「優勝賞金1,500万円のゲーム大会」と聞いたら参加せざるを得ないだろう。
今回は、筆者が「Shadowverse 最強チーム決定戦」に選手として参加。ゲームにそこまで詳しくない読者にも伝わるよう、ゲーム内容への言及は最小限にして「賞金制のゲーム大会に出場する社会人」の実態を書く。
まあ、何というか、いろいろ大変なのが伝わってほしい。
大会は「本番」よりも「準備」が重要
筆者は「RAGE Shadowverse 2020 Spring」(※ギネス記録を達成した回)に参加したのを最後に、スマホカードバトル『Shadowverse(以下、シャドバ)』を競技的にはプレイしておらず、約5年ぶりの競技イベントの参加となる。
「RAGE Shadowverse」では、何度かDAY2に進出したことはあるが、賞金獲得には至ったことがないので、今回は積年のリベンジだ。
ちなみに、こういった大会レポートは、大会当日の出来事だけを扱いがちだが、本稿では「競技プレイヤー」のリアルな実態を知ってほしいので、準備期間からの苦悩を記していく。
では、大会本番の5日前まで遡ろう。
本番5日前
『シャドバ』は、8つのクラスから選んで戦うデジタルカードゲームである。それぞれが特徴的な性質・戦略を持っているので、その多様性が楽しさにもつながっている。
一方、この多様性が、練習という点では「壁」として立ちはだかる。いわば「将棋」「チェス」「オセロ」などのうちの2つ以上を同時に練習する感覚に近い。
さらに、これが厄介なことに(あまりたとえとして適切ではないが)「将棋」vs「オセロ」という対戦組み合わせになることもあるため、あらゆるパターンを練習するのが、この準備期間にやるべきことである。
『シャドバ』には8年以上の歴史があり、現在は、次回作『Shadowverse: Worlds Beyond』のリリースまでの総決算として、過去の環境で戦う、タイムスリップローテーションというルールで大会が実施されている。
つまり先人の知識は過去にあるので「過去の大会のアーカイブ動画を見る」ことで効率よく練習ができると考えた。過去動画を調べたら、「ヴァンパイア」「ネクロマンサー」「ウィッチ」のクラスが強そうだったので練習することに決める。
しかし、今回は3人チーム戦。チーム内で同じクラスは使えない制約がある。メンバーと相談した結果、ヴァンパイアを使わせてもらえることになったが、もう1つは再検討することになった。馴染みのあるネクロマンサーとウィッチを手放すのは名残惜しかったが、そこはチームメンバーに託す。
5年前の個人戦は、自分の得意なクラスだけを使用すればOKだったので、こういった経験は初めてだ。
そうして、残りの3クラス(エルフ・ビショップ・ドラゴン)の中から、「ちゃんと練習すれば勝てる」と思ったエルフをチョイス。《豪風のリノセウス》というカードが、いわゆる4番バッターのような役割をもっており、ほかのカードたちは守備したり、出塁したりする。
ここで厄介なのは、試合展開によっては、この4番バッターが「打てない」状況にもなり得ること。臨機応変に、ほかのバッターたちで点を取る判断をしなければならない。
本番3日前
エルフは使い方が難しく、現役時代もほぼ使ったことがない。個人的には、「将棋」や「チェス」をやってきた人間が、急に「UNO」を学ぶことになったぐらいのギャップがある気がしていて、苦手意識もあった。
とはいえ、チームの勝利に貢献するために泣き言は言ってられない。大会まで3日しかないので、残りの時間はすべてエルフの練習に費やすことにした。
この記事を読む人たちの大多数が「(カードゲームの)練習って何すんの?」と思っているかもしれない。個人的には、試験勉強と素振りを同時にやり続けるものだと思っている。
ダラダラと遊んでいれば上手くなるようなものでもなく「さっきの選択はベストだったのだろうか」と、常に自問自答を繰り返す。
本来、娯楽ゲームは、日々の仕事や人間関係からの逃避行動として、ある種の「息抜き」に遊ぶものかもしれないが、競技としてのゲームはその逆だ。
常に何かの「ストレス」と向き合い続けることになる。同時に、動画や記事を見て、座学やテクニックも勉強する。もちろん座学ばかりでもだめなので、あとはひたすら「ぶつかり稽古」だ。
筆者は、臨機応変に考えるのが苦手なので「型」にはめて覚えていくことにした。
・2ターン目には《豪風のリノセウス》+《森林の狼》
・6ターン目には《マドロスエルフ》+アクセラレート×2
・7ターン目には《堕落の決意》からの《豪風のリノセウス》
自分なりの勝ちパターンを用意して、本番に臨む。
ちなみに、ヴァンパイアはこの3日間で一切、練習することがなかった。
明確に課題として残っていたのは、(デッキに2枚入っている)《《世界》・ゼルガネイア》がたくさん手札にきたときにどうしたらよいか分からないということだ。
「まあ、大丈夫だろう」と本番を迎えたが、これがのちに悲劇を生むことになる。
本番当日
大会の朝は早い。
7時に起床して、8時半には海浜幕張駅に到着する。冷たい空気と緊張感は、学生時代のセンター試験(現:大学入学共通テスト)の受験日を思い起こさせる。
1試合あたりの所要時間は、待ち時間も含めると1時間程度。長いときは1日で10時間~12時間を戦い続けることになるので、とてもタフな大会だ。
5年ぶりの戦い、大事な1試合目が始まった。かなり緊張していたので、長時間の練習で自信のあったエルフを使用デッキとして選択する。
2クラス同士の「勝ち抜けルール」なので、エルフで勝ったあとにヴァンパイアで勝てれば、個人は勝利となる。
対するは「ロイヤル」というクラス。絶え間なく、攻撃してくるタイプのデッキなので、こちらは防御に徹することになる。
ロイヤルは5ターン目以降の《白銀の閃き・エミリア》というカードからの大量展開が強力であり、これを捌けるかがカギになると思っていた。そのため、対応策である《森を彩る者・エルフクイーン》と「進化」を残すことを意識してプレイした。
自分のベストな動きをするのではなく、相手を捌くこと&回復することを優先したので、戦いは10ターン目までの長期戦となったが、なんと勝利することができた。
「もしかして、エルフってデッキ……楽しい?」
3日前まで、エルフは苦手な部類のデッキだったが、こういった戦いでの成功体験を通して、少しずつ好きになっていくのだから、『シャドバ』はおもしろい。
初戦は勝ったが、そのあとは……
ただ、ここで異変が起こる。使用デッキをヴァンパイアに切り替えたのだが、3日ぶりに使ったデッキということもあり、デッキの回し方が全く分からなくなっていたのだ。
残り2戦のうちの1戦でも勝てばいい状態なのだが、気持ち的には追いつめられていた。
まず、麻雀でいうところの、配牌の中から好きなだけ戻して引き直せるタイミングがあるのだが、「何が不要なのか」がわからない。
そして悲劇は起きた。手札に複数枚きてほしくない《《世界》・ゼルガネイア》が2枚きたのだ。
(ただの練習不足なのだが)このときの状況にかなり焦っており、《背徳の狂獣》+《鋭利な一裂き》で相手のフォロワー2体を倒すのがよさそうな盤面においても、当日は思考が二転三転して「ん!? このターンで1枚ぐらい《ゼルガネイア》を出しとかないと、今後出すタイミングがなくないか?」「お! そのまま5~6ターン目に《ゼルガネイア》を連打して、《バアル》に融合させ続ければ、7ターン目に6枚融合背徳バアルできるのでは!?」という魔が差した選択をしてしまう。
結果として、次のターンには強化された《無敗の剣聖・カゲミツ》と《白銀の閃き・エミリア》という「そりゃそうなるだろ」みたいな盤面が形成され、当初の6ターン目に《《世界》・ゼルガネイア》を出すようなプランは継続できず、敗北となった。
カードゲームで勝つには「運×実力」が必要といわれるが、この日の筆者はどちらかというと「ツイていた」ほうだと思う。
正しいプレイさえすれば、勝てる手札を渡されていた。練習不足と5年のブランクがもろに出たのを痛感した。
とにかく、ヴァンパイアを使っている間は90秒が短く感じた。毎回、見たことないような知恵の輪を渡されて「これを90秒で解け」といわれているような感覚である。クイズタイムショックに挑戦中の人たちの気持ちもこんな感じなのだろうか。
「ベストな正解を出すゲーム」ではなく「限られた時間でベターな正解を出すゲーム」、その判断がベストに近い人が勝つ。もはやフィジカルスポーツや会社経営に近いものがある。
《豪風のリノセウス》のことが好きになった
個人成績について、エルフは2勝0敗、ヴァンパイアは0勝4敗という結果になった。
血反吐を吐きながら練習したエルフで勝てたのはうれしかったが、強めのデッキであるヴァンパイアで勝てなかったのは、チームメンバーに申し訳ない。
5年の時を経て(当時は一度も使うことがなかった)《豪風のリノセウス》のことが好きになった気がする。大会に向けての準備は大変だったが、振り返るうちに新たな発見があり、それも含めて楽しむことができた。
タイムスリップローテーションとは、ただの「思い出」の焼き回しではなく、時を遡り、あのころの「忘れ物」を取りにいく体験なのかもしれない。
(Cygamesさん、次回作にもリノセウス出してください)
チームが2敗した時点で、シングルエリミネーションへの道は閉ざされたが、なんとか1勝だけでもしたいので戦いを続けることに。
俺たちの「思い出」はまだ終わらない!
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取材・文 / 合同会社KijiLife(小川翔太)