スマートホーム製品でいま注目されている「Matter」。Matterは、家電向け通信規格の標準化団体・CSA(Connectivity Standard Alliance)が推進する、スマートホーム製品や音声アシスタントをスムーズに接続するための新しい標準規格です。

スマートホーム製品の製造元がどのメーカーかに関わらず、スマートホーム製品間をシームレスにつなげるようになるMatterが普及すれば、メーカーにとってはIoTデバイスを開発しやすく、そして消費者にとってはIoTデバイスが使いやすくなります。

CSAにはプロモーター(標準化の仕様策定を主導できる幹事会社)として、AmazonやApple、Google、ハイアール、ファーウェイ、イケアといった大企業が加盟。

今回、Matter規格の標準化を主導する企業のひとつであるAmazonが、AmazonデバイスにおけるMatterへの取り組みを紹介しました。

  • Amazonでは、音声アシスタントAlexaに対応したスマートデバイス「Echo」シリーズでMatterに対応している

Matterに対応するAmazonデバイス、何がある?

Amazonではソフトウェアアップデートにより、すでに発売した「Echo Dot」や「Echo Show」シリーズなどの一部を、最新規格のMatterに対応させています。

現在ではEchoシリーズを利用して、Matter規格に対応した電球、プラグ、スイッチ、センサーをAlexaアプリで手軽にセットアップ可能。接続にはWi-FiまたはThread(2015年に登場したホームネットワーク向けの無線通信規格)が使われます。

  • Matterの概要

  • 2022年から段階的に、EchoシリーズでMatterのサポートを拡大した。2023年にはハブ製品も加わる

Matter対応Amazonデバイスの特徴は次の3つ。

  • Matter Simple Setup
  • コミッショナブルエンドポイント
  • Ambient Home Dev Kit

Matter Simple Setup(MSS)は、スマートデバイスの接続/セットアップに必要な手順を簡略化できる、Amazonの拡張機能「フラストレーションフリーセットアップ」(FFS)の1つ。スマートホーム普及の課題である「面倒な接続」を省く狙いで、Matter規格に対応したデバイス同士を、アプリ経由でWi-Fi/Threadを使って手軽につなげるの仕組みです。

Matter製品を通常セットアップする際は、製品に印刷されたバーコードのスキャンや、シリアル番号の手入力などが必要となりますが、MSSではAmazonアカウントとデバイス情報をあらかじめ紐づけることで、通常必要となる手順を省けるようになります。

Matterで簡単に接続できる仕組みとは?

MSSの具体的な仕組みとしては、Matter対応Amazonデバイスを最初にネットワーク接続する際、Amazon WiFiロッカーと呼ばれるクラウド上にSSIDとパスワードを暗号化して保存(Wi-Fiを使う場合)。

2回目以降、Matter対応Amazonデバイスの近くで新たなMatterデバイスが電源に接続されると、SSIDやパスワードなどのクレデンシャル情報が、AmazonのMatter対応デバイスを通じて、デバイス側に返されます。これにより、パスワードなどを入力せずともデバイスがネットワークに接続され、例えば「Alexa、ライトを消して」などのコマンドもすぐに使えるようになります。

AmazonではMSSに、電球、プラグ、スイッチ、センサー製品を順次対応させてきました。今後、2023年夏ごろをめどに、赤外線リモコンを中心とした「ハブ製品」でも対応を予定しています。

  • Alexaに今後追加される、あるいはすでに追加された主要機能。Matter Simple Setup、コミッショナブル エンドポイント、Ambient Home Dev Kitの3点だ

  • フラストレーションフリーセットアップの概念図。Wi-FiやZigbee、BLE Meshといった接続方法の1つとしてMatterがある

  • Matter Simple Setup(MSS)の概要

  • MSSの仕組み

コミッショナブル エンドポイントは、Alexaスキル(拡張機能)で連携したMatterデバイスをローカルでコントロールできるようにする機能。

例えばAlexaデバイスに「Alexa、ライトを点けて」と言った場合、これまではサードパーティのクラウドを経由してデバイス側に伝わっていましたが、MatterによりAlexaデバイスから直接、対応デバイスに伝えられるようになります。

この機能のメリットは、クラウドを経由しないことによる「遅延の少なさ」、クラウド上に問題が発生した場合でも使える「安定した稼働」など。加えてこれまで通りクラウドを経由する方法も、ローカルコントロールにする新しい方法も、どちらも選べます。

  • コミッショナブル エンドポイントの概要

  • コミッショナブル エンドポイントでは、クラウド経由での操作も引き続き行える

Ambient Home Dev Kitは、Alexaのさまざまな機能を拡張するAPIのセットで、サードパーティ製品開発者向けのツールです。Alexaとデバイス・サービスの間で情報を共有できるもので、セットアップを簡素化する認証情報の共有や、自室、寝室、キッチンなど利用者が登録したグルーピング情報の同期、名義変更などの情報を共有するなどの特徴があります。

Ambient Home Dev KitはCES 2023で公開されたもので、現在開発者向けにプレビュー版を提供中。今後2023年以内をめどに、機能として実装されていく予定です。

  • Matterへの取り組みを説明した、アマゾンジャパン合同会社 Amazon Alexa インターナショナル技術本部の福与直也本部長

  • AmazonにおけるMatterへの取り組みのまとめ

今夏からスマートハブ製品もMSS対応に

さて7月4日、日本企業初のMatter対応スマートホーム機器かつ、世界初のMatterと赤外線とのブリッジデバイスとして、Natureのスマートリモコン「Nature Remo nano」が発表されました。

Nature Remo nanoは、赤外線で操作するデバイスを遠隔操作できるスマートリモコン。赤外線搭載のデバイスを、Nature Remo nanoを通じてMatter対応とする“ブリッジデバイス”の機能も備えています。

  • Nature Remo nano

Nature代表取締役の塩出晴海氏によると、この「Nature Remo nano」も近日中にMSSに対応するとのこと。MSSに対応することで、製品をAmazonで買って電源を入れると、Alexaが自動でWi-FiとMatterのセットアップを進めるため、セットアップの簡素化が図れると紹介しました。

  • Nature Remo nanoを掲げるNature代表取締役 塩出晴海氏

  • Nature Remo nanoの特徴

  • MSSへの対応を「近日中」に実施予定だ

Amazon Alexa インターナショナル ジャパンカントリーマネジャーのティニス・スキパース氏によると、2014年に誕生したときのAlexaは、1つのスマートスピーカーのみで対応しており、スキルは13、言語は英語のみの対応でした。

現在では14万以上のデバイスに対応し、スキルは13万以上、言語は17言語に対応しているといいます。また「日本では3人に1人がAlexa対応デバイスを使っている」と、日本市場の利用状況を紹介。MatterはAlexaに限らず、Google製やApple製デバイスも含め、スマートデバイス間の相互運用性を高めるとして、引き続き開発者に必要なツールを提供し、ユーザーの選択肢を広げるとしました。

  • サードパーティ製品のMatterロゴ表示例(写真はTP-LinkのWi-Fiスマートプラグ)。Matter対応であること、そしてAlexaとの互換性があることを示すWorks with Alexaと、Google アシスタントとの互換性があることを示すWorks with Google Homeのロゴがパッケージにある

  • Amazon Alexa インターナショナル ジャパンカントリーマネジャーのティニス・スキパース氏