キャンプなどのアウトドアレジャーや防災用途で重宝するポータブル電源ですが、消費電力の大きな家電を使ったり急速充電をすると冷却ファンの騒音が甲高く響き渡ったり、排気口から熱風が出て不快に感じる製品もあります。

そのようななか、ドローンやジンバルカメラで知られるDJIが投入したポータブル電源は、ヘビーに充放電してもファンは低い音を立ててゆるゆる回転するのみで、かなり静かに使える点に驚きました。2200Wもの大出力に対応しながらコンパクトでパワフルなうえ、ソーラーパネル接続用端子など必要な装備をオプションで追加する方式にしたことでコスパにも優れます。製品選びの要素が価格になりがちなポータブル電源業界に突如現れた、機能で指名買いされる実力派となりそうです。

  • ドローンやジンバルカメラなどでバッテリー技術を培ってきたDJIが、満を持してポータブル電源市場に参入。機能や装備は一部で割り切った部分があるものの、他社製品と比べて圧倒的な静粛性が光る

ドローンのDJIがポータブル電源に参入した“必然”

DJIといえば、ドローンやジンバルカメラ、スタビライザーなど新機軸のカメラ製品で知られるメーカーですが、この春に初のポータブル電源「DJI Power」シリーズを投入。大容量&高出力の「DJI Power 1000」(実売価格は114,400円前後、以下「Power 1000」)とコンパクトな「DJI Power 500」(実売価格は58,300円前後)の2機種をラインナップしていますが、今回は前者のDJI Power 1000をお借りしてチェックしました。

  • 今回試した、大容量&高出力の上位モデル「DJI Power 1000」。高さは約225mmに抑えられているが、幅は約448mmあり、ワイド&ローなたたずまいだ。外装は濃いグレーで、アクセントとなる差し色はない。ちなみに、電源のオンオフ時にはDJIのドローンなどと同じ「ピリリ」という起動音が鳴る

そもそも、なぜドローンのDJIがポータブル電源を?と思うかもしれません。DJIが得意とするドローンやジンバルカメラは、機器を徹底的に小さく軽く仕上げつつ、高性能のモーターを高速に動かす必要があることから、「高出力が可能で急速充電にも対応する小さく軽いバッテリー」が求められます。DJIはさまざまな機器の開発でバッテリー技術が磨かれ、その技術を生かして作られたのがこのポータブル電源、というわけ。ポータブル電源で知られるEcoFlowも、創業者はDJI出身だったりします。

  • ドローンは、バッテリーに求められる性能がとてもシビア。ドローン開発で培われたバッテリー技術が、ポータブル電源に生かされている

容量の割に高出力、必要なものを拡張できる設計思想はパソコン似

Power 1000最大のポイントといえるのが、バッテリー容量(1024Wh)の割に出力が2200Wと大きいこと。2000Wクラスの出力を持つポータブル電源は、各社とも容量が2000Whクラスの大容量モデルがほとんどで、サイズも大きく価格も高価になりがち。「パワフルなのにコンパクト、価格も比較的お手ごろ」という仕様は絶妙だと感じます。

バッテリー容量を欲張っていないことから、本体はワイド&ローの箱形で圧迫感はそれほどありません。上部の左右に大型のハンドルを装備しながら、天板をフラットに仕上げており、充電する機器を載せられるのは便利だと感じます。

  • 接続端子類や表示パネルは前面上部に一直線に並ぶ。端子類のカバーは一部のみに装着されている。利用頻度の低い端子類だけにカバーが付いているというわけではなく、AC100V入力にカバーが備わっているのはいささか余計とも感じる

  • 天板はフラットで幅がある。使用時も熱はそれほど持たないので、さまざまな機器を置いておける

さまざまな接続端子が横一線に並ぶ前面パネルは、最大140W出力のUSB PD 3.1対応端子を2基(合計最大280W)搭載するのが目を引きます。140W対応のUSB充電器は現在1万円以上するので、その点から見ても魅力的といえます。ただ、AC100V出力は2つだけで、このスペックではちょっと少ないかな…と感じました。また、AC100V入力は表示パネルの右隣の一等地にあり、付属の太いACケーブルを接続すると目障りになるのが気になります。AC100V入力端子だけは側面にあってもよかったでしょう。

  • AC100V出力は2つだけ。アース端子なしのタイプでよいので、できれば3つは欲しかったところ

  • 表示パネルの下にUSB端子を搭載。USB PD 3.1端子は最大140W出力を誇る

  • AC100V入力端子の右には独自のSDC端子を用意。後述する別売アクセサリーを用いれば、ソーラーパネルやドローンの充電器などが接続できる

左右側面には大きな吸排気口があり、左側から給気して右側から排気します。吸排気口は少し奥まった場所にあり、壁などに密着させてもふさいでしまう心配はありません。一方、背面には端子や排気口などが一切なく、壁に密着して設置できるのは好ましいと感じます。

  • 左右側面には、このような形状の吸排気口を設けている。少し奥まった場所にあるので、うっかりふさぐ心配はない。排気口の下には、アクセサリーを固定するためのネジ穴を用意する

  • 背面はフラットで何もないので、壁に密着して設置できる

Power 1000で特徴的なのが、ソーラー入力など利用頻度の少ない端子が備わっていないこと。これらの端子は、別途オプションのケーブルやユニットを購入し、本体右端の独自端子(SDC端子)につなぐことで追加できます。つまり、標準では必要最小限の端子のみ搭載し、それ以外は必要なものをオプションで拡張する、というパソコンのような設計思想になっています。DJIらしく、同社のドローン充電用のケーブルも用意します。必要なものがある場合は出費がかさむものの、ポータブル電源本体の低価格化や小型化につながり、ユーザーフレンドリーな設計だと感じました。

  • ソーラーパネルを接続するためのソーラーパネル アダプターモジュール(9,680円)

  • クルマのシガーソケット経由で充電するための車内電源ソケット - SDC 電源ケーブル(8,800円)

  • DJIのドローンを急速充電するためのケーブルは、ドローンの機種ごとに用意する

  • ソーラーパネル アダプターモジュールは、側面のネジ穴を使って本体と一体化できる

急速充電時も驚くほど静か、機能はやや素っ気ない

Power 1000を使ってみて驚いたのが、騒音や発熱の小ささです。1200Wの急速充電をしながら1000W超の電気ポットを使う、という負荷の高い使い方をしても、騒音は低めのフォーという音が穏やかに聞こえるのみ。一般的なポータブル電源は、回転数が高まって甲高くなったファンの音が豪快に響き渡って耳障りに感じることが多いので、騒音の小ささは間違いなくポータブル電源でトップレベルだと感じます。

  • 1000Wを超える急速充電時に1000Wを超える家電を使ってみたが、冷却ファンの騒音は驚くほど静かだった。ちなみにパネルの表示は明るく、屋外でも見やすい

さらに、本体前面に充電速度の切り替えスイッチを搭載し、急速充電の1200Wと通常充電の600Wをワンタッチで切り替えられるのは便利だと感じます。急速充電は容量80%まで50分で充電できるものの、バッテリーに少なからず負荷をかけるので、ふだんは通常充電にしてイザという時に急速充電にチェンジ、という活用がスピーディーにできます。

  • AC100V入力端子の下に設けている充電速度切り替えスイッチ。バッテリーへの負荷を最小限に抑えるため、通常は600Wで充電するのがよい

一方で、ちょっと物足りなく感じる部分もありました。最新のポータブル電源にしては珍しくスマホ連携機能がなく、さまざまな設定変更やスマホ経由のファームウエアアップデートには対応していません(アップデートはUSB接続したパソコン経由で可能)。フル充電はせず80%容量で充電を止めるようにしてバッテリー寿命を長持ちさせる、バッテリー残量が10%を切ったらアラームを鳴らすようにする、といった設定変更はできないので、トータルの機能は全体的にシンプルといえます。

本体重量は約13kgでそんなに重くはないものの、片手では持ちづらい形状のため、持ち歩きの際は両手がふさがるのも留意点といえます。この点については、純正の保護収納ケースを用いれば片手で持ち歩けますが、肩掛けには対応していないのは残念なポイントといえます。

  • ひと昔前のカメラバッグのような見た目のPower 1000専用保護収納ケース(16,170円)。肩掛けには対応しないのが残念

  • 前面の端子部や左右側面は開くようになっており、ケースに入れたまま使える。耐水や防塵の性能もある程度は確保できるが、水しぶきや粉塵のかかる状況での使用は推奨していない

このように、いくつかの惜しいポイントはあるものの、「高い静粛性」「高出力でもコンパクト、お手ごろ価格」「最大140W出力のUSB PD 3.1」といった点はライバルと比べても上回ります。Osmo Pocket 3やMavicなどの魅力的なガジェットを出しているDJIのプロダクト、という点もファンの心をくすぐる要素。不要になったポータブル電源を無料で回収する仕組みもすでに整えており、安心して購入できます。ポータブル電源専業メーカーではないにもかかわらず、いきなりとがった製品を出してきたDJI、今後注目の存在となりそうです。