すでにお伝えした通り、2023年5月23日にClaris International Inc.(以下、Claris)からFileMaker 2023がリリースされた。日本以外では4月26日にすでにリリースされており、日本では約1か月遅れとなった。また、Claris Connectの料金プランに無料利用枠が新たに登場した。

このリリースのタイミングで来日した同社のCEO、ブラッド・フライターグ氏にインタビューを実施し、日本独自の事情などについてはClaris North Asia Sales Directorの日比野暢氏からも話を聞いた。このインタビューの模様を前後編に分けてお届けしよう。この前編では主にFileMaker 2023や「ローコード開発プラットフォーム」について、後編ではClarisのビジネスについての内容となっているので、ぜひ両方あわせてお読みいただきたい。

なお、フライターグ氏らへの前回のインタビューは2020年5月のFileMaker 19リリース時で、このときはCovid-19禍であったためオンラインでのインタビューだった(以下、記事中は敬称略)。

  • Claris International Inc. CEO、ブラッド・フライターグ(Brad Freitag)氏

-- 今回はFileMaker 2023のリリースに合わせての来日とのことですが、日本以外の国も訪問したのですか?

フライターグ いいえ、日本だけです。日本は世界で2番目に大きい市場ですので重視していますし、投資も続けています。日本は大きな可能性がある市場で、特に医療と教育の分野で我々はデジタルトランスフォーメーションを支援しています。

-- それを聞いて安心しました。FileMaker 2023のリリースが日本では1か月遅れだったので、何かネガティブな理由があるのかと懸念していました。

フライターグ 1か月遅れになったのは技術的な理由と、日本ではゴールデンウィークがあったこと、また社内スケジュールの調整などによるものです。

年ベースのネーミングに変更してのメジャーリリース、しかし3年間で多くの機能が少しずつリリースされてきた

-- FileMaker 2023で強化されたポイントを教えてください。

フライターグ スケーラビリティの拡張、パフォーマンスの向上、よりセキュアなプラットフォームです。FileMaker WebDirectの最大同時接続数の引き上げやARMプロセッサ上でのUbuntu 22 LTSのサポート、セキュリティの強化などが挙げられます。

-- FileMaker 19から2023まで、メジャーリリースが3年間ありませんでしたが、その理由は?

フライターグ アジャイルにリリースしようという方針をとり、機能は3年の間にたくさんリリースしていました。ほかには、Claris Studio(日本未発売、後編にて詳説)との統合や、名称をバージョン番号から年ベースの数字に変えることなどを検討し、そのタイミングをはかっていました。

-- 現在のソフトウェア販売はダウンロード方式が主流かと思いますが、パッケージでの販売はFileMaker 2023でも継続しているのですね。

日比野 日本の組織、特に官公庁などでは実際の「モノ」での納品を希望されることが多いので、継続しています。

  • Claris North Asia Sales Director、日比野暢氏

-- FileMaker 2023の価格やライセンス体系はFileMaker 19からほぼ変更されていませんが、それも同様の理由でしょうか。

日比野 そうですね、我々はお客様を大切にし、お客様が利用しやすいようにと考えています。

-- 以前から、FileMakerの主なターゲット層は大きい組織の中のワークグループや中小企業であると聞いていました。それはFileMaker 2023になっても変わりはないでしょうか。

フライターグ 大きい組織は以前はローコードには否定的でしたが、最近はオープンになってきていますね。これまでは部署単位でローコードのツールを使っているとしてもそのことを隠す傾向にありましたが、今後は開示されていくかもしれません。とはいえ、FileMakerの主なターゲットは中小企業や教育分野であることに変わりはありません。

Claris製品は「洗練されたローコード」、できるところから始めて徐々に高度な使い方へと成長していける

-- いま「ローコード」という言葉が出ましたが、最近のクラリスは「ノーコードではなくローコード開発プラットフォームである」というメッセージを発信しているように見受けられます。その意図を聞かせてください。

フライターグ 近年、「ノーコード」「ローコード」という言葉が多く聞かれるようになり、ユーザーの皆さんも混乱しているかもしれません。「ノーコード」を謳うツールの中にはセキュリティやスケーラビリティが配慮されていないものもあり、我々は「ノーコード」と自分たちとを切り離したいと考えています。我々が提供しているのは、テーブルやデータベース、スクリプティング、スケーラビリティなどを備え、高度な作業をすることができる洗練されたローコードです。

-- 「ノーコードではない」と聞くと、これから始めようとする人にとっては難易度が高いように思えて、腰が引けてしまうのではありませんか?

フライターグ そこは難しいバランスです。我々のプラットフォームにはとてつもない力がありますが、それを最初にすべて見せるとこれから始める人は圧倒されてしまうかもしれません。そこで、開発者のオンボーディングにあたっては、まずは初心者が使える機能を見せ、環境に慣れて成功をおさめてから、さらにその先へと進んでいけるよう、教育プログラムや認定プログラムを通じて長い道のりを常にサポートしていきます。

-- 「開発者のオンボーディング」とのことですが、それはプロの開発者を意味していますか? シチズンデベロッパがこれから始めるのは難しいでしょうか。

フライターグ プロの開発者とシチズンデベロッパを区別して考えてはいません。プロの開発者も、最初はシチズンデベロッパですよね。特に日本では、ソフトウェアエンジニアの不足が課題となっています。多くのワーカーにとってリスキリングが必要であり、取り組んでいただきたいと思います。

後編へ続く。