10月19日、KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルをはじめとする電気通信事業者や地方自治体など180者が連名で「NTT法の見直しに関する要望書」を提出した。本記事では、NTTドコモを除く携帯キャリア3社が合同で開催した記者説明会より、各社のNTT法見直しに対する主張と要望書の概要を伝える。

  • NTT法を巡る動きを受けて、KDDI/ソフトバンク/楽天モバイルの3社のCEOによる記者会見が開かれた

    NTT法を巡る動きを受けて、KDDI/ソフトバンク/楽天モバイルの3社のCEOによる記者会見が開かれた

NTT法廃止・完全民営化の議論に「待った」

自民党内の「『日本電信電話株式会社等に関する法律』の在り方に関するプロジェクトチーム」や総務省情報通信審議会の通信政策特別委員会において、8月から日本電信電話株式会社等に関する法律(以下、NTT法)の廃止も含めたNTT完全民営化の可能性についての議論が進められている。

持株会社としてのNTTと東西2つの地域会社(NTT東日本・NTT西日本)は、元をたどれば国民の税金で整備された共有財産である通信インフラをはじめとした旧電電公社の資産・事業を受け継ぐ性質上、NTT法に基づく特殊会社とされており、民営化後も純粋な民間会社とはなっていない。

通信事業者としての公共性・公平性という面ではKDDIやソフトバンクのような民間の事業者と同様に電気通信事業法に沿った運営が求められることは変わらないが、それとは別に、国民の共有財産を預かる特殊性を鑑みてNTTという「組織」自体のあり方が公益から逸脱しないよう制限しているのがNTT法である。

そのNTT法にメスを入れることを含めた完全民営化の議論が今夏に急浮上した理由は、NTTとその筆頭株主である政府の思惑が重なったことにある。

NTT自身はかねてより事業戦略の柔軟性や競争力を高めるために完全民営化を望んでおり、近年ではNTTドコモの完全子会社化をはじめとするグループ再編を行うことで、規制下にある東西の地域会社以外を使って収益性の向上や事業の拡大をしやすいよう構造改革を図っている。

一方、政府がNTTへの規制緩和に乗り気になったのは「NTT株の売却」が狙いだ。政府はNTT株の3分の1以上を保有することがNTT法で定められており、実際に2023年3月時点で34.25%(約4.6兆円相当)を保有する筆頭株主となっている。昨今の世界情勢の悪化を受けて防衛費の増額とその財源確保が議論されるなかで、NTT法を緩和して政府保有株を売却できないかと目を付けたという経緯がある。

しかし、NTTの持つ通信インフラ、特に全国に行き渡った光ファイバー網は国民の共有財産であると同時にデジタル社会の礎でもある。仮にNTTが資本主義に基づいて利益を追求する純粋な民間会社となれば、ダークファイバ―や局舎スペースなどのリソース提供を受ける他事業者への大きな影響が予想されるほか、外資規制などを正しく行わなければ安全保障上の問題もある。

  • 通信事業者など180者が連名で「NTT法の見直しに関する要望書」を提出した

    通信事業者など180者が連名で「NTT法の見直しに関する要望書」を提出した

  • NTT法を緩和・廃止した場合の主な懸念点

    NTT法を緩和・廃止した場合の主な懸念点

こうした事情から、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのほか、全国各地のケーブルテレビ事業者、ISP、電力系通信事業者、自治体などがNTT法の廃止に反対し、より慎重な政策議論を求めて連名で要望書を提出した。提出先は自民党(政務調査会長/NTT法プロジェクトチーム座長)および総務大臣だ。要望には新潟県三条市や兵庫県豊岡市など自治体も名を連ねる。

2020年に同じくKDDI・ソフトバンク・楽天モバイルの3社が中心となって意見を提出したNTTドコモ完全子会社化に対する公正な競争環境整備の要望の際は37社(連名提出28社・賛同9社)であったことを見ても、関係する180もの企業・組織が異を唱える今回の事態の重大性が垣間見える。

KDDI/ソフトバンク/楽天モバイルの主張

3社共同で行われた記者会見には、KDDI 代表取締役社長 CEO 高橋誠氏、ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川潤一氏、楽天モバイル 代表取締役 共同CEO 鈴木和洋氏の3名が登壇した。

「NTT法の廃止には反対、部分的な見直しは認める」という結論は3社とも共通している。

  • KDDI資料

    KDDI資料

KDDIの高橋氏は「時代に合わせたNTT法の見直しは必要」と認めつつ、「国民の利益が損なわれるNTT法の廃止には絶対に反対」と強く主張した。

具体的には、NTTグループの再統合が可能になった場合に他事業者との公正な競争環境を保てなくなることを懸念するほか、既存の6000万ユーザーに対する通信サービスの提供義務の維持(ラストリゾートの確保)や公益性の高い通信事業に対しては外資規制による保護を行うよう求めた。現行のNTT法で定められている研究成果の開示義務の緩和など、国際競争力の強化に向けた見直しには賛同する。

  • ソフトバンク資料

    ソフトバンク資料

ソフトバンクの宮川氏は「NTTは我々と違って特殊法人であることを忘れてはいけない。公共資産を受け継いだ会社としての責務がある」として、NTTが完全民営化を望むなら、電電公社時代に注ぎ込まれた25兆円もの公費が土台となっている公共資産のすべてを国に返還するのが筋だと吐露する。しかしながら再国営化は現実的でない以上、「NTT法を必要に応じて一部改正したうえで維持し、引き続きNTTが公共資産を有する特殊法人として社会的責務を担うことが妥当ではないか」との見解を示した。

また、議論の発端となった防衛財源確保のための国有株の売却について、NTTが電電公社から受け継いだ資産は電柱や局舎のような通信に直接関係する設備・施設ばかりではなく、土地も大きな割合を占めていると指摘。「株を売るより、通信に関係ない土地だけでも国に返してもらって売った方が良いのではないか」と持論を語った。

  • 楽天モバイル資料

    楽天モバイル資料

楽天モバイルの鈴木氏は、NTT法の撤廃によってNTT東西とNTTドコモの連携強化が可能になれば市場の寡占化が進み、競争環境のバランスが崩れることで通信料金の値上げなど国民の不利益につながるというリスクを懸念する。

また、NTT・政府側の一部から上がっている「国際競争力を高めGAFAMと戦っていくには、NTT法からの解放が必要だ」という主張に対して、「日本でGAFAMのような企業が出てこないというが、AT&TやVerizon(アメリカの大手通信事業者)からそれらが出てきたわけではない。NTT法を改正したからといってGAFAMができるわけではない」と一蹴し、そういった土壌を育むスタートアップ支援の議論は別途必要だとした。

NTT側の規制緩和を求める根拠の薄さや主張のズレには他の2社も違和感を抱いているようで、会見では「(NTT=日本電信電話という名前は事業とマッチしていないから改名したいというが)NTTという名前は世界に通用する日本でも有数のブランドじゃないか」「NTT法があるからといって海外に出ていけないわけではない。ドコモだってNTTコミュニケーションズだって(NTT法による)制限はかかっていない」(宮川氏)、「『(公費を元にした国民の共有財産の部分で)資本分離をしないことには完全民営化の議論って成り立ちませんよね』と言っても無視される」(高橋氏)とこぼす。

記者会見の終盤、宮川氏は「いま、日本の光ファイバー敷設率は99.7%まで来ているが、残り0.3%というのがなかなか大変な場所が多い。今のユニバーサルサービスの規定は電話だが、これを見直して光ファイバーを対象にして全国民に行き渡るようにすれば未来の日本のためになる。そういった意味ではNTT法をもっと強化すべきだ」、高橋氏は「我々は抵抗勢力ではなく、通信によって世の中を良くしよう、世の中の人のためにこうあるべきだという議論をしていることをご理解いただきたい」と述べ、ますますデジタル化が進む社会における公益性を担保するうえでのNTT法の重要性を訴えた。