2022年11月にPlayStation 5版が発売され、遅れること今年2024年9月にPC版がSteamでもリリースされた『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』。言わずと知れた「ゴッド・オブ・ウォー」フランチャイズにおける最新作で、より細かく見ればストーリーに大きな区切りをつけて一新された2018年発売の『God of War』に続く2作目という位置づけでもあります。

今回SIE(Sony Interactive Entertainment)からSteam版コードの提供を受けたので、PC版をプレイ。個人的には十分濃厚だと感じていた前作のゲーム体験をはるかに凌駕し、プレイヤーを圧倒する濃密なストーリーテリングを堪能できました。

なお、本作はCERO:Zに指定されている18歳以上のみ対象のゲームタイトルです。下記コンテンツには流血表現などの表現が含まれている場合があるため、十分注意してください。

  • 『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』PC版プレイ感想。北欧神話舞台の濃密なナラティブをこれでもかと楽しめる大傑作

コード提供:SIE(Sony Interactive Entertainment)

前回までのゴッド・オブ・ウォー

シリーズ2作目である『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』に触れる前に、1作目の『God of War』についておさらいしておきましょう。前作までの壮絶な戦いを経て北欧に落ち延びてきたクレイトスでしたが、妻のフェイと息子のアトレウスと平穏な日々を過ごしていたある日、その妻を亡くします。生前自らの運命を予知していたフェイは「遺灰を九界の最も高い場所から撒いてほしい」と遺言を残しており、クレイトスは亡き妻の願いを叶えるため、まだ幼いアトレウスとともに北欧神話を舞台にした壮大な世界へと旅に出ます。

紆余曲折あってクレイトスとアトレウスはその願いを叶えますが、道行きには困難もありました。特に、ラスボスとしても登場する不死身の神「バルドル」は、ともすればクレイトスをすら凌ぐ強敵。このバルドルは、道行きを助けてくれた魔法使いであるフレイヤの息子です。フレイヤは息子が死んでしまうという予言に抗うべく、バルドルに不死の魔法をかけました。しかしこの魔法によってバルドルからあらゆる感覚が消失してしまい、生きている実感が得られなくなったと嘆き、母であるフレイヤを憎みます。そんな中バルドルは主神であるオーディンからアトレウスが最後の巨人族であることを知らされ、自らに掛けられた不死の魔法を解くカギになるとしてアトレウスを執拗に付け狙います。

最終的にアトレウスが持っていたヤドリギの矢じりで(偶発的に)不死の魔法は解けますが、バルドルは不死の魔法をかけたフレイヤの謝罪を聞き入れませんでした。クレイトスは亡き妻の願いを叶えるために協力してくれたフレイヤを守ることを優先し、また禍根を断ち切るためにバルドルと対峙。壮絶な戦闘の末、不死身ではなくなったバルドルの首を折って倒します。フレイヤはクレイトスに命を守られた形でしたが、自らの命が守られたことよりも息子が殺されたことに怒り、クレイトスとは別離してしまいます。

しかも、このバルドルの死がラグナロクの契機となってしまい、世界には3回続く長い冬(フィンブル・ウィンター)が訪れます。アトレウスは旅の中で見た予言で自分のアイデンティティ(自分が最後のヨトゥン、巨人族のロキであること)を知り、迫り来るラグナロクに“ロキとして”どう立ち向かうべきか思い悩みます。そんな折、家に主神オーディンとその息子の雷神トールが現れ───という流れで『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』に続きます。

  • 主人公のクレイトス。寡黙で唸るのが得意なため、息子を思う気持ちがしばしばうまく伝わりません

  • 息子のアトレウス。前作から少し成長しましたが、まだまだ生意気な面もあります

  • フレイヤ。息子であるバルドルをクレイトスに殺されて怒り狂っています

  • 生首のミーミル。クレイトスたちと道行きを共にする仲間で、朗らかなコミュニケーションと深い洞察で存在感を発揮します(クリックでモザイクを除去します)

ミーミルは特に紹介していませんでしたが、生首となってクレイトスの腰にぶら下がっている優秀な案内役です。オーディンの怒りを買って木にとらわれたまま長年拷問を受けており、助けてくれと頼まれたクレイトスはミーミルの首を斧で一刀両断、持ち帰って首だけのままフレイヤに蘇生させました。自らを“知の巨人”と称し、クレイトスを「お前さん(英語音声ではbrother)」と呼んで親しくしています。

  • 体があったときのミーミル。100年以上このまま拷問されていました

プレイヤーは初見のインパクトだけであまり喋る生首のことを気にしなくなりますが、不慣れな人は怖く感じるかもしれません。敵の攻撃でクレイトスが炎上すると「ほっほほ、お前さん燃えとるぞ笑 耐えるんじゃ」などと抜かす気楽さもよく、個人的には一番好きなキャラクターです。

『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』感想、敵役キャラの描写も見逃せない

そんな今作では、家にオーディンとトールがやってくることから始まります。自分にも多少とはいえ利のある取引を持ち掛けてきたオーディンを一蹴するクレイトスですが、決裂したことを受けてトールがハンマー「ミョルニル」でクレイトスを襲撃します。辛くも撃退しましたが、今後もう家が安全である保障はなくなってしまいます。しかし鍛冶屋のフルドラ兄弟の申し出で、世界の狭間にあるユグドラシルの樹上に拠点を設営。オーディンの目を避けながら、ラグナロクに対処するための旅に出かけていくことになります。

この後の段落から、今作の内容における核心的な部分に対して言及があります!

  • 直接家に来たオーディンとトール

  • ミョルニルをなでながら凄んできます。トールは巨人族を嫌っているうえ、クレイトスは前作でトールの息子を殺しています

  • 交渉は決裂。神斧「リヴァイアサン」と雷槌「ミョルニル」が激突する神々の戦い

本編を完走した今思えば、今作のボリュームは前作と比べ物にならないほど多く、ちょっとしたDLCくらいかなと考えていた想定は大きく裏切られました。バルドルを殺害したことで仲違いしたフレイヤとの関係修復に始まり、死んだと思われていた戦神テュールをラグナロクに対抗するために救出したり、巨人族であるロキとして存在しないはずの鉄の森を探索したり、オーディンに会うべくアースガルズに出かけてみたり、バラバラに散逸した仮面を捜索するために世界各地を旅したり、ヘルヘイムでうっかり解放してしまった狼「ガルム」と戦ったり、オーディンやトールと激突してみたりと、DLCどころではない超大ボリューム。むしろ前作は本作の前日譚くらいだったとすら言えるかもしれません。

  • 仮面の破片探しも3つの世界にわたる大変な探索です

  • ガルム戦がお気に入り。顛末含めていいお話でした

中でも、個人的にはヴァナヘイムの探索が前作にはない圧倒的なボリュームに感じられました。概ね一本道を進行していくスタイルの同作において、オープンワールド風の世界として設計されている点がとてもユニーク。ダムを開放して乾いた大地を潤すと水路が利用できるようになり、探索できるエリアが大幅に広がります。

各地にはサブクエストから宝箱、強敵ボスモンスターがあちこちに配置されており、探索を進めることで武器防具の貴重な強化素材を入手していくことも可能。しかもナラティブとして、亡き妻のフェイと雷神トールが、クレイトスと出会う前に激戦を繰り広げた土地であることがうっすら明かされていくシナリオ要素まで存在しています。探索を面倒くさがってすぐに放り出す筆者にとって、これはヴァナヘイムを探索する強いモチベーションとして働きました。

  • 昼夜を切り替えることで進行できるようになるギミックや……

  • 各地にいるドラゴン討伐

  • 四季の鹿をユグドラシルに集めるために再訪するなど探索コンテンツが超豊富です

そんな今作のテーマは、個人的にはやはり「予言」にあったかなと感じました。前作を通してアトレウスは自分がロキであり、ラグナロクに立ち向かわなければならない使命がある……ことを知ったのは上述の通り。しかし父のクレイトスからしてみれば自らの息子であり、アトレウスであるという認識は変わりません。このすれ違いがシナリオ展開に深みを与え、そして各キャラクターの成長プロセスを精緻に描いていくことに成功しています。親子の絆ももちろん魅力のひとつでしたが、個人的にはあんなに石頭で不器用だったクレイトスがアトレウスのことを認め、さらに自らの内省の中で成長していく様子がかなりぐっときました。

  • 予言。解釈をめぐって親子で対立し、現実に引き起こさないようどう対応するかでも揉めていました

  • アトレウスが会いに来てくれたことをクレイトスにけしかけるオーディン

  • ここまで頑固なキャラだと思想の変遷シーンに違和感が発生しがちですが、卓越したシナリオ展開が可能にしています

登場人物軸でお話を捉えがちな筆者にとって、敵として登場したトールとオーディン、あとヘイムダルは少し不憫にも思えました。トールは家族のことを思ってとる行動が裏目に出るばかりで、しかも飲んだくれてダメになっているところを娘に叱られた挙句、主神の命によって憎い巨人族であるロキ(アトレウス)との旅に何度も同行させられる羽目になります。しかもその最期はあっけないもので、パワー型・大巨漢キャラ好きの自分としては少し悲しくなりました(それでいてトールは雷神であり、稲妻のような機動力も兼ね備えています)。

  • 飲んだくれるトール。このあと酒場をミョルニルでめちゃくちゃにします

  • 奥さんのシヴ。ちなみにトールは愛妻家でもあります

ラスボスとして君臨するオーディンについても、アトレウス操作パートで直接描写される範囲内では「知識の探究者」として振舞っている側面を重点的に描かれていたこともあり、ボスキャラだからと言って殺すほど憎めはしないかなという印象でした。たしかに探究への優先順位が高すぎるあまり他の多くをだいぶ軽視するきらいがあり、世界中で買い過ぎた憎しみはその最期にふさわしいものだったと言えるかもしれません。それでもアトレウスがオーディンに対して最後にとった決断はやや衝撃的で、個人的にはややビターエンド気味に感じます。

  • オーディンはオーディンなりにラグナロクの到来をなんとかしようとしており、そのために巨人族であるロキの力を必要としていました

  • すべてを失う羽目になったオーディンの喪失感は察するに余るもの

  • グングニルを携え、魔法もフル動員してクレイトスに対峙します

また、初登場シーンからずっと憎らしかったヘイムダルもクレイトス一派としては殺されて当然だったかもしれませんが、正直やや後味が悪かったです。予言の中ではロキを殺害する当事者であり、角笛「ギャラルホルン」を吹いてラグナロクの到来を知らせることになるアース神族のヘイムダルは、予知能力(心を読む能力とも)で無類の強さを誇っていました。

しかしクレイトスの無限に増える槍「ドラウプニル」によって予知能力を攻略され、敗北。クレイトスはミーミルの制止を振り切り、後顧の憂いを絶つべく倒してしまいます。もうちょいすぱっとやってくれればいいものを、呪詛のように憎まれ口を叩きながら締め上げられた顔を赤黒くして絞殺されるシーンはなかなか趣味が悪く、いやその槍を使ってひと思いにやってくれと思いました。

  • ヘイムダル。なかなか見ないレベルでうざい悪役でした

  • 腕に突き刺して釘付けにしているのが、無限に増える指輪を打ち直して作った槍「ドラウプニル」。でも殺すときはさっとやってほしいです

ローグライトが苦手でもストレスフリー、DLCエリア「ヴァルハラ」もプレイ

本編をクリアしてハイ終わりとはせず、せっかくなのでPC版には最初から付属しているDLC「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク:ヴァルハラ」も遊びましょう。いわゆるローグライトシステムに着想を得て戦闘を主軸に据えたコンテンツで、敵を撃破していくことでクレイトスの装備や戦闘アビリティを強化し、進行していくゲームモードです。

  • DLC「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク:ヴァルハラ」が最初から統合されています

ところで、筆者はゲーム体験のうち特にシナリオ(ナラティブやストーリーテリング)要素をかなり重視しているために、戦闘アクションは途中で飽きがち。本編も難易度をもっとも簡単なものに設定した上で、さらに筋力(攻撃力)に極振りした装備で進行するなどシナリオ以外の関心が低めです。ローグライトも集めたものが結局無に帰してしまうことから何となく相容れないカテゴリで、ヴァルハラはまあスルーでいいかなと考えていました。

しかし、ゲーム体験の随所にナラティブやストーリーテリング要素を練りこむ努力に事欠かない開発陣の働きによって、ヴァルハラでも本編に関連する重要なエピローグが楽しめるようになっています。しかもクレイトスが北欧に逃げてくる前のギリシャ神話要素まで存在しており、筆者のような面倒くさがりでもシナリオ好きとしてはプレイしないわけにはいきません。

ちなみにローグライトとしてはやや珍しく難易度設定が用意されており、親切すぎる設計に思わず涙しました。適当なビルドで敗北して振り出しに戻される無力感を味わう必要がなく、淡々と戦闘をこなしてシナリオを楽しむことが可能。筆者のように戦闘にもビルドにもほとんど興味がなく、何も考えずに攻撃ボタンを連打していたい怠惰なプレイヤーすら取り残すことがありません。

『ゴッド・オブ・ウォー』の名誉のために弁明しておくと、戦闘アクション要素も他に類を見ないほど優れています。斧「リヴァイアサン」と双剣「ブレード・オブ・カオス」を敵の特性や好みに応じて使い分けられ、リヴァイアサンでは強烈なヒットストップによる重厚な打撃感を、ブレード・オブ・カオスでは多数の敵を切り刻んで倒せる爽快感を堪能できます。さらに中盤からは槍「ドラウプニル」も装備に加わり、ギリシャ出身のスパルタンであるクレイトスの面目躍如といったところ。トドメとして与えるフィニッシュブローでは敵の胴体を斧で叩き斬り、ダガーで突き刺して槍で吹き飛ばしましょう。

  • なんと難易度を選択可能。困難な戦闘は丁重に辞退させていただき、即座に最低難易度を選択しました

  • クレイトスの戦闘パラメータを自分好みにビルドして進みます。なんでもいいと思っているので適当に選択していましたが、それでも進行していける親切な難易度設計

  • なんとシナリオ要素があります。やらぬわけにはいきません

  • ミーミルに代わり、ギリシャ神話から太陽神であるヘリオスが新しく生首となって登場。生気のある生首は気色悪いですね(太陽神の顔にモザイク処理するのは不敬な気もしますが、クリックで除去します)

  • 本編ではとある理由で腑抜けていたテュールの戦神らしいところも楽しめます

やるなら前作から、ゆっくり遊べる大ボリュームのAAAタイトル

ここまで『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』について取り上げてきた本記事。あまり馴染みのない題材のためか日本ではそこまで知名度が高くない印象の同シリーズですが、アメリカはじめグローバルでは超有名タイトルです。PlayStation各世代のハードを代表するシリーズでもあり、現行機でプレイできる最新作が今も信じられないほどのハイクオリティで投入され続けている幸運なゲームです。

PlayStationでのゲーム体験も並外れたものだと聞きますが、Windows版の移植は例によってありえないほどの高品質。他のゲームではあまり見ないほどの高品質なグラフィックが上限設定したフレームレートにぴったり張り付いて動作する様子は心地よく、素晴らしいプレイ体験の一助になりました。上に掲載したスクリーンショットは、すべてRyzen 7 7800X3D、DDR5-5600 48GB、PCIe 4.0 SSD、GeForce RTX 4080 SUPERを組み合わせたシステムを用い、動作中のゲームで撮影したものです。

  • こんなに美しく、それでいて軽いゲームがあるとは

ちょうど本作と前作でしっかり本編が完結しているため、ゴッド・オブ・ウォーシリーズへの入門にもピッタリ。しかし『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』からプレイしないといけない理由は特になく、また前作をプレイしていた方が絶対に楽しめるはずなので、関心がある場合はぜひ1作目の『God of War』からプレイしてみてください。

これは余談ですが、個人的には英語音声・日本語字幕でのプレイが超オススメ。ニュアンスを2つの言語で汲み取れればシナリオの豊かさがより深まるうえ、頻出するカタカナの横文字やルーンの呪文が日本語で発音される違和感を低減することが可能です。

©2022 Sony Interactive Entertainment LLC. God of War is a registered trademark of Sony Interactive Entertainment LLC and related companies in the U.S. and other countries.