APS-Cフォーマットのみでラインナップを構築する富士フイルムのXシリーズ。その写りは、フルサイズフォーマットに対し一歩も引けを取らず、むしろ卓越した絵づくり機能「フィルムシミュレーション」の採用などで独自のポジションを確立しています。新しい「X-S20」も例外ではなく、Xシリーズらしいミラーレスに仕上がっています。今回のレビューでは、実際にその写りをチェックしてみましょう。

  • フィルムシミュレーションに新たに「NOSTALGIC Neg.」を追加した富士フイルム「X-S20」。歴史ある感材メーカーらしい圧倒的な描写は、多くの写真愛好家の琴線に触れるところです。実売価格は、ボディ単体モデルが20万円前後、「XC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ」が付属するレンズキットが22万円前後。どちらも品薄の状況が続いています

被写体検出AFの認識精度は上々

スペックは前回の機能編で詳しくまとめていますが、軽くおさらいしてみたいと思います。X-S20は先代「X-S10」の後継モデル。代替りするにあたり、内外とも大胆に手の入ったところは少なく、マイナーチェンジに近いものと考えてよいかもしれません。新旧二台を並べると、モデル名がボディに記されていなければ見分けがつかないほどですが、フル充電からの撮影可能枚数は750枚と倍以上に増えています(ノーマルモード時)。

撮影モードダイヤルに目を移すと、目新しいモードとして「Vlogモード」があります。これはセルフィー撮影に適した動画設定のモードで、自分の顔の前に商品などを持ってくるようなシーンでは顔から手前にあるアイテムへ自然にフォーカスが切り替わる機能や、背景を積極的にぼかす機能など搭載され、Vloger要注目のモードといえます。新たな別売アクセサリーとして、三脚グリップ「TG-BT1」を用意。手持ち動画撮影時のホールド性が向上するとともに、BluetoothによりX-S20との連携はケーブル接続が不要です。液晶モニターは先代モデルと同じくバリアングルタイプで、静止画、動画関わらず自撮りのときに便利です。現在、富士フイルムにはVlogカメラと呼ばれるものが存在しませんが、本モデルがその役を担うと考えてよいものです。

キーデバイスであるイメージセンサーは、裏面照射型の有効2610万画素「X-Trans CMOS 4」。これは先代X-S10と同じです。センサーシフト方式の手ブレ補正機構の進化は見逃せない部分。補正段数がこれまでの最大6段から最大7段にアップしました。

画像処理エンジンは、「X-Processor 4」からよりパワーのある「X-Processor 5」になりました。最高コマ速は8コマ/秒(メカシャッター時)とこれまでと変わりませんが、AFは飛躍的に向上しています。注目の改良点といえば、被写体検出AF設定機能の搭載。認識精度は極めて高く、AF-Cでの撮影では狙った被写体を確実に捕捉し続け、シャッタータイミングを見逃すことがありません。フィルムシミュレーションには「NOSTALGIC Neg.」を新たに追加し、全部で19種類となりました。

  • 被写体検出AF設定機能「電車」で撮影しました。AFはコンティニュアス(AF-C)としています。電車が画面のなかでまだ小さく写っているときから、電車前面部の捕捉を自動的に開始し、画面から前面部が通り過ぎていくまでピントを合わせ続けました X-S20・XC50-230mm F4.5-6.7 OIS II・絞り優先AE(絞りF6.7・1/500秒)・WBオート・ISO400・JPEG

  • この作例も被写体検出AF設定機能「電車」での撮影となります。このようなスタイルの前頭部を持つ電車もしっかりと捕捉し続けます。長い編成の車両が来ると思っていたのですが、短い編成であったため、慌ててアングルを変えたのですが、そのような時も捕捉し続けていました X-S20・XC50-230mm F4.5-6.7 OIS II・絞り優先AE(絞りF6.7・1/480秒)・WBオート・ISO400・JPEG

  • 被写体検出AF設定機能をOFFにし、通常のAFで撮影しています。フォーカスエリアと常に重なるように被写体を追い続け、ゴールに向かってボールを軽くキックする瞬間にシャッターを切りました。ボールがキーパーの陰に隠れてしまったのはご愛嬌 X-S20・XC50-230mm F4.5-6.7 OIS II・絞り優先AE(絞りF9・1/1250秒)・WBオート・ISO800・JPEG

大幅な価格上昇も納得できる描写

注目のX-S20の描写ですが、紛れもなくXシリーズの写りと述べてよいものです。デフォルトのフィルムシミュレーション「PROVIA(スタンダード)」は色乗りがよいうえに、ライバルの絵づくりにくらべきらびやかな印象のあるもの。しかも嘘っぽさのようなものはなく、いわゆる記憶色とは一線を画した自然な彩度の仕上がりが特徴です。階調再現性に優れているのも同シミュレーションの誇るべき部分といえます。X-S20は、いずれもしっかりと継承しており、存分に富士フイルムの絵づくりが味わえます。

  • フィルムシミュレーションは「Velvia(ビビッド)」を選択しています。彩度は高めですが、色飽和することがなく、しっかりと階調を保持しています。花の撮影などでは、出番の多そうなフィルムシミュレーションです X-S20・XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS・絞り優先AE(絞りF4・1/420秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • キットレンズであるXC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZでの撮影となります。フィルムシミュレーションは「Vivid(ベルビア)」を選択しています。繊細でメリハリある写りが得られました。長年感材メーカーで写真の色を知り尽くしたメーカーならではの絵づくりのように思えます X-S20・XC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ・絞り優先AE(絞りF8・1/300秒)・WBオート・ISO160・JPEG

高感度特性も不足を感じさせません。常用感度内であればノイズの発生をよく抑えているように思えます。強力な手ブレ補正機構を備えていますが、光量の厳しいシーンや少しでも速いシャッターが切りたいときなど、ためらうことなく感度を上げられます。APS-Cフォーマットでありながら、ライバルはフルサイズと言われるゆえんでもありますが、確かに卓越した絵づくりも含めフルサイズである必要を感じさせないといっても過言ではありません。

  • ▲ISO1600

  • ▲ISO3200

  • ▲ISO6400

  • ▲ISO12800

  • ▲ISO25600

  • ▲ISO51200

  • 感度比較は、EIZOのカラーマネージメントモニターを使い拡大率50%でチェックしてみました。ISO1600までは階調再現性は良好、ノイズの発生も見受けられません。ISO3200では輝度ノイズの発生がわずかながら現れ始めます。ISO6400となるとこちらもわずかですがシャープネスが低下し、輝度ノイズ、カラーノイズも目立つようになります。X-S20の常用最高感度であるISO12800になると全体にノイジーになり、解像感も低下します。ただし写りとしての大きな破綻はなく、十分実用として使えるように思えます

手堅い進化を果たしたX-S20。隙のない写り、使いやすさなどから、「X-H2/X-H2S」や「X-T5」などのユーザーであればサブ機として最適ですし、これから富士フイルムのミラーレスを使ってみようと考えるユーザーにも「X-E4」や「X-T30II」などがカタログから消えてしまい、後継機の話が出てこない今現在ベストな選択のカメラであるように思えます。また、動画撮影に重きを置くデジタルユーザーにとっても、Vlogモードの搭載や冷却ファンの装着が可能な点など、見逃せないカメラと述べてよいものです。

このところ、メーカーを問わずミラーレスやデジタル一眼レフの価格が高騰しています。電子部品が手に入らないことなどが理由のようですが、本モデルも先代X-S10に対し大幅な値上がりとなりました。販売開始時のボディ単体価格は、X-S10が12万円前後でしたが、本モデルは20万円前後と目を疑いそうになったほどです。もともと富士フイルムのミラーレスは値ごろ感のあるプライスで展開してきており、それも人気の一因でしたが、X-H2/X-H2S登場のころから方向転換を図っているようです。カメラ事業を末長く安定して展開していくためには致し方ないところですが、修理対応をはじめユーザーサービスに対し、これを機により一層力を入れてもらえればと思わずにはいられません。そんなことも考えてしまうX-S20でした。

  • ピントは手前のキャンドルスタンドに合わせています。レンズはXF50mm F2 R WR、シャッター速度は1/10秒です。X-S20が内蔵する強力な手ブレ補正機構によりシャープな写りの画像が得られました。手ブレ補正機構を内蔵していないレンズでも安心して撮影に臨めました X-S20・XF50mm F2 R WR・絞り優先AE(絞りF2・1/10秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 先代X-S10からスペックの変更はなかったEVFですが、先鋭感、コントラストとも高く、ピントの山がつかみやすく感じます。複雑な光源下の被写体でもオートホワイトバランスの補正は上々で、見た目に近い仕上がりが得られます X-S20・XF50mm F2 R WR・絞り優先AE(絞りF2・1/13秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • ピントの山がつかみやすく、キレのよい表示のEVFで思ったとおりの位置にピントを合わせることができました。5軸対応の手ブレ補正機構により、近接撮影で発生しやすいシフトブレも抑えた撮影が楽しめます X-S20・XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS・絞り優先AE(絞りF4・1/210秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 船の黒い船体を背景に浮かび上がる白い日傘が印象的に思え、望遠ズームを装着したX-S20を取り出して写した作例です。フルサイズにくらべ小型軽量なXシリーズは、スナップ撮影では負担も少なくとても頼もしく思えます X-S20・XC50-230mm F4.5-6.7 OIS II・絞り優先AE(絞りF6.7・1/680秒)・WBオート・ISO200・JPEG

  • 35mm判換算で12mm相当のXF8mm F3.5 R WRでの撮影。感度はISO2000です。ノイズの発生は画像を拡大して分かるレベルに収まっています。AFが苦手とする逆光ですが、AFは問題なく素速く合焦しました。このような撮影では水準器表示があると便利です X-S20・XF8mm F3.5 R WR・絞り優先AE(絞りF5.6・1/100秒)・WBオート・ISO2000・JPEG

  • 全体に白トビ、黒ツブレをよく抑えた写りです。撮影者はしゃがまずに、バリアングルモニターを活用してローアングルで撮影しています。ライブビュー撮影はカメラが不安定となりブレやすいですが、手ブレ補正機構のおかげでシャープな写りが得られました X-S20・XF8mm F3.5 R WR・絞り優先AE(絞りF5.6・1/680秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • X-S20と同時に発表されたXマウントの超広角単焦点レンズ「XF8mm F3.5 R WR」。35mm判換算で12mm相当の画角とするレンズです。9群12枚の光学系には非球面レンズ3枚、EDレンズ2枚を含みます。超広角レンズでありながら62mm径のフィルターが装着できるのも特徴です。実売価格は115,000円前後

  • XF8mm F3.5 R WRには花形フードが付属。遮光効果のほかに、前玉への指紋などの付着を抑え、落下させてしまったときなど鏡筒への衝撃を和らげるので、撮影の際は必ず装着しておきたいアイテムです