2023年5月23日22時、NVIDIAの新ミドルレンジGPU「GeForce RTX 4060 Ti」(8GB版)のパフォーマンス情報が解禁となった。発売は24日22時からスタートとなる。今回は「GeForce RTX 4060 Ti Founders Edition」を試用する機会を得たので、さっそくレビューをお届けしよう。一つ上位のRTX 4070に加え、前世代のRTX 3070と比べてパフォーマンスや消費電力を検証していく。

  • 「GeForce RTX 4060 Ti」(8GB版)の実力を徹底検証 - RTX 3070と同クラスで圧倒的な省電力!

    NVIDIAのリファレンスモデルと言える「GeForce RTX 4060 Ti Founders Edition」。NVIDIAから発表されたRTX 4060 Tiの価格の目安は399ドル。国内価格では69,800円だ

NVIDIA最新世代のGPUである「RTX 40シリーズ」。RTX 4090/4080/4070 Ti/4070の4モデルがすでに発売されているが、そこに下位モデルの「GeForce RTX 4060 Ti」が加わった。フルHD解像度で高フレームレートを出せるGPUと位置付けている。RTX 4060 Tiの16GB版とRTX 4060も発表されているが、こちらの発売は2023年7月予定とまだ先だ。まずは、スペックを紹介しておこう。

■GeForce RTX 4000シリーズのスペック
GPU名 RTX 4070 RTX 4060 Ti RTX 4060
CUDAコア数 5,888 4,352 3,072
ベースクロック 1920MHz 2310MHz 1830MHz
ブーストクロック 2475MHz 2535MHz 2460MHz
メモリサイズ GDDR6X 12GB GDDR6 8GB/16GB GDDR6 8GB/16GB
メモリバス幅 192bit 128bit 128bit
RTコア 第3世代 第3世代 第3世代
Tensorコア 第4世代 第4世代 第4世代
アーキテクチャ Ada Lovelace Ada Lovelace Ada Lovelace
DLSS 3 3 3
NVENC 第8世代 第8世代 第8世代
カード電力 (W) 200 160/165 115
システム電力要件 (W) 650 550 550
電源コネクタ 8ピン×2または300W以上の12VHPWR×1 8ピン×2または300W以上の12VHPWR×1 8ピン×1または300W以上の12VHPWR×1

一つ上位のRTX 4070に比べてCUDAコアは1,536基減り、メモリバス幅は128bitとさらに狭くなった。その分、カード電力は160Wになり、推奨電源は550Wと扱いやすさは向上している。カード電力はRTX 3070が220W、RTX 3060 Tiが200Wなので、かなり低いと言ってよいだろう。メモリバス幅がゲームのフレームレートに大きく影響するのは知られているところであり、128bitという狭さは気になるところ。NVIDIAでは32MBの大容量2次キャッシュを備えることで、ビデオメモリへのアクセス頻度を減らし、パフォーマンスを向上させているという。RTX 3070/3060 Tiは2次キャッシュが4MBしかないので、確かに大容量と言えるが実際どの程度の性能を持つのか後半のベンチマークで確かめていきたい。なお、16GB版はカード電力が165Wと若干増えている。

  • NVIDIAによると大容量の2次キャッシュを備えることでビデオメモリへのアクセス頻度を下げてパフォーマンスを向上させているという

電源コネクタは「8ピン×2または300W以上の12VHPWR×1」という仕様だが、すでにビデオカードメーカーからは高OC仕様ながら8ピン×1のカードも発表されているほか、ショート基板のモデルも存在。従来の電源ユニットを使い回したり、小型のPCケースにも組み込みやすい製品が登場したのは大きな強みと言ってもよいだろう。なお、ハードウェアエンコーダーのNVENCはほかのRTX 40シリーズと同じく第8世代なのでAV1のエンコードにも対応。ただし、1基だけしか搭載していないので、2基備えるRTX 4090/4080/4070 TiのようにNVENCを同時使用することでエンコード速度を高める「デュアルエンコード」はできない点は注意したい。

そのほか、Ada Lovelaceアーキテクチャの採用など基本的な特徴はRTX 4090/4080/RTX 4070 Tiと同じだ。詳しく知りたい方はRTX 4090のレビュー「GeForce RTX 4090の恐るべき性能をテストする - 4K+レイトレで高fpsも余裕のモンスターGPU」で確認してほしい。

性能テスト前にGeForce RTX 4060 Ti Founders Editionを紹介しよう。リファレンス的なモデルなのでカード電力は定格通りの160W、ブーストクロックは2,535MHzだ。なお、見た目はGeForce RTX 4070 Founders Editionとまったく同じ。カラーリングが若干異なるだけだった

  • GeForce RTX 4060 Ti Founders Editionのカード長は244mmだ

  • 重量は実測で1,024gだった

  • 厚みはぴったり2スロット分だ

  • 補助電源は12VHPWR×1だった

  • 従来の8ピン×1に変換するケーブルも付属する

  • 出力はDisplayPort×3、HDMI×1とGeForceでは一般的な仕様

  • GeForce RTX 4070 Founders Edition(奥側)との比較。カラーリング以外はまったく同じだ

  • GPU-Zによる情報。ブーストクロックは定格の2,535MHだ。なお、接続はPCI Express 4.0 x8となる。x16ではなかった

  • カード電力も定格通りの160W

性能はRTX 3070級で消費電力は70~90Wほど低い

さて、性能チェックに移ろう。テスト環境は以下の通りだ。Resizable BARは有効にした状態でテストしている。比較対象としてGeForce RTX 4070 Founders Edition、GeForce RTX 3070(微OCモデル)を用意した。CPUのパワーリミットは無制限に設定。ドライバに関しては、レビュワー向けに配布された「Game Ready 531.93」を使用している。

【検証環境】
CPU Intel Core i9-13900K(24コア32スレッド)
マザーボード MSI MPG Z790 CARBON WIFI(Intel Z690)
メモリ Kingston FURY Beast DDR5 KF556C36BBEK2-32(PC5-44800 DDR5 SDRAM16GB×2)
システムSSD Western Digital WD_BLACK SN850 NVMe WDS200T1X0E-00AFY0(PCI Express 4.0 x4、2TB)
CPUクーラー Corsair iCUE H150i RGB PRO XT(簡易水冷、36cmクラス)
電源 Super Flower LEADEX V G130X 1000W(1,000W、80PLUS Gold)
OS Windows 11 Pro(22H2)

今回はビデオカードの消費電力を実測できるNVIDIAの専用キット「PCAT」を導入しているので、ゲーム系のベンチマークではカード単体の消費電力も合わせて掲載する。

まずは、3D性能を測定する定番ベンチマークの「3DMark」から見ていこう。

  • 3DMark

RTX 4060 Tiは、一つ上位のRTX 4070に比べて2割程度スコアダウンと言える。CUDAコアが1,000基以上少なくと考えるとかなり踏ん張っていると言ってよいのではないだろうか。RTX 3070に対してはFire Strike、Time Spy、Port Royalはほぼ同等だが、Fire Strike Ultra、Time Spy Extremeと負荷の高いテストではRTX 3070が上回る。このあたりにバス幅の狭さの影響を感じるところだ。

次は、実際のゲームを試そう。まずは、レイトレーシングやDLSSに対応しないゲームとして「レインボーシックス シージ」、「Apex Legends」、「オーバーウォッチ 2」を用意した。レインボーシックス シージはゲーム内のベンチマーク機能を実行、Apex Legendsはトレーニングモードの一定コースを移動した際のフレームレート、オーバーウォッチ 2はBotマッチを実行した際のフレームレートをそれぞれ「FrameView」で測定している。

  • レインボーシックス シージ

  • レインボーシックス シージ - カード単体の消費電力(PCAT)

解像度に関係なくRTX 3070に比べて若干フレームレートが低く出ている。ゲームとの相性によっては力関係は変わるということだろう。その一方でカード単体の消費電力は、フルHDで90.6WもRTX 4060 Tiも低い。RTX 40シリーズのワットパフォーマンスのよさがここでも見て取れる。

  • Apex Legends

  • Apex Legends - カード単体の消費電力(PCAT)

Apex Legendはフレームレート制限を解除するコマンドを使っても最大300fpsまでしか出ないゲームだ。最新版ではトレーニングモードのマップ構成が大きく変わったので、過去のデータとの比較はできない点は覚えておきたい。レインボーシックス シージとは異なり、解像度に関係なくRTX 4060 TiとRTX 3070はほとんど変わらないフレームレートだ。消費電力はフルHDでRTX 4060 Tiのほうが93.8Wも低いのはさすがと言える。

  • オーバーウォッチ 2

  • オーバーウォッチ 2 - カード単体の消費電力(PCAT)

オーバーウォッチ 2はRTX 3070に対して、RTX 4060 TiはフルHDだとフレームレートが上回るが、WQHD、4Kだと逆転する。メモリバス幅の狭さがフレームレートに影響していると考えられる。それでも、4Kで平均60fpsに到達しており、フルHDがターゲットのGPUだが、軽めのゲームなら4Kでも楽しめるだけのパワーがあると言ってよいだろう。

もう一つ、2023年6月2日に発売を控えた「ストリートファイター6」のDemo版も試してみたい。RTX 4060 Tiで快適にプレイできるか気になる人もいるだろう。CPU同士の対戦を実行した際のフレームレートを「FrameView」で測定している。

  • ストリートファイター6

  • ストリートファイター6 - カード単体の消費電力(PCAT)

ストリートファイター6は120fpsまで設定できるが、対戦時は最大60fpsまで。RTX 4060 Tiなら4Kでも最高画質設定で平均60fpsを達成できる。さらにフルHDなら消費電力はわずか50.5Wだ。

DLSS 3対応ゲームならWQHDも射程範囲

2023年3月23日のアップデートでレイトレーシングに対応した「エルデンリング」で試してみたい。リムグレイブ周辺の一定コースを移動した際のフレームレートを「FrameView」で測定した。

  • エルデンリング

  • エルデンリング - カード単体の消費電力(PCAT)

このゲームは最大60fpsなので、平均59fps出ていれば、概ね最高フレームレートで動作していると見てよい。RTX 4060 TiとRTX 3070はほぼ同じフレームレートだ。フルHDなら快適にプレイできるフレームレートだが、WQHD以上だと厳しくなる。また、最大60fps制限があることによって消費電力は低めだ。RTX 3070と性能はほぼ同じだが、消費電力はフルHDで73.4Wも低い。

次は、レイトレーシングとRTX 40シリーズの強みである「DLSS 3」の性能を含めたテストを実行しよう。DLSSは、低解像度でレンダリングした映像を本来の解像度までアップスケールする「DLSS Super Resolution」だけだったが、DLSS 3ではAIによってフレームを生成する「DLSS Frame Generation」を追加して、よりフレームレートを高められるようになった。フレーム生成はGPU側で行うため、CPUがボトルネックになるシーンでもフレームレートを向上できるのが強みだ。なお、DLSS 3はRTX 40シリーズだけで使える技術で、それ以外のRTXシリーズではDLSS 2(DLSS Super Resolution)までの対応になるので注意したい。

まずは、「F1 22」と「Microsoft Flight Simulator」を試そう。F1 22は画質、レイトレーシングとも最高の「超高」に設定、ゲーム内のベンチマーク機能(バーレーン&晴天に設定)を実行、Microsoft Flight Simulatorはアクティビティの着陸チャレンジから「シドニー」を選び、60秒フライトしたときのフレームレートをそれぞれ「FrameView」で測定している。

  • F1 22

  • F1 22 - カード単体の消費電力(PCAT)

  • Microsoft Flight Simulator

  • Microsoft Flight Simulator - カード単体の消費電力(PCAT)

F1 22はRTX 4060 TiのDLSSパフォーマンス設定時のフレームレートに注目したい。DLSS 3のフレーム生成が効いて、DLSS無効に比べて最大2.4倍のフレームレート向上を確認できる。その一方で、4K解像度ではフレーム生成に対応できないRTX 3070よりもフレームレートは低くなった。メモリバス幅の狭さが影響していると考えられる。消費電力に目を向けると、DLSSを有効にすると描画負荷が下がるので消費電力も下がるのがポイントだ。

フレーム生成の威力がよく分かるのがMicrosoft Flight Simulatorだ。このゲームはCPUがボトルネックになりやすく、RTX 3070はDLSSを有効にしてもフルHDとWQHDでフレームレートがほとんど変わらない。その一方で、RTX 4060 TiはフルHDとWQHDで2倍以上フレームレートを伸ばしている。しかし、4KではRTX 3070に勝てなくなるのはF1 22と同様だ。

続いて、2020年発売ながら現在でもPCゲームにおけるもっとも描画負荷の高いゲームの一つとして君臨する「サイバーパンク2077」をテストしよう。サイバーパンク2077は画質設定を“レイトレーシング:ウルトラ”をベースにレイトレーシングライティング設定をもっとも高い「サイコ」にしてゲーム内のベンチマーク機能を実行したときのフレームレートを「FrameView」で測定した。サイバーパンク2077は、すべての光源を正確にシミュレートする「パストレーシング」にも対応しているが、RTX 4070 Ti以上が推奨とあまりにも描画負荷が高いため今回テストには利用していない。

  • サイバーパンク2077

  • サイバーパンク2077 - カード単体の消費電力(PCAT)

描画負荷はさすがに高いが、DLSSをパフォーマンス設定にすればWQHD解像度まではRTX 4060 Tiでも快適にプレイできるようになる。F1 22やMicrosoft Flight Simulatorを見ても分かるが、DLSS 3に対応したタイトルならWQHDまでプレイできる性能があると言ってよいだろう。

CGレンダリングやAI処理、エンコードはRTX 3070より上

ここからはクリエイティブ系の処理をテストする。まずは、3DCGアプリの「Blender」を使ってGPUによるレンダリング性能を測定する「Blender Open Data Benchmark」を実行しよう。

  • Blender Open Data Benchmark

一定時間内にどれほどレンダリングできるのかをスコアとして出すベンチマーク。junkshop以外はRTX 3070を上回った。RTX 4070に対しては2~3割減と言える。

続いて、ベンチマークアプリの「Procyon」に追加された「AI Inference Benchmark」を実行しよう。これは、GPUを使ってさまざまなAI処理を行いスコア化するもの。GPUがAI処理に使われることが多い昨今、重要なポイントと言えるだろう。Windows上で機械学習を行うためのAPIである「Windows ML」とNVIDIAの機械学習を高速に実行するためにSDKである「TensorRT」の両方で試した。

  • AI Inference Benchmark

このテストではRTX 3070を上回った。しかし、RTX 4070に対しては2割減というスコアだ。AI処理を重視するなら上位クラスのGPUのほうがよいだろう。

次は、NVENCによる動画エンコード性能をチェックしてみたい。動画編集アプリの「DaVinci Resolve STUDIO 18」でApple ProResの4K素材を使ったプロジェクト(約2分)をそれぞれH.264、H.265、AV1に変換する速度を測定してみた。品質:80Mbps/Rate Control:固定ビットレート/Preset:速度優先の設定でエンコードを実行している。

  • エンコード(DaVinci Resolve STUDIO 18)

RTX 4060 TiとRTX 4070は第8世代のNVENCが1基だけと同じ仕様なのでエンコード速度もほぼ同じという結果になった。RTX 3070のNVENCは1世代古いのでH.264/H.265のエンコード速度は若干遅く、AV1のエンコードには対応していない。このあたりは世代差を感じる部分だ。AV1エンコード目的ならRTX 4060 Tiは悪くないと言える。

低消費電力のミドルレンジGPUだが問題は価格

最後にGPU温度と動作クロックの推移をチェックしよう。サイバーパンク2077を10分間プレイした際の温度と動作クロックの推移を「HWiNFO Pro」で測定している。GPU温度は「GPU Temperature」、クロックは「GPU Clock」の値だ。室温は23度。バラック状態で動作させている。

  • GPU温度と動作クロックの推移

ブーストクロックは2,745MHz前後で推移。仕様上のブーストクロック2,535MHzなので、ゲーム中はそれよりも高クロックで動作することになる。温度は最大65度と2スロット厚のクーラーとしては十分冷えている。

と、ここまでがGeForce RTX 4060 Tiのテスト結果だ。「フルHDなら高フレームレートを出すことができ、DLSS 3対応タイトルならWQHDまで快適に遊べるミドルレンジGPU」と言える。4Kはメモリバス幅が128bitという狭さもあって明らかに弱いが、それでもストリートファイター6は4K&最高画質でも十分快適にプレイできるパワーはある。DLSS 3に対応し、消費電力が大幅に低くなったRTX 3070と考えれば、性能自体は決して悪いものではない。しかし、国内では69,800円からという価格はミドルレンジGPUとしては厳しいと言わざるを得ない。ライバルとなるRadeonの動向や7月発売予定の16GB版、下位のRTX 4060との性能差にもよるが、価格がこなれてからが勝負になるのではないだろうか。