楽天モバイルは8月9日に2024年度第2四半期(2024年4月~6月)の決算を発表した。同日開催された決算説明会には三木谷浩史会長兼CEOが登壇して事業の現状についての説明にあたった。

「“マーケティング前キャッシュフロー”が黒字化」の意味するところ

決算説明会の冒頭に三木谷氏は、楽天モバイルの現状に言及。全契約回線数が8月7日時点で770万回線に達したこと、基本料無料キャンペーンの終了以降で四半期単位のB2C増加幅が最大となったこと、さらに楽天モバイル単体での“マーケティング前キャッシュフロー”(PMCF)が黒字化していることが報告された。

  • 楽天モバイルの現状ハイライト

    冒頭に示された楽天モバイルの現状ハイライト

この“マーケティング前キャッシュフロー”はあまりなじみのない指標だが、楽天モバイル契約者による同社グループサービスの利益押上額を含む楽天モバイル株式会社のEBITDAに、マーケティング費用/ショップ費用などの顧客獲得費用を足し戻して算出したものだという。顧客獲得費用を足し戻しているということは、この費用を支出から除外しているということ。つまり、新規獲得のための費用を除いた恒常的なコストについては楽天モバイル契約者からの収入と楽天グループ各サービスの利益押し上げでカバーされているというのが、この「“マーケティング前キャッシュフロー”(PMCF)が黒字化」の意味するところのようだ。

  • “マーケティング前キャッシュフロー”の推移

    “マーケティング前キャッシュフロー”の推移

もちろん楽天モバイルは引き続き顧客獲得のため、投資を行っていくフェーズにあり、プレゼンテーションでも「早期のEBITDA及び営業黒字化を目指す」とされている。それでも収支の改善は順調に進んでいるのは間違いないようだ。

モバイルセグメントの詳細を解説したパートで発表された数字では、同セグメントの売上収益が前年同期比18.6%増の950億円、Non-GAAP営業損失が同じく218億円改善の606億円、EBITDAが同じく253億円改善のマイナスとなっている。B2Cの契約回線数増加がサービス収益/Non-GAAP営業利益の改善につながっているという。

  • モバイルセグメントの第2四半期ハイライト

    モバイルセグメントの第2四半期ハイライト

  • 楽天モバイルの売上収益/Non-GAAP営業利益の推移

    楽天モバイルの売上収益/Non-GAAP営業利益の推移

  • 楽天モバイルの主要KPI

    楽天モバイルの主要KPI

第2四半期は契約獲得が好調。インターネット利用の多い年代の増加に自信

モバイルセグメントのトピックとして、契約獲得/ARPU/楽天エコシステム拡大への貢献の3つのポイントが紹介された。

契約獲得については、紹介キャンペーンやエコシステム経由の獲得が好調でB2Cを中心に契約回線数が伸長。他キャリアとの間のMNPも、2024年1月以来流入による純増を続けているという。解約率も逓減傾向で、インセンティブ目的と考えられる開通直後の解約の影響を除外した調整後MNO解約率は6月時点で1.04%と順調に抑制できているようだ。

  • MNO契約回線数の純増数

    MNO契約回線数の純増数の推移

  • MNO(B2C)のMNPによる純増数

    MNO(B2C)のMNPによる純増数の推移

  • 解約率

    解約率の推移

2024年に入っての獲得の好調さには、グループ内のキャンペーンの貢献が大きいという。また年代別に見ると23~29歳、30~34歳が好調とのことで、人口対契約回線比でそれぞれ1.5ポイント/1.3ポイントの増加。すでに10%を超えている30~34歳、35~39歳に加えて23~29歳でも10%越えが目前となり、インターネットサービスの利用に積極的な年代のユーザーが増えていることに手ごたえを感じているようだ。

  • 獲得経路

    具体的な数字や比率は未公表ながら、グループ内キャンペーンが契約獲得に貢献しているという

  • 年代別の人口対契約比

    年代別の人口対契約比

通信品質改善への取り組みについては、待望のプラチナバンドの商用サービスが6月27日にスタート。現時点でプラチナパンドの基地局は限られているものの、商用サービス開始自体は当初計画を1年半以上前倒していることを強調し、今後も計画全体を前倒しして進めていくと明言した。

  • 通信品質改善への取り組み

    通信品質改善への取り組み

  • プラチナバンドサービス開始による電波状況改善

    プラチナバンドサービス開始による電波状況改善

  • プラチナバンドサービスのスケジュールイメージ

    プラチナバンドサービスの提供は前倒しで進めるという

さらに基地局ソフトウェアのアップデートや衛星通信との干渉緩和による5G(Sub6)エリアの拡大などにより、通信速度や安定性が改善していることも紹介。商業施設等での屋内通信品質改善も継続的に実施しているという。

  • 5G基地局のソフトウェアアップデートによる品質改善

    5G基地局のソフトウェアアップデートによる品質改善。基地局整備が他社より遅くはじまった結果、楽天モバイルの基地局は8割でMassive MIMOを採用できているという

  • 衛星通信との干渉緩和の恩恵

    衛星通信との干渉緩和についてはKDDIが強くアピールしているが、楽天モバイルも同じように恩恵を受けている

  • 通信品質の改善に伴うデータ通信利用量の変化

    通信品質の改善に伴うデータ通信利用量の変化。直近でデータ利用量の増加が顕著で、ARPU向上に貢献しているという

  • 屋内での通信品質改善

    商業施設等の屋内での通信品質改善も進めている

「通信品質」「フェアなワンプラン」「エコシステムからの押し上げ」が伸長要因

MNOサービスの純粋なARPUは2024年第2四半期としては2,021円。楽天エコシステム利用のアップリフトを含めた数字としては3,037円になる。

  • MNOサービスのARPUの推移

    MNOサービスのARPUの推移。季節変動もあるためこの1年は停滞気味にも見えるが、前年同期比/全四半期比ともに第2四半期は伸長となった

  • 前々四半期/前四半期とのARPU増減の詳細

    前々四半期/前四半期とのARPU増減の詳細。今四半期はB2C/B2Bともに前四半期から上昇

楽天モバイルの意義としてたびたび言及される楽天グループのサービス利用のアップリフト効果についてもあらためていくつかのデータが提示されたが、総じて「楽天モバイルの契約者は被契約者にくらべて多くの楽天サービスを利用し、またその利用額も大きい」というこれまでの説明と同様の内容。

  • 楽天サービス利用数の推移

    楽天モバイル契約者と非契約者の楽天サービス利用数の推移

  • 各楽天サービスの流通総額

    楽天モバイルの契約の有無で分解した、各楽天サービスの流通総額

  • 楽天モバイル契約によるグループ利益押し上げ額の推移

    楽天モバイル契約によるグループ利益押し上げ額の推移

最後に、NTT法廃止について反対との姿勢をあらためて表明し、三木谷氏はプレゼンテーションを終えた。

  • NTT法の廃止反対

    最後にNTT法の廃止反対をあらためて表明

質疑応答では、先に開催されたソフトバンク/KDDIの四半期決算発表で両社が楽天モバイルの伸びを意識していたことに関連して、楽天モバイルが現在伸長している要因をどう見ているかという質問があった。これに対して三木谷氏は、「通信品質・カバレッジの向上」「わかりやすく、ユーザーにとってフェアなワンプラン」「楽天エコシステムからの押し上げ」の3点を挙げ、2026年からは通信衛星との直接通信による衛星通信も利用できるようになることで、いっそう魅力的なサービスになっていくという見通しを示した。

また、他社から「楽天モバイルの成長はSIM単体の契約が多いので、自社への影響は大きくない」と言われていることに対し、楽天モバイル代表取締役社長の矢澤俊介氏から、「SIM単体は乗り換えがしやすいのでそこが増えている傾向はあるが、バンドル契約もかなりのボリュームがあり、SIM単体だけが増えているということはない。バンドルも好調」というコメントもあった。