近年のMicrosoftはAI(人工知能)に注力している。同社の研究機関「Microsoft Research」による研究・開発結果は、さまざまな製品やサービスに反映されてきた。そしてこの流れを大きく変えたのが、LLM(大規模言語モデル)の実用化と生成AIのブレークスルーだ。すでにMicrosoft 365 AppsやMicrosoft Azureといった製品、サービス群にAI機能を実装し、一般コンシューマーからビジネスユーザーまで幅広く提供しているが、その範囲にはWindowsも含まれる。
Microsoftは現地時間2023年12月14日、公式ブログにて、WindowsにおけるNPU(Neural Processing Unit)のサポートを表明した。NPUは機械学習に特化したチップで、GPUよりも並列演算処理を得意とする。
現在のAI処理はクラウドの先にあるサーバーで処理しているケースがほとんどだが、利用者の増加とサーバーの負荷や発熱量は比例し、一部のメディアはMicrosoftがサーバー冷却水に苦慮していると報じた。とあるBtoB企業の調査によれば、クラウドで実行するコンピューティングもARMベースが1年で2倍に増加するなど、クラウドサービスプロバイダーやクラウド利用企業の苦労を裏付けている。企業がローカルもしくはエッジ側にAI処理を分散しようとするのも当然だろう。
なお、NPUのサポートはMicrosoftに限らず、GoogleやNVIDIAなど多くの企業が参入済み。すでにスマートフォンもiPhoneならばNeural Engine、Androidでの採用が多いSnapdragonもNPU搭載モデルを用意している。
WindowsでNPUをサポートするというMicrosoftの表明は、Intelの動向が大きい。Intelは現地時間2023年10月19日、AI PC Acceleration Programを始動させ、発表済みのIntel Core Ultraプロセッサー(Meteor Lake)にNPUを搭載することによって、2025年までに1億台以上のPCで「AI PC」を実現すると発表している。WindowsはIntel Core Ultraプロセッサー搭載PCでGPUとNPUを利用するDirectML(Direct Machine Learning)を用意し、アプリからの利用を抽象化させるという。開発者は学習済みモデルの管理や運用を容易にするONNX(Open Neural Network eXchange)Runtime APIやDirectMLを利用して、AIモデルの実行負担を軽減できる。概要はIntelの公式ブログで確認してみてほしい。
Windows自身もAI PCに対する準備を進めている。Canary版Windows 11 Insider Preview ビルド26016には、「設定」に「AI Components」が加わった。おそらくDirectMLなどを利用するアプリを管理する項目と思われるが、この記事を書いている時点ではいくつかのシステムコンポーネントが並び、先ごろ加わった「System Components」と大差ない。具体的な利用方法は不明ながら、おそらくAI対応アプリの管理を行うのだろう。興味がわいたら、DirectMLの動向に注目しておくとよい(2024年初頭に開発者プレビュー、2024年中にサポートを拡大する予定)。
問題はどのタイミングでNPU搭載PCを購入するかどうか。企業の開発者ならリースタイミングを踏まえた上で貸与申請し、個人の開発者はIntelの説明どおり2024年のNPU対応PCを導入すべきだろう。また、一見するとAI開発に携わらない一般ユーザーは関係がないように思えるが、NPUがAIアプリの性能を左右する可能性が高いため、普及具合を見ながら「AI PC」の購入を考えたい。筆者も2024年はPC環境を刷新する予定でいる。