。アプリのレスポンスは上々でストレスは感じませんが、アプリの多くが詳細な説明書ファイルなどを備えておらず、分かりにくいのが欠点。さらに、アプリストアはアプリの種類が少ないのも課題。このあたりは、今後の改善を期待したいところです。

  • UGOS Proのデスクトップ画面。ブラウザー経由、パソコン用のクライアントソフトともに共通の画面構成となる。基本的に動作は軽快で、ストレスがたまることはない。アプリの少なさと不親切さは要改善といえる

Webブラウザーやパソコン用ソフトのほか、iOSやAndroid用のモバイルアプリも用意しており、パソコン用ソフトと同様にすべての機能が利用できます。スマホやタブレットでも使い勝手が悪くなることがないのは、スマホ時代にマッチしたNASとして好印象です。

  • こちらはスマートフォン用のモバイルアプリ。モバイル版だからといって機能が絞られていることはなく、パソコン用のクライアントソフトとほぼ同じことができる。レイアウトもよくまとまっており、パソコン用ソフトよりも使い勝手は上かも

「同期とバックアップ」のアプリを利用すれば、写真や動画を保存したフォルダを指定するだけで、パソコンのSSDやUSB HDD、SDカードなどのデータを手間なくバックアップできます。デジカメで撮影した写真をWindowsパソコンの「ピクチャ」フォルダに保存している人は、ピクチャフォルダをバックアップするように指定しておけば、新しいデータをパソコンに保存すると自動的にNASにバックアップしてくれます。

スマホ版の同期とバックアップを利用すれば、スマホ内の写真や動画のデータをワイヤレスでまるごとバックアップできます。iPhoneを使っていて「iCloudの容量がいっぱいです」とメッセージが出てiCloudの契約容量を増やすかどうか悩んでいる人は、すべての写真や動画をNASにバックアップすればiPhone内の写真や動画を削除できるので、容量不足問題が一気に解決できます。後述する「写真」アプリを使えば、バックアップした写真や動画が外出先からでも参照できるので問題ありません。

バックアップした写真や動画は「写真」のアプリで参照できます。Googleフォト的な機能を持っており、人物の顔や撮影場所で分類して一覧で表示する機能も搭載します。被写体認識機能をオンにすれば、動物や乗り物などでも分類できます。ただし、機能はいささか簡素で、他社のNASキット利用できる同種の写真アプリと比べると検索機能などに物足りなさを感じます。

  • バックアップしたデータは、写真アプリで一覧表示できる。基本的にGoogleフォトに似たUIで扱いやすい。動作が軽快なのも評価できる

  • バックアップした写真は人物や場所、被写体認識などでも自動で分類してくれる。キーワードによる検索も可能だが、ヒット率はGoogleフォトと比べて劣る

  • 地図から写真を絞り込む機能もある。ただし、スマートフォンのロケーション履歴情報をもとに、GPSのないカメラで撮影した写真にも位置情報を付与するGoogleフォトとは異なり、カメラで撮った写真には位置情報は付かない

  • 写真アプリはモバイル版も使い勝手がよい。Googleフォトや標準の写真アプリの代替として使えると感じた

クラウドストレージにつきものの悩みを解消してくれる

スマホは5000万画素クラスの高画素モデルが増え、動画は4K画質が標準になり、スマホの内蔵ストレージやiCloudなどのクラウドストレージの容量をガンガン食うようになりました。ミラーレスカメラは高速連写で一瞬をとらえられるようになり、運動会などのイベントがあれば軽く数百メガバイトのデータを量産するように。かといって、クラウドストレージの保存容量を数テラバイトに引き上げてしまうと月々の利用料金が数千円に跳ね上がるので、不要な写真や動画をわざわざ手作業で削除している人も多いのでは?

そもそもクラウドストレージについては、プライバシーを重視したiCloudは問題ないものの、Googleフォトなどの一部サービスは家族や行動などのプライバシー漏洩や、生成AI学習での意図せぬ利用の可能性があることが懸念されています。子どもと一緒にお風呂に入った時の写真をGoogleフォトに保存したら、Gmailを含むすべてのGoogleアカウントが利用停止になった、という話もあり、「クラウドストレージに個人の写真を上げるべきではない」という考えも広まりつつあります。

NASを利用すれば、GoogleフォトやiCloudなどのクラウドストレージに相当する機能が自前で用意できるわけで、クラウドストレージにまつわる悩みや毎月発生する利用料金をカットできるのは大きな魅力。万が一HDDが故障してもデータの喪失が防げ、自宅の内外から家族全員がネットワーク経由で参照できるのも、USBハードディスクにはないNASならではのメリットです。

今回試用したNASync DXP4800 Plusは、専用アプリのラインナップの少なさや分かりづらさなど改善点はあるものの、ベースとなるハードウエアはよくできているので、アプリのアップデートや追加で今後の伸びしろは大きいと感じます。GreenFundingの早期購入ならば59,928円からの価格で導入でき、月数千円のクラウドストレージ代の1~2年分でペイできます。別途HDDを用意しなければならないので10万円超の出費はかかりますが、安心はお金に換えられないので奮発する価値はあるでしょう。SSD容量が少ないノートPCの欠点をカバーするプライベートストレージとしても、仕事とプライベートの両面で活躍しそうです。