2024年9月21日から22日にかけて、NASF JAPANが主催する高校生eスポーツ大会「NASEF JAPAN 全日本高校eスポーツ選手権」の『League of Legends』(以下、LoL)部門のオンライン予選が行われました。
全日制高校のeスポーツ部は、普段どのように練習を重ねて、どのように大会出場を経験するのでしょうか。この大会にエントリーした、滋賀県立八幡工業高等学校(以下、八幡工業高校)eスポーツ部への取材をもとに、大会出場の模様を追いました。
全日制高校と通信制高校を別ブロックに分ける画期的な変更
私が今回この取材をしようと思った理由は、大きく2つあります。まず1つは、「NASEF JAPAN 全日本高校eスポーツ選手権」において、全日制高校と通信制高校のブロックを分けるブロック制が導入されたことです。
これまで高校生eスポーツ大会では、全日制高校と通信制高校がひとくくりにされていましたが、実力には圧倒的な差があるのが現状。というのも、通信制高校ではeスポーツ部の活動により多くの時間を割いており、かつ専門のeスポーツコースを設けている学校もあるなど、そもそもの環境が大きく異なるからです。
そのため、全日制高校eスポーツ部にとって大会トーナメントは運要素が強く、到底勝てるとは思えないような格上チームと当たる可能性がありました。顧問の先生たちからは、「通信制高校と当たらないことを祈るしかない」といった声があがっていたほどです。そうした背景を踏まえると、ブロック制の導入は画期的な変更といえます。
もう1つの理由は、八幡工業高校が全日制高校eスポーツ部のなかでも、夏の合同合宿など熱心な活動をしているものの、実力的に特別な強豪校というわけではないからです。メディアが高校eスポーツ部を取り上げるとなれば、たいていはオフライン全国決勝に進出したり、そこで優勝したりするような強豪校にスポットライトが当たりがちです。
ですが、「NASEF JAPAN 全日本高校eスポーツ選手権」LoL部門に出場する75校140チームのうち、ブロック予選を勝ち抜き、オフライン全国決勝に進めるのは、わずか4校のみ。大多数の高校は配信されないブロック予選で敗退するため、八幡工業高校への取材を通じて、多くの高校が経験するであろうリアルな大会出場の模様を追いかけたいという思いがありました。
初戦突破を目指し、大会に向けて週5でチーム練習を重ねる
八幡工業高校のeスポーツ部は複数のゲームタイトルで活動していますが、今回フォーカスしたのは『LoL』で活動するチームです。八幡工業高校の『LoL』チームは、なかなか高校生大会で勝利できない状況が続いていましたが、今年6月に行われた「STAGE:0」オンライン予選の1回戦で、ようやく念願の初勝利をつかみました。今回の大会でも、まずは「目指せ1勝」を掲げて練習を重ねます。
大会に挑むメンバーは、3年生が2人(トップとジャングル)、2年生が2人(ADCとサポート)、1年生が1人(ミッド)の5人です。ゲーム内ランクは、3年生がプラチナとシルバー、2年生がブロンズとアイアン、1年生がアンランク。全員eスポーツ部に入ってから『LoL』を始めているため、基本的にはプレイ歴の長さとランクが比例しており、これはどの高校も同様の傾向にあるようです。
普段の練習は、月・水・木・金・土の週5日。平日は放課後の2~3時間、部室に集まって主にノーマルマッチをまわして練習します。ただ、生徒によっては補習があったりアルバイトがあったりするため、毎回必ずしもチーム全員がそろうとは限りません。土曜日も部室に集まり、9時から16時ごろまで練習します。
大会が近づくと、出場校がお互いに声を掛け合い、練習試合が増えていきます。夏の合同合宿に参加した高校とオンラインで練習試合を行う、合宿アフタースクリムなども実施されました。練習試合後には、チームでリプレイを見ながら反省会を行い、課題を見つけながら試行錯誤を続けます。
チームで話し合い、試行錯誤しながら練習していく経験は、部活動として重要な要素の1つでしょう。八幡工業高校では、外部のコーチを招いてフィードバックを受ける機会も設けており、知識や経験の蓄積から年々話し合いの質が向上しているとのこと。顧問の三浦先生は、「eスポーツ部自体の成長を感じる」と語ります。
いよいよ大会当日、果たして「目指せ1勝」は叶うのか――。
そして、いよいよ大会当日。初戦の対戦相手、熊本市立千原台高等学校「CHR」は過去に戦ったことのないチームで、戦績情報サイトの「OP.GG」などを見る限りでは、八幡工業高校と近い実力を持つチームと予想されていました。
八幡工業高校のチーム名は「gnar!!」。これはチームのエースであるトップレーナーの生徒が得意とするチャンピオン、ナーの鳴き声から取ったものです。ただ、高校生大会では使いこなせるチャンピオンの数がお互いに少ない傾向にあるため、「OP.GG」などで情報収集し、ランクが高い生徒の得意チャンピオンはバンするのがセオリー。相手校もしっかりと調査済みだったようで、バンピックではナーがバンされました。
とはいえ、それは八幡工業高校にとっても想定内。バンピックではおおむね狙い通りの構成でピックすることができました。バンピックが終わり、ついに初戦のゲームがスタート。試合はBo1なので、1ゲームにすべてが懸かっています。
八幡工業高校は、これまでの練習試合での試行錯誤の末、3年生が担うトップとジャングルを中心に試合を動かしていく方針を立てていました。ところが、ゲーム序盤に思わぬハプニングが起きます。
トップレーナーの生徒の使うPCにトラブルが発生し、ポーズをかけてゲームを一時中断。違うPCに移動して、試合を再開することになりました。このアクシデントの影響で、トップレーナーの生徒は思うような試合運びができず、苦しい展開に追い込まれてしまいます。
相手チームは、ゲーム内ランクからミッドとジャングルが3年生、ボットレーンの2人が1年生だろうと推測されていました。八幡工業高校は、まだ経験の浅い1年生がミッドを担っているので、もともと苦しいマッチアップ。となると、実力的に上回っていると予想されるボットレーンで、なんとかチャンスを広げたいところです。
しかし、相手チームはジグスでミニオンを処理しながらも、タワー下から出ず交戦を避ける作戦を取ってきました。これに対してボットレーンの2人は、どう攻めるべきかわからず、優位をつくれない状態が続きます。これは、相手の作戦が一枚上手だったと言わざるを得ないでしょう。
最終的には、じわじわと全レーンが押されてしまい敗北。八幡工業高校は、残念ながら切望した1勝には手が届かず、大会敗退が決まってしまいました。チームで何カ月も練習を重ねてきて、30分前後のたった1ゲームで終わってしまうとは、なんとも厳しい現実です。
ただ、これは決して八幡工業高校だけが経験していることではありません。大会はシングルエリミネーションで行われているため、出場チームの半数である70チームが、わずか1ゲームで敗退しているのです。高校生大会における1勝が、これほどまでに重いものだとは想像していませんでした。
これを踏まえると、ダブルエリミネーションやBo3にするべきなのではないかと感じてしまいます。ただ実際には、高校生大会はプロシーンほど実力が拮抗しているわけではありません。もちろん接戦がくり広げられることもありますが、1ゲームで明確な差がつく試合が比較的多い傾向にあります。
なにより、高校生大会には多数のチームがエントリーしているため、試合数を増やすと膨大な時間がかかってしまいます。eスポーツ部にとって高校生大会は重要な目標ですから、試合数を増やすために出場できない高校が出てきてしまったら本末転倒でしょう。となると、少なくとも現状は、これが現実的な試合形式なのだろうと考えられます。
全日制高校eスポーツ部のなかでも、強さを分ける要素とは?
初戦で八幡工業高校を破った熊本市立千原台高等学校は、次の試合で敗退。この試合で対戦相手となったチームは、強豪校の福岡県立八女工業高等学校(以下、八女工業高校)「JGGAP脳筋」でした。このチームは、最終的に西日本全日制ブロックのトーナメントを勝ち抜き、全国決勝への進出を決めています。
全日制高校のeスポーツ部も、年々学校同士の横のつながりが増え、より活発に練習試合が行われるようになったことで、全体的なレベルが上がっています。さらに、全日制高校のなかでも強豪校と呼ばれる高校がいくつか存在します。いったいどのような要素から、強さの違いが生まれているのでしょうか。
三浦先生によれば、八女工業高校は活動環境などが特段異なるわけではなく、大きな違いがあるのはeスポーツ部で『LoL』をプレイしている人数だといいます。八幡工業高校のeスポーツ部で『LoL』をプレイしているのは5人で、1チーム組めるだけの人数しかいません。
しかし、今回の大会で八女工業高校からは、同一校からのエントリー上限である3チームが出場しており、少なくとも15人以上が所属していることがわかります。人数が多い理由は、活動タイトルを『LoL』に絞っているから。部内で複数のチームが組めれば、他校に声を掛けなくとも校内のチーム同士で練習試合を重ねられるため、練習上のメリットはかなり大きいでしょう。
また、前述の通りeスポーツ部では、入部をきっかけに『LoL』を始める生徒が多く、学年とランクが比例する傾向にあります。つまり、3年生を5人そろえてチームを組めば、強いチームになりやすいのかもしれませんが、実現するにはやはり人数が必要です。
それ以外の要素としては、eスポーツ部に入る前から本格的に『LoL』をプレイしてきたような、ずば抜けて上手い生徒がいることも挙げられます。ただ、その場合はその生徒が所属している間の一時的なものである可能性が高く、学校としての強さに影響する要素としては、やはり人数が大きいといえそうです。
勝敗の結果以上に、努力してきた過程での成長があった
残念ながら初戦で今大会での挑戦を終えた八幡工業高校ですが、チームを引っ張っていこうとしていた3年生の2人にとっては、ひときわ悔しい結果でした。特にトップレーナーの生徒は、PCトラブルによって力を出しきれなかった部分も大きく、三浦先生もどう声をかけるべきか戸惑ったと話します。
なにより、3年生にとっては最後の大きな高校生大会でもありました。ただ、この時点ではまだ「U19 eスポーツ選手権」への出場が残っており、生徒たちはすぐにその最後の挑戦に向けて気持ちを切り替えていたようです。「U19 eスポーツ選手権」は、19歳以下であれば出場できるため、学校の縛りがなく高校生大会よりレベルが上がりますが、実力を出し切って終われることを祈るばかりです。
3年生の2人をずっと見てきた三浦先生は、「大事にしているのは勝つために努力する過程。もちろん勝ちたかったけれど、勝ち負けの結果以上に、この3年間の経験ですごく成長してくれたことが良かった」と振り返ります。もともと2人は内気で、あまり積極的に話すタイプではありませんでしたが、上級生になるにつれ、チームをまとめようと自ら声を掛けるようになっていきました。
2年生のころには、上級生との話し合いのなかでお互いに言葉が強くなってしまい、傷ついた経験から、『LoL』を続けるかどうか悩んだこともあったようです。ときにはぶつかりながらも、チームでの活動を続けてきた経験は、間違いなく生徒たちの人間的な成長につながっているでしょう。
運動部の顧問も経験してきた三浦先生は、「トーナメントを勝ち抜く学校以外はどこかで負けるので、負けたときにそれまでやってきたことの意味が感じられるかが重要。例えば、野球部が大会で負けたからといって、それまでのすべてが否定されることはなく、勝利を目指して努力を重ねたり成長したりした部分があるからこそ、“野球をやってきてよかった”と思う。eスポーツでもそれと同じ価値を得られることが大きい」と語ります。
勝利を追い求めるプロシーンとは違って、部活動でどこまで強く勝ちにこだわるかは、各校の考え方や方針によるところも大きいでしょう。今回こうして、配信には映らない大会出場の模様を追いかけてみると、人間的な成長を目指す高校eスポーツならではの価値観が改めて伝わってきました。あくまでピックアップした1校のストーリーではありますが、eスポーツ部のリアルな姿が垣間見えたのではないでしょうか。
「NASEF JAPAN 全日本高校eスポーツ選手権」では、ブロック予選を勝ち抜いたチームによるオフライン全国決勝が、12月28日(LoL部門)と12月29日(VALORANT部門)に開催されます。トーナメントを勝ち抜いた高校にも、また違ったそれぞれのストーリーがあることでしょう。強豪校が集結する全国決勝では、どのような戦いがくり広げられるのかも楽しみです。