夏・冬の「コミックマーケット」のたびに話題になるのが、会場となる東京国際展示場(東京ビッグサイト)周辺の通信状況。キャリア各社もこのイベントに合わせて積極的に対策を実施し、自社のつながりやすさをアピールする場となっています。「コミックマーケット105」(C105)開催を控えた12月27日、NTTドコモがトラヒック輻輳対策のメディア向け説明会を開催しました。その模様をご紹介しましょう。

  • 5G移動基地局車

    C105で投入される5G移動基地局車

C103での「ドコモがつながらない」の声から、C104では8割がポジティブな評価に

「コミックマーケット」は、2023年12月開催の「コミックマーケット103」(C103)では約27万人、2024年8月開催の「コミックマーケット104」(C104)では約26万人の来場者を集める国内屈指の代イベント。イベントの性質上、SNS投稿なども活発に行われ、入場・購入の際の列での待ち時間も長いことから、携帯電話・スマートフォンの通信が混雑することでも知られています。キャリア各社もその状況を黙視しているわけではなく、会場周辺の通信設備の恒常的な強化、移動基地局車などを活用した当日の対策という2本立てで通信環境の改善を図ってきました。

そういった対策を行ってはいたものの、2023年12月のC103ではドコモの通信がつながらないという声が大きく、SNSではポジティブな声が全体の約5%にとどまったといいます。その声をうけ、ドコモはイベントでの通信対策にいっそう力を入れるようになり、2024年8月のC104ではポジティブな声が8割と大きく改善しました。

  • C104参加者のSNS投稿

    2024年8月のC104参加者のSNS投稿。前回より大きく改善したことが見てとれます

東待機列対策では移動基地局車・可搬型基地局にMMU導入

今回のC105では、そのC104からさらに設備の強化を行い、より快適な通信環境を目指しています。

C105での対策は、大きく「東待機列対策」「西待機列対策」「会場全体の対策」に分けられます。屋外の入場待機列は「コミックマーケット」ならではのもので、恒常的なインフラ整備よりもイベントに合わせての通信設備増強のほうが効率がよいということでしょう。これに、会場全体の通信環境の改善も行い、快適に利用できるようにすることを目指しています。

  • C105での対策の概要

    C105での対策の概要。今回の説明会では、赤で囲まれている前回からの強化ポイントについてくわしく説明されました

この日見学することができたのは、国際展示場の東駐車場に形成される東待機列の通信環境改善のための設備でした。具体的には、3台の5G移動基地局車と、2基の可搬型基地局がこのゾーンに投入されています。3台の移動基地局車は東駐車場の北側に2台、南側に1台配置し、その中間に2台の可搬型基地局を等間隔になるように配置しています。この局数・配置自体は「コミックマーケット104」のときと同じだそうですが、移動基地局車でのMMU搭載/LTEの3.4GHz帯・3.5GHz帯追加/5G SA化という強化を行っています。

  • 東側待機列の対策

    東側待機列の対策

臨時局でMMUを活用するのは、2024年10月に菊花賞当日の京都競馬場のトラヒック対策を取材した際にも行われていました。その後、北陸のイベントで同様にMMUを活用した事例があるそうですが、関東では今回の導入が初めてとのことだそうです。

  • 臨時局にMMUを利用するメリット

    臨時局にMMUを利用するメリット

  • 北側の基地局車のアンテナ

    北側の2台の基地局車。手前の車両の高く伸ばされたアンテナは展示棟側に向けられたLTE+5G NRのアンテナ。こちらを向いている2つのアンテナのうち、下がMMUです

  • 基地局車から待機列を望む

    この写真の奥が、待機列の形成される東駐車場です。基地局車のアンテナは1基を除いてそちらを向いています

  • MMUとLTE+5G NRのアンテナ

    下がMMU。上はLTE+5G NRのアンテナです

  • 北側の基地局車の位置から南側を見たところ。ドコモ以外のキャリアも基地局車を投入しています

可搬型基地局は、重さの関係もあって2本のアンテナを立てる形になっています。この日の時点ではまだアンテナが延ばされていませんでした。バックホールは既存の基地局が使用している光回線からケーブルを伸ばしているそうですが、電源はそこから引っ張ってくると距離があって電圧降下してしまうため、発電機からとっているそうです。

  • 可搬型基地局1
  • 可搬型基地局2
  • 2つの可搬型基地局。どちらも手前が前回も開設したLTE+5G NRのアンテナで、奥がMMU

  • 南側の基地局車

    南側の基地局車。MMUとLTE+5G NRのアンテナが2セット、それにd WiFiのアンテナがあります

展示棟内も含めて全面的に5G SA化

MMU導入と並んで通信品質改善に効果を見込んでいるのが全面的な5G SA化です。展示棟屋内の基地局は、C104の時点では5G非対応だったものの、C105までに全面的な5G SA対応が完了。すでにみてきた東待機列側の移動基地局車/可搬型基地局も5G SA化されており、西待機列側の基地局も5G SA化のうえでこれまでの臨時基地局が恒久基地局となっています。

5G SAは、4Gの通信帯域が混雑していると5G通信ができない5G NSAに対して、5Gの通信帯域だけで完結し、4Gがひっ迫していてもその影響を受けません。この特徴が、混雑する集客イベント会場でつながりやすさにつながることが期待できます。現状、5G SAは利用できるエリアがあまり広くないことから利用するメリットが感じにくいところがありますが、C105開催期間の会場周辺では、(ドコモならば)5G SAが使える場面が多いはずです。

  • C105対策全体像

    C105対策の全体像としても協調されている5G SAの全面導入

5G SAで通信を行うには、5G SA対応のスマートフォンを利用し、5G SAの通信サービスの申し込みを行う必要があります(ドコモの場合)。この5G SAの通信サービスを利用するには月額550円の費用がかかりますが、現在はキャンペーン中のため月額料金が無料となっています。5G SA対応のスマートフォンを利用しているなら、ものはためしで申し込んでみてよいのではないでしょうか。

  • 5G SAサービス

    ドコモの「5G SA」サービスはいまなら無料。Webから申し込みができます

このほか、3Gから4Gへの帯域転用をすすめ、西待機列向けのアンテナの高さアップなども行っているそうです。また、東待機列同様、西待機列でも5G通信で利用できる周波数帯の追加が行われています。

今回の対策について説明してくれたNTTドコモ 首都圏支社 ネットワーク部 移動無線計画担当 担当課長の加藤明雄さん、同主査の古橋彬さんからはC105参加者に向けて「5Gをオンにするのをお忘れなく! そしてできたら5G SAを使ってください!」とのメッセージをいただきました。5Gの端末・契約なのに5Gをオフにして利用している人が意外に多く、 過去にドコモと他キャリアが比較された際に、ドコモが4Gで他キャリアは5Gになっており、それで「ドコモがつながらない」と言われて悔しい思いをしたこともあるそうです。

  • NTTドコモ 首都圏支社 ネットワーク部 移動無線計画担当 担当課長の加藤明雄さん、同主査の古橋彬さん

    NTTドコモ 首都圏支社 ネットワーク部 移動無線計画担当 担当課長の加藤明雄さん(左)、同主査の古橋彬さん(右)

今回実施されるもので「コミックマーケット」での通信対策が完成というわけではなく、C105の開催期間中もドコモのスタッフが会場内で通信状況を確認し、弱いところがあれば今後の改善につなげていくとのこと。C105に参加される皆さんも、通信がつながらない状況があればSNS等に投稿してみてください。それが次回の改善につながるかもしれません。ただし、5Gをオンにするのはお忘れなく……。

  • ドコモのC105での通信対策のまとめ

    ドコモのC105での通信対策のまとめ