5月24日から「MNPワンストップ方式」がスタートしました。従来のMNPよりも手続きが簡略化され、携帯キャリアを乗り換える際のハードルが少し下がるかもしれない新サービスを解説します。

  • 5月24日から「MNPワンストップ方式」がスタートした。従来方式(ツーストップ方式)との違いを解説する

    5月24日から「MNPワンストップ方式」がスタートした。従来方式(ツーストップ方式)との違いを解説する

従来のMNP制度(ツーストップ方式)の課題点

携帯会社を変えても同じ電話番号を使い続けられる携帯電話番号ポータビリティ(MNP)制度が日本で始まったのは2006年。2013年には070番号帯のPHSも対象になり、2021年には転出手数料が原則無料化された上にキャリアメール持ち運びサービスも始まったりと、「乗り換えても変わらず使える」という心理的ハードルを下げるための制度整備が続けられてきましたが、MNPをする際の手続き方法に関しては手付かずのままでした。

MNPの基本的な流れとしては、まず転出元の携帯キャリア(いま使っている携帯キャリア)で手続きをして「MNP予約番号」というものを発行してもらい、転入先の携帯キャリア(新たに契約したい携帯キャリア)に「引き継ぎたい携帯電話番号」「MNP予約番号」「MNP予約番号の有効期限」の3点をセットで伝えることで電話番号を引き継げます。

この「いま使っているキャリアに乗り換えの意向を伝えなければならない」というのが従来のツーストップ方式の弱点といえます。単に気まずいというだけの話であればまだ良いのですが、かつてMNP獲得競争が激化していた頃には、MNP予約番号を取ろうと電話をかけると、他社に転出せず自社で機種変更してもらうために高額なポイントやクーポンを提示してMNP予約番号の発行を渋る「引き止め行為」が一部のキャリアでは常態化していました。また、そのような状態では電話窓口の待ち時間が極端に長くなるという悪影響もありました。

2023年現在は総務省の指針でMNP予約番号発行時の引き止め行為は固く禁止されていますし、オンラインで取得できる事業者も増えたので「MNP予約番号を取りたいのに取れない」ケースはかなり減ったと思われますが、それでもまだツーストップ方式には課題があります。

先述のとおり、MNP予約番号には有効期限があります。有効期限は各社一律で、発行日を含めて15日間です。そう聞くと「転出元で予約番号を取ってから、2週間ぐらいで転入先での手続きをすればいいなら余裕じゃない?」と思われるかもしれませんが、実は意外とそうでもないのです。

大手キャリアのオンライン専用プランやMVNOなど非対面契約のサービスでは、MNP予約番号の有効期限が10日以上残っていることが申込条件とされている場合が多いです。MNP予約番号を24時間即時発行できる事業者ばかりではないため、計画的に乗り換えの準備を進める必要がありました。

  • UQ mobileの例。このように、オンラインで申し込む場合にはMNP予約番号の有効期限はかなりタイトだ

    UQ mobileの例。このように、オンラインで申し込む場合にはMNP予約番号の有効期限はかなりタイトだ

「MNPワンストップ方式」なら転出元での手続きが不要になる

そんなツーストップ方式に起因するMNPの障壁を撤廃すべく、監督省庁である総務省では「スイッチング円滑化タスクフォース」などの有識者会議で新たなワンストップ方式の検討が進められてきました。2020年末頃から議題に上がり始め、事業者間での調整を経て今回実現に至ったところです。

ワンストップ方式のポイントはその名の通り、乗り換え先の携帯キャリアでの手続きのみで完結することです。今のところオンラインでの契約手続きに限定されており、転出元・転入先の両方がワンストップ方式に対応していることが条件となります。

転入先の携帯キャリアでの契約手続きを進めていくと、途中で転出元の携帯キャリアのWebサイトに遷移し、解約にあたっての重要事項説明が行われ、確認が済んだら転入先のサイトに戻って残りの手続きを済ませるという流れで乗り換えが完了します。

サービス開始時点での対応事業者はNTTドコモ(docomo/ahamo)、KDDI/沖縄セルラー(au/UQ mobile/povo)、ソフトバンク(SoftBank/Y!mobile/LINEMO)、楽天モバイル、日本通信です。

  • MNPワンストップ方式のイメージ図(画像:総務省)

    MNPワンストップ方式のイメージ図(画像:総務省)

実際に使えるケースはまだ限定的、対応範囲の拡大に期待

政府による携帯電話市場の流動性を高めるための取り組みは、先に触れた「引き止め禁止」や転出手数料の撤廃のほか、割引限度額のルール化など、数年に渡ってさまざまな角度からの試みが続けられています。

各施策の有効性・妥当性についてはここでは論じませんが、調査機関のデータなどを見ると、MNPの利用経験がある人は思惑通りには増えていないのが実状です。

結局のところ、「携帯電話の手続きは面倒」という大多数のイメージを覆せるほど手続きがスムーズにならない限りは、いかに公正な価格競争を促したところで、少しでも安く使うために多少の手間はいとわず気軽に乗り換えていけるのはある程度リテラシーの高い層だけに限られてしまいます。

その点では、MNPワンストップ方式の導入は大きな一歩と言えます。現時点では対抗事業者が少なく、ほぼ大手キャリア間での利用に限られますが、7月からはオプテージ(mineo)も参加予定を表明しています。MVNOへの波及や店頭契約への応用など、今後のアップデート次第では意義のある制度に成長していくことでしょう。