2024年9月26日から29日まで開催された「東京ゲームショウ2024(TGS2024)」のインディーゲームコーナーに、審査によって80タイトルが選出されるコンテスト「Selected Indie 80」の出展エリアが設けられた。エリア内には、世界中から選出された多種多様なゲームタイトルがずらりと並び、各ブースには試遊台が用意されていた。

「TGS2024」の開催期間4日間を通して「Selected Indie 80」のエリアを歩き回っていた筆者も、気になった作品を片っ端から楽しんだ。ストーリーや世界観、ゲーム性など、作品の個性と呼べる魅力はさまざまあるが、この記事では「キャラクター」に焦点を当て、『KILLA』と『SAEKO: Giantess Dating Sim』の2作品を紹介したい。

なお、どちらもSteamにデモ版が用意されているので、気になった方はぜひプレイしてみてほしい。

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    「Selected Indie 80」に選出された、ケンキツ団の『KILLA』のブース

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    同じく「Selected Indie 80」に選出された、SAFE HAVN STUDIOの『SAEKO: Giantess Dating Sim』のブース

キャラクターの心を覗いて真実を暴く! 『KILLA』

『KILLA』は、韓国のインディーゲームサークル「ケンキツ団(Black Tangerine)」が手がける、ミステリーアドベンチャーゲームだ。主人公の見習い薬剤師「ヴァルハラ」は、何者かに殺害された師匠の復讐を果たそうと、孤島「イプス」を訪れる。師匠が遺した「ラを殺せ」という遺言と一通の招待状を手がかりに、ヴァルハラは島を探索しながら犯人を探す。

イプスには、島の番人「ミカエラ」と、ヴァルハラと同じく招待状を持った人々が集まっていた。ミカエラは、「どんな願いも叶えるティーパーティー」の主催者で、招待状は全部で5人分を送ったと話す。しかし、実際に集まったのはヴァルハラを含めて7人。どうやらそのうちの2人は「招かざる客」であり、ヴァルハラは師匠を殺害した犯人が潜んでいると確信する。

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    薬剤師の試験を受けるため、家を空けていたヴァルハラ。帰宅すると、唯一の家族である師匠が無惨な姿で見つかる

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    島の番人であり、ティーパーティーの主催者でもあるミカエラ。のんびりとした口調で淡々と状況説明を行う

ティーパーティーには、見た目も言動も個性的なキャラクターたちが参加する。体験版という短いプレイ時間ながらも、気になるキャラクターが多かったので、一人ひとり紹介したい。

「まずは自己紹介をしよう」と口火を切ったのは、赤髪の女性「アンジェラ」だ。彼女は街で小さな探偵事務所を営んでいる。探究心が強く、人に話を振るのが上手で、殺伐とした空気のティーパーティーを楽しく盛り上げてくれる。紳士的な振る舞いの女性キャラに弱い筆者は、早速アンジェラに心惹かれた。

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    探偵のアンジェラ。帽子や眼鏡、懐中時計など、探偵らしいアクセサリーが目立つ

自己紹介をする前から大騒ぎしていた女性「バニラ」は、雪原の国「フレイヤ」からやって来た。招かざる客がいることに怒りを露わにし、ほかのキャラクターに突っかかってくる。自分が正しいと信じて疑わない高圧的な美女だが、こういったタイプは往々にして人には見せない「弱み」を抱えているものだ。バニラにも何かしらのギャップがあるのではないかと、勝手ながら予感した。

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    バニラは、魔法と共存する雪原の国の出身。職業について言及はなかったが、魔法の杖らしきものを手に握っている

たくましい肉体を持つ男性「カイラ」は、荒野で働く看護師だ。あとからティーパーティーに加わったヴァルハラにも気さくに声をかけてくれたり、喧嘩腰のバニラをいさめたりと快活な性格がうかがえる。気になったのは、体中にある無数の傷と頭に生えた角だ。「明るい雰囲気の看護師」というプロフィールに反し、ビジュアルからは少し攻撃的な印象を受けた。

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    看護師のカイラ。右目にはひときわ大きな切り傷があり、その瞳は常に閉じられている

彫刻家の男性「シラ」は、陰気な雰囲気を醸し出している。自分のことを詮索されるのが嫌なのか、自己紹介を済ませるとさっさと立ち去ってしまった。

シラと同じく口数が少なかったのが、フードを被った男性「ハラ」だ。「救護関係の仕事をしている」以外の情報はなく、彼もまたそそくさとティーパーティーから離脱する。

謎だらけの2人だが、目の下のクマや口ピアス、眼帯など、刺さる人にはクリティカルヒットしそうな魅力的なビジュアルをしていた。

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    彫刻家のシラは、人が多く集まる騒々しい場が苦手らしい。布で覆われた右腕が気になる

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    寡黙なハラ。眼帯の奥には強大な闇の力が眠っていて……などと妄想が捗るビジュアルをしている

そして最後の1人は、見習いの呪術師「ララ」だ。常にぬいぐるみを抱いている気弱な少女で、どうやら彼女は招待状を失くしてしまったらしい。バニラから「ララこそが招かざる客だ!」と激しく糾弾され、涙ながらに無実を訴えている。終始おどおどしていて言動にも自信のなさが表れており、庇護欲をそそられるキャラクターだ。

主催者のミカエラを含め、ティーパーティーに参加するキャラクターたちは、みんな名前の最後に「ラ」が付く。師匠が遺した「ラを殺せ」という遺言が、一体誰を指しているのか。ヴァルハラは犯人を見つけるため、それぞれのキャラクターの真意を探る。

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    ティーパーティーの参加者で最年少のララ。ピンク色の髪が愛らしく、デフォルメされたキャラ絵が可愛い!

体験版では、チュートリアルとしてララの真意を探るための「推理パート」が楽しめた。ヴァルハラは、師匠が遺した不思議な時計を使い、相手キャラクターの心の中へと侵入する。

まずは、「無意識」の世界で相手の思考を読み取り、情報を整理しなければならない。ララの思考から真実を導き出すと、「深淵」に潜るための「鍵」が手に入った。鍵を使ってララの心を開くと、次に広がるのは幼い頃のララの「記憶の部屋」だ。

記憶の部屋は、さらなる心の奥底に進むための関門で、過去の一場面が展開される。ララの真意を掴むには、記憶の部屋を探索して手がかりを見つけ、幼いララの身に何が起こったのかを「再演」しなければならない。

ララの場合は、裁判のワンシーンが用意されていた。記憶の部屋から見つけた手がかりを頼りに裁判を再演すると、ララの父親が後輩に濡れ衣を着せられ、高位薬剤師の地位を剥奪された真実が暴かれた。そしてヴァルハラは、ララの父親を裏切った後輩は師匠なのかもしれない、という疑念に駆られる……。

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    無意識の世界でララの思考を順に読み解き、心の扉を開くための鍵を手に入れる

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    ララの過去の一場面が描かれた、記憶の部屋。探索できる箇所には「!」が表示されているので、わかりやすい

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    記憶の部屋で見つけた手がかりをヒントに、裁判のシーンを再演。ララのトラウマから新たな真実が見えてくる

2Dイラストと3Dマップを融合した、飛び出す絵本のようなグラフィックが特徴的な本作だが、精神世界で繰り広げられる推理パートでは特にその魅力が爆発していた。サイケデリックな色味で描かれる、おどろおどろしい雰囲気が、キャラクターの心の闇を見事に表現している。

体験版では、ララの心の中だけが明らかとなったが、今後の展開ではそのほかのキャラクターたちの心の中も覗いていくことになる。それぞれの精神世界で、どんな物語が待ち受けているのか。ヴァルハラの師匠を殺害した真犯人も気になるところではあるが、個々のキャラクターの深掘りも非常に楽しみな作品だ。

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    『KILLA』は、2025年5月の発売を予定している。プラットフォームはSteam

巨大な美少女に飼われる、癖の強い小人たち。『SAEKO: Giantess Dating Sim』

『SAEKO: Giantess Dating Sim』は、日本のインディーゲームサークル「SAFE HAVN STUDIO」が手がける、ビジュアルノベル形式のアドベンチャーゲームだ。2000年代の日本を舞台に、不思議な力で親指ほどの背丈に縮んでしまった小人たちと、彼らの何十倍も大きい少女「冴子」の関係性を描く。

物語は、主人公の男の子「リン」が雨の降る夜に冴子と出会うシーンからはじまる。気を失ったリンが目覚めると、背丈が小人サイズに変わり、名前以外の記憶を失っていた。目の前には巨人のような大きさの冴子が座り、リンを危険から守るために自室へ連れ帰ってきたと話す。

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    『SAEKO: Giantess Dating Sim』のタイトル画面。巨大な黒髪美少女との物語と聞いて、筆者もワクワクでゲームをスタートした

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    冴子の自室で目を覚ました、主人公のリン。マグカップよりもさらに小さい、小人サイズへと姿が変わっていた

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    部屋のなかを移動するにも、小人の姿では冴子に頼るほかない。手のひらとの対比で、よりサイズ感が伝わってくる

リンは、冴子の部屋にある机の引き出しのなかで、同じく小人サイズになってしまった仲間たちと生活を共にすることになるのだが、この仲間たちが一癖も二癖もあって強烈だった。

リンに真っ先に話しかけてくれたのは、新入りの「モコ」だ。彼女はリンの一日前に小人になり、冴子に連れてこられたらしい。小人になるという驚きの展開に、普通なら狼狽えてしまいそうだが、モコは違った。黒髪美少女の生活を覗き見ながら、お世話をしてもらえることに喜びを感じているのだ。「ヘアゴムの匂いでも嗅ぎに行こうかな」と言い出したり、中性的な見た目のリンの性別を確かめるためにボディタッチをしてきたりと、アブノーマルな性的嗜好がダダ漏れている。

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    暗い引き出しのなかで一番に声をかけてくれた、新入りの小人のモコ

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    モコは、巨大な冴子や男の娘のリンに囲まれた現状を「萌えの玉手箱!」と称し、エンジョイしている

そんなモコが警戒するのが、イケメンの「タキ」だ。彼はリンやモコに比べて小人歴が長く、引き出しのなかでの過ごし方や注意事項を説明してくれる。状況が飲み込めないリンを落ち着かせようと深呼吸させたり、モコに対しても「イケメンって褒めてくれてありがとう」と気さくに声をかけたり、物腰が柔らかく見える。しかし、会話を進めていくと、どうやら人の心の声を読める特殊能力を持ったキャラクターだと分かる。本人は「テレパシーではなく、他人に対する勘が鋭いだけ」と弁明してくるが、どこか胡散臭く信頼できない。

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    大人びた雰囲気のタキ。先輩小人として、新入りのリンやモコに引き出しでの過ごし方を説明する

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    引き出しのなかにあるものは、小人たちのために冴子が用意した私物なのだそう。タキが使い方を指南してくれる

もう1人の女性「チオ」も、名乗る前からリンの名前を知っていたり、初対面にもかかわらず自分の名前を当てるように促してきたりと、只者ではないオーラをまとっている。挙げ句の果てには、記憶喪失のリンに対して「童貞」と言い放つなど、モコに負けず劣らずな性的発言が飛び出した。

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    引き出しの隅っこに座り込んでいたチオ。彼女はタキと同じく、そこそこの小人歴があるようだ

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    初対面なのにデリケートな話題をズバリと言ってくる遠慮のなさに、思わず笑ってしまった

同じ境遇をたどる仲間たちがいて心強いかと思いきや、癖の強い面々ばかりでちっとも安心できない……! そして何よりも不穏なのが、小人たちの主人である冴子だ。

冴子が大学から帰宅すると、リンは引き出しのなかから出て冴子と世間話をする。他愛のない会話に思えるが、相槌を打たないと「話を聞いていないのか」と怒られたり、返事をしすぎると今度は「うるさい」と怒られたり、コミュニケーションが難しい。年頃の女の子のワガママで理不尽な性格がよく表されている上に、小人目線で見た巨大な冴子の姿がさらに恐怖を煽ってくる。

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    引き出しを開き、小人たちの様子をうかがう冴子。笑顔の奥に、どこか狂気を感じる……

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    冴子との会話パートでは、「うん。」「いいえ。」などの選択肢が表示される。時間経過で自動的に次の話題へ移ってしまうので、プレイヤーは素早く回答を選択しなければならない

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    返事がないことに不機嫌になる冴子。「女の子の話には、適度に相槌を打たねばならない」のがリアルすぎる!

タイトルに「Dating Sim(恋愛シミュレーション)」とあるのが不思議だったが、引き出しのなかでの過ごし方や会話パートでの選択肢で上手いこと調節をしながら、冴子のご機嫌を保つ必要があるのだと、1日過ごしてようやく理解した。もし冴子の機嫌を損ねるようなことがあれば、小人たちは悲惨な運命を辿ることになる。1日でも長く生き延びるために、プレイヤーは常に気を張っていなければならない。

個性豊かなキャラクターたち以外にも、ピクセルアートで描かれるダイナミックな構図のグラフィック、予測不能なストーリー展開、ローファイ・ヒップホップのBGMなど、本作の魅力はまだまだ語り尽くせない。

『SAEKO: Giantess Dating Sim』は、2024年の発売を予定している。プラットフォームはSteamだ。今のうちに年頃の女の子との接し方を勉強しつつ、製品版の発売を楽しみに待ちたい。

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    小人たちは文字通り冴子に「命を握られている」ので、機嫌を損ねないよう上手く立ち回らなければならない

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    「TGS2024」では、IGN JAPAN STOREのブースでグッズが販売されていた。筆者も早速アクスタをゲット! 部屋に飾って冴子気分を味わいつつ、本作の発売を待つ