インテル恒例のプレス向け技術説明会を開催
インテルは2023年9月26日、不定期に行っている記者向けの技術説明会「Tech-Talk」を開催しました。今回は米国時間で9月19~20日にカリフォルニア州サンノゼで開催した「Intel Innovation」で発表された技術について解説しています。基調講演は米Intelサイトから視聴可能です。
最初にインテル株式会社 執行役員 技術本部長 町田奈穂氏がIntel Innovation」でのハイライトを紹介しました。
今後、現在のプラスチックに代わる素材としてガラス基板を使用していくと紹介。これによって現在よりもさらなる微細化に対応するだけでなく、面積制限も緩和されることで、性能アップに繋がると説明。データセンターやグラフィックス、AIプロセッサ向け製品において、2020年代後半から順次投入して行く予定だと紹介しました。
ガラス基板を使用することで、他の技術革新と相まって2030年以降も半導体の性能が18か月で2倍になる経験則「ムーアの法則」を達成可能になるといいます。ただし、今回はガラス基板技術の紹介であり、どのノードから利用するか等の詳細な説明はありませんでした。
次に紹介したのが、微細化技術の進捗状況です。2021年に新CEOとなったパット・ゲルシンガー氏は「今後4年間で5つの微細化プロセスを投入する」と発言しており、1,000億ドルにのぼる投資と研究開発によって現在Intel 7はすでに量産中。Intel 4も製造工場を増やして(年末に製品発表)、次世代のXeonプロセッサで利用予定のIntel 3も製造準備を完了しており、順調であることをアピールしました。
その先のIntel 20Aは今年後半に製造を開始する予定。Intel 18Aも来年後半には製造開始を予定するとともに、外部のユーザーが利用できるようにするためのツール(PDK)も予定しているといいます。さらに「その次の3つのプロセス」も見込みがついたと説明する一方、詳細は今後の発表に期待してほしいと細かい説明を避けました。
また「AI Everywhere」とより多くの人にAI技術がアクセスできるようにすることで人々の暮らしをよりよくすると説明。
自社のシリコンダイだけでなく、他社のダイも1つのパッケージ内に収めるために「UCIe」を立ち上げ済み。Intel 3のチップとTSMCのN3EのチップをEMIB(embedded multi-die interconnect bridge)を経由して接続したテストチップをIntel Innovationで紹介しました。UCIeは、半導体業界が連携していくにあたって重要な活動であるといいます。
2023年後半の話題としては3つ説明し、まず新しい製品をリモートで試せるIntel Developer Cloudの一般提供を開始したことと、今年12月14日に第5世代Intel Xeon SP(コードネーム:Emerald Rapids)とIntel Core Ultra プロセッサ(コードネーム:MeteorLake)が発表予定。
Emerald Rapidsは現在の第4世代製品(コードネーム:Sapphire Rapids)と同じソケットながら消費電力を低減したのを特徴に上げており、Meteor Lakeはインテルが持つFoveros技術をクライアント向けに大量に出荷する製品で、すべてのSKUでAI機能を搭載するといいます。
さらに2024年に投入予定のXeonは最大288コアのEコアを1つのパッケージに収めた製品(コードネーム:Sierra Forest)を投入すると予告しました。
Meteor Lakeはコンピュートノード/グラフィックスノードを止めても動画再生可能!?
続いて、インテル株式会社 技術本部 部長 工学博士 安生健一朗氏がMeteor Lakeのアーキテクチャーに関して説明しました。
冒頭、Meteor Lakeは「最高水準の電力効率」「AI機能を広範囲に提供」「グラフィックス性能が飛躍的に向上」「Intel 4プロセス Pコア、Eコアを一新」と大きく4つの柱があり、さらにCPUバッジも一新と劇的な変化になっていると紹介。
CPUの構造も大きく変わります。CPU部分のコンピュートコアはIntel 4で製造しますが、SoCとIOコアはTSMC N6、グラフィックスコアはTSMC N5で製造されており、これらを22nmプロセスのベースチップで結合するFoverosを採用。「プロセスとしては古い22nmだが、従来のパッケージでの接続よりもはるかに高密度にできる」と説明していました。
Intel 4で製造されるコンピュートコアには第12世代インテル Coreプロセッサから採用されたP/Eコアのハイブリッドアーキテクチャーが採用されます。さらにP/Eコア共に新設計でE-CoreのCresmontは前世代よりもIPCが4~6%向上し、AIアクセラレーター用命令も追加して、分岐予測の精度も向上。
P-CoreのRedwood CoveはIPCの向上こそありませんが、キャッシュの容量帯域をアップして性能効率を上げており、またパフォーマンス・モニタリング・ユニットを改良。そして、どちらのCPUコアにおいて、Intel Thread Directorのフィードバック制御を改良しています。
CPUの進化はコンピュートコアだけに留まりません。SoCタイルの中に省電力なE-Coreを入れました。SoCタイルには8K HDRとAV1エンコードに対応したディスプレイエンジンを内蔵。さらにMeteor LakeだけでWi-Fi6E、外部MACを搭載することで将来のWi-Fi7にも対応します。
つまり、Meteor Lakeには3種類のx86 CPUが内蔵されていることになります。これをインテルは「3D パフォーマンス・ハイブリッド」と称しています。スレッド・ディレクターの動きも変えており、従来は「上位QoS処理をP-Coreを割り当て、下位QoS処理はE-Coreに割り当てる。定期的にスレッドの再分配をおこなう」とまずはガツンと全開にするという処理でしたが、Meteor Lakeでは「まずはSoC内のE-Coreに割り当て、タスクが溢れるならば『コンピュートタイル側』を起動。そのうえで高負荷タスクならばP-Coreに割り当てる」ように、徐々にギアアップしていく成魚になっているとのこと。。
これは、タスク数が少なくてもよいならコンピュートタイルをOFFにして消費電力を抑えるということを意味します。さらに動画の再生だけならばGPUもOFFにして、SoCのディスプレイエンジンとメディアエンジンで再生できます。目論見通りにきちんと動くと考えると「普段使いはかなり低消費電力ではないか?」という感じですが、逆に「フルパワーだと相当熱い」のかもしれません。
I/Oタイルですが、Thunderbolt4とPCIe Gen5コントローラーを内蔵しており業界トップクラスの接続性を持っていることに加えて、タイルアーキテクチャなので仮にIOT向けの製品を作る場合はそれ向けのI/Oタイルに乗せ換えればよいと説明していました。
ちなみに来年発表予定の次世代Xeonプロセッサは、先に説明したE-Coreを使用したSierra ForestだけでなくP-Coreを使用したGranite Rapidsも予定されており、これらはコンピュートコア以外は同じなので短い期間で製品が出せると以前説明がありました。
次に説明したのがAI処理の部分です。インテルは「AI Everywhere」とすべての人がAI技術にアクセスできることを考えており、今回のMeteor LakeでNPUが含まれることで数的に多くの出荷がある製品にAI処理が入ることになります。
現在AI処理はクラウド側ですべて行う事が多いのですが、将来はクラウドだけでなく、クライアントやエッジでも行われると言います。というのもローカルで実行することで通信遅延がなくなり、クライアントやエッジの数はサーバーよりもはるかに多く、そしてローコストです。データを外部に出さないためプライバシー的にも有利となります。
すでにオーディオ効果の機能拡張や高品位のビデオ会議、クリエイティブ作業やゲーミングにAIが利用されていますが、今後はAIアシスタントやクリエイティブ作業の生産性向上、コラボレーションに使われると予測しています。
Meteor LakeはAI処理のための電力効率の良いプラットフォームの第1弾として提供し、OpenVINOなどのx86ベースのソフトウェア開発ツールを広く提供することで多くのアプリケーションが登場することを想定。インテル Core Ultra搭載PCはCPUの高速レスポンス、GPUの超並列演算に加えてIntel Movidiusベースの低消費電力エンジンを加えています。
安生氏は今回、NPUの詳細説明は行わないと前置きしたものの、小さなスクラッチパッドRAMを内蔵することで低消費電力を実現していると説明していました。
グラフィックスに関しては外付けGPUのARCではXe HPGを使用しているのに対し、Meteor LakeではサブセットとなるXe LPGアーキテクチャを採用。それでも動作周波数の向上やベクターエンジン、サンプラー、ピクセルバックエンドの増強により従来のIris Xeの2倍の性能を持つと言います。
最後に、Foverosタイルアーキテクチャの採用によって体験ファーストのクライアント向け製品ができたと言います。Foverosタイルアーキテクチャを使用したコンシューマー向け製品はLakefieldがありますが、今回のMeteor Lakeではついにメインストリームとなる製品で、コアごとに最適なプロセスを組み合わせることで全体の性能を向上させています。
またコンピュートコアで採用したIntel 4プロセスはインテル初のEUV露光を使用してマスク数を減らし、面積スケーリングはこれまでのIntel 7比で2倍、電力効率は20%以上向上させています。
ちなみに今回の説明会はMeteor Lakeが12月14日に発表になる、こういう機能があるという話だけで、具体的な製品のSKUや価格に関しては説明がありませんでした。
しかし40年で最大の転換と画期的な新技術にあふれている製品なのは間違いなく、筆者は現在「最新ハチロク欲しい感」にあふれています。