2024年8月23日から渋谷PARCOの「GALLERY X BY PARCO」にて、インディーゲームレーベル「ヨカゼ」初の展覧会「『ヨカゼの公園』Indie Game Label “Yokaze” Exhibition」がスタートした。
ヨカゼは、グラフィックや音楽、テキスト、ゲーム性など、さまざまな要素を折り合わせた、「世界に浸れる作品」を多数ラインアップするインディーゲームレーベル。第24回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門 新人賞を受賞した『アンリアルライフ』をはじめ、情緒あふれる独自の世界観で多くのゲームファンを魅了する。かくいう筆者も、ファンの1人だ。
展覧会では、これまでに発売された作品の展示物や映像に加え、全14ゲームタイトルの試遊が楽しめる。メディア向け内覧会に参加する機会をいただいたので、いちヨカゼファンとして、展覧会の魅力を紹介したい。
設定資料や映像で味わう、ヨカゼの世界
展示会場へ足を踏み入れると、早速『アンリアルライフ』に登場するホテル「くじら」の「支配人」が出迎えてくれた。未知の世界に戸惑う主人公の少女「ハル」に優しく言葉をかけていた彼の姿を見ると、どこかホッとする。
続いて登場したのは、『アンリアルライフ』のもう1人の主人公、AI信号機「195」だ。作中でハルを道案内したように、展示会場の入口に立って参加者をヨカゼの世界へと導いてくれる。チカチカと明滅する赤信号を見ていると、195が語りかけているようでうれしくなった。
展示は『アンリアルライフ』の世界が続き、バーチャルシンガーのヰ世界情緒さんのナレーションと共にヨカゼの言葉が紡がれる。壁面の一部には映像が投影され、『アンリアルライフ』のキャラクターたちが次々と登場。筆者が大好きなペンギンの駅員「カセリ」も現れ、いつも通りプカプカとたばこをふかしていた。
壁面が変わると、次にはヨカゼの作品の設定資料が展示されていた。展示パネルにフェンスを用い、張り紙やポスターのように飾られているのがおもしろい。作品ごとに、キャラクターデザインやシナリオ原稿、背景画のイメージボードが載る。なかには今回の展覧会で初めて公開された情報もあるので、一つひとつじっくりと眺めたくなる。
また、設定資料のフェンスの間にはモニターが設置され、ヨカゼの作品を紹介する映像番組「ヨカゼナイト」を視聴できる。展覧会初日の夜には、ヨカゼのYouTubeチャンネルにて新たな動画が公開された。会場のモニターにも最新の「ヨカゼナイト」が流れ、貴重な設定資料と照らし合わせながら作品をチェックできる。
会場の片隅に目をやると、神社のおみくじのように白い紙が結ばれたフェンスがあった。スタッフに訊ねると、開発者へのメッセージを書くことができるのだそう。一般的な展覧会で見られる寄せ書きのメッセージボードとは異なり、ほかの参加者にメッセージの内容を読まれることなく、こっそりと想いを届けられるのが、なんともヨカゼらしくて素敵だ。展覧会に参加した方は、ぜひヨカゼへの想いを書き残してほしい。
開発中の『ピギーワン SUPER SPARK』を最速試遊プレイ!
今回の展覧会で一番驚いたのは、会場の中央に用意されたゲームの試遊エリアだ。一般的な試遊会で使用されるPCモニターではなく、なんとブラウン管テレビが3台用意されていた。学校の勉強机やビールケース、芝生の上にテレビが設置され、不思議な雰囲気を醸し出している。
展覧会では、これまでに発売されたヨカゼの作品に加え、現在開発中の2Dドットアクションゲーム『ピギーワン SUPER SPARK』をいち早く楽しめる。発売を心待ちにしている筆者もドキドキわくわくしながら席につき、早速ゲームをプレイしてみた。
『ピギーワン SUPER SPARK』は、音楽バンド「ずっと真夜中でいいのに。」のMVを担当したアニメーター・はなぶし氏と、『アンリアルライフ』の作者であるゲーム開発者・hako 生活氏がタッグを組み、制作されているタイトルだ。物語の主人公は「シャミィ」と「ユエズ」。2人は、ネオンきらめく廃墟の奥にある古代遺跡に落ちてしまい、そこで出会った不思議な力を持つ赤ちゃんと冒険の旅に出る。
試遊プレイでは、怪しげな雰囲気の地下通路ステージが登場。「ジャンプ」で段差や穴を飛び越え、横スクロールしながら奥へと進んでいく。ステージにはスライムのような敵やトゲトゲした障害物が配置され、それらに当たるとダメージを受ける。定期的に用意されたチェックポイントを通過すると、体力が回復。アクションが苦手な人が詰まらないよう、丁寧に設計されていた。
「ジャンプ」のほかにも、任意の方向へ加速しながらダッシュジャンプするギミックや、赤ちゃんが放つ電撃を利用して「カデン(家電)」を操作するギミックなど、さまざまなアクションが登場。生き生きと動くキャラクターがとても魅力的で、はなぶし氏の描くアニメーションをそのまま味わえる気持ちの良い操作感だった。
ステージの最後では謎の黒い怪物が現れ、赤ちゃんを狙って襲いかかってくる。ダッシュジャンプを使いながら必死に逃げ切ったところで試遊版はゲームクリアとなり、ティーザー映像が流れたあと、エンドカードが表示されてプレイが終了した。
ゲームプレイを通して、『ピギーワン SUPER SPARK』にさらなる期待感が高まったのはもちろんのこと、特に感動したのはブラウン管テレビとヨカゼの作品との相性の良さだ。ドット絵はブラウン管テレビを通すと、独特の滲みを生む。その滲みがプレイヤーに懐かしさを与え、ヨカゼの作品に共通するエモーショナルな表現をより魅力的に演出していた。
この試遊エリアは、展覧会を企画したroom6のパブリッシング担当・高市さんもイチオシの展示で、「ブラウン管テレビならではの質感に作品の世界観が見事にマッチして、開発者の方々も感動していました」と教えてくれた。
ブラウン管テレビのほか、会場にはSteam Deckが3台、iPad miniが1台用意されている。ぜひ、「ヨカゼの公園」という特別な空間で、特別なゲーム体験を楽しんでほしい。
なお、会場にて「『ピギーワン SUPER SPARK』を試遊しました」とスタッフに伝えると、エンドカードを描いたポストカードがもらえるので、こちらも逃さずゲットしよう!
作品の魅力が詰まった、展覧会オリジナルグッズも販売
会場には、展覧会オリジナルグッズを購入できる物販コーナーも設けられている。各ゲームタイトルのキャラクターや世界観を反映したアイテムがそろっており、なかにはこの展覧会に合わせて新たに描き下ろされたイラストのグッズもあった。
オリジナリティあふれるグッズのなかでも、筆者が特におすすめしたいのは、「CD型ミュージックキーホルダー」だ。CDアルバムをイメージしたデザインが可愛らしいだけでなく、キーホルダーをスマホにかざすと作中の音楽を聴くことができる。専用のアプリをダウンロードする必要はなく、ただ「かざすだけ」の手軽さがうれしい。ふとした瞬間に、ヨカゼの世界に浸らせてくれる、とても素敵なアイテムだ。
ほかのグッズも、キャラクターのアクリルキーホルダーや、作中のワンシーンを描いたステッカー、ヨカゼナイトのポストカードに加え、『アンリアルライフ』のキーアイテム「エビのビン」をモチーフにしたキャンドル、夏にぴったりの『Recolit』の線香花火、『ghostpia』の主人公・小夜子が眠るベッドをイメージしたブランケットなど、ファンにはたまらないラインアップといえる。
グッズを購入して展覧会の余韻を日常に持ち帰りつつ、制作中のタイトルや次なる活動など、続く「ヨカゼの世界」を楽しみに待ちたい。