今では自動車メーカーとしてもオートバイメーカーとしても世界的に有名なホンダ(本田技研工業)ですが、創業当初、はじめて売り出した製品は「自転車用の後付けエンジン」でした。

その現代版ともいえる、普通の自転車を電動アシスト化するソリューション「SmaChari」が3月29日に発表されました。

  • ホンダ初の市販製品は自転車用後付けエンジン「Honda A型」(1947年発売)だった。70年以上の時を経て、後付け電動アシストの「SmaChari」が始動する

    ホンダ初の市販製品は自転車用後付けエンジン「Honda A型」(1947年発売)だった。70年以上の時を経て、後付け電動アシストの「SmaChari」が始動する

自転車を電動アシスト化する「SmaChari」

ホンダは1995年から2002年にかけて、「ラクーン」というブランドで電動アシスト自転車を展開していた時期もあります。しかし、今回の取り組みではホンダ自身が電動アシスト自転車を作り上げてユーザーに直接販売するわけではありません。

SmaChariは、人力のみで走る普通の自転車に、電動アシスト機能とコネクテッド機能(スマートフォン連携機能)を追加するサービスです。ただし、後付けで電動アシスト自転車化できるコンバージョンキットは海外には存在するものの、日本の法規ではユーザー自身が任意の自転車に装着できる形で提供することはできません。SmaChariはあくまで自転車販売店や自転車メーカーに向けた提案となります。

  • 「SmaChari」は既製の自転車を電動アシスト化・コネクテッド化するサービス

    「SmaChari」は既製の自転車を電動アシスト化・コネクテッド化するサービス

メインターゲットとするのは、いわゆる“ママチャリ”と呼ばれるような一般車カテゴリの電動アシスト自転車ではなく、近年急成長しているe-bike、つまりスポーツサイクルのなかの電動カテゴリです。

コロナ禍にも後押しされてロードバイクやクロスバイクを通勤通学に普段使いする人は増えていますが、既製品のe-bikeとなると30万円や40万円は当たり前、上を見れば100万円クラスの機種も存在するほどで、まだまだ手を出しづらいジャンルです。

そこでSmaChariがあれば、メーカーではなく販売店主導で、通常のスポーツサイクルを電動化した商品を企画できます。既存のe-bikeよりも手頃に、実用系以外の電動アシスト自転車の選択肢を増やし、特に移動手段として自転車の存在が大きい若年層に訴求していく考えです。

  • 販売店による「既存車種の電動化」を手助けすることで、手頃な価格帯で好みに合わせて選べる電動アシスト自転車の選択肢を広げる

    販売店による「既存車種の電動化」を手助けすることで、手頃な価格帯で好みに合わせて選べる電動アシスト自転車の選択肢を広げる

搭載モデル第一弾「RAIL ACTIVE-e」をワイズロードが今秋発売

先述の通り、SmaChari自体はBtoBで展開され、ホンダ自身が電動アシスト自転車を売り出すわけではありません。やはり、実際に我々が買える商品としてどれぐらいの価格で出てくるのかが気になるところでしょう。

サービスの発表と同時に、市販予定のSmaChari搭載モデル第一弾も発表されました。スポーツサイクル専門店「ワイズロード」を展開するワイ・インターナショナルから、クロスバイクタイプの「RAIL ACTIVE-e」が2023年9月(予定)に発売されます。

  • SmaChari搭載モデル第一弾「RAIL ACTIVE-e」

    SmaChari搭載モデル第一弾「RAIL ACTIVE-e」

Khodaa Bloom(ホダカ)のクロスバイク「RAIL ACTIVE」にSmaChariを搭載し電動化したワイズロードオリジナルモデルで、予定価格は22万円。同店でのベース車種の販売価格が約7万円ですから、電動化の費用感をおおよそうかがい知れます。

なお、ホンダが手掛けるのは制御・通信ユニットと後述のスマートフォンアプリの部分で、モーターやバッテリーなどはすでに実績のある海外メーカー製の電動アシスト自転車向けパーツが使われます。

電動化ユニット一式をRAIL ACTIVEに組み込んだ状態で公道走行に必要な型式認定を取得しており、まずは1車種からの展開。ちなみに、組み付け作業(電動化)は通常の納車整備のようにワイズロード各店のメカニックが行うとのこと。昨今のスポーツサイクルの在庫状況や納期は世界的に厳しいところがありますから、電動/非電動モデルの在庫が共通化されて供給不足に悩まされにくいこともひとつのメリットといえます。

RAIL ACTIVE-eの車両重量は約15kg、定格出力は250W。5月から受注予定、9月に発売予定というスケジュールで、4月15日~16日には東京ビッグサイトで開催される「CYCLE MODE TOKYO 2023」で実車が披露されます。イベントでは試乗の機会も設けられます。

  • Khodaa Bloomのクロスバイクに電動アシストユニットを後付け。ホンダが作るのは制御・通信ユニットで、モーターやバッテリーは既存のものを採用する

    Khodaa Bloomのクロスバイクに電動アシストユニットを後付け。ホンダが作るのは制御・通信ユニットで、モーターやバッテリーは既存のものを採用する。上の写真に見えるボトルのようなものがバッテリー

ユーザー目線ではスマホ連携もうれしいポイント

さて、実際に自転車を購入するユーザー目線でのSmaChariのメリットは、単に安価なスポーツタイプの電動アシスト自転車の選択肢が増えるというだけではありません。

SmaChari搭載自転車には、ホンダが提供するスマートフォンアプリと連携して便利に使えるコネクテッド機能が用意されます。エンドユーザーからアプリ利用料は徴収しない方針のため、対応自転車を購入すれば無料で使えるサービスとなります。

  • 開発中のアプリ画面

    開発中のアプリ画面

スマートフォンをスピードメーターやナビ代わりに出来るほか、モーターのパワーやレスポンスもアプリ経由でカスタマイズ可能。走行経路や消費カロリーなどのログも残せますし、バッテリー残量をスマホで確認できるため充電忘れを防げます。

また、アプリ連携で電動アシストユニットのロック/ロック解除を行うため、持ち去りを防ぐための鍵と併用することが前提にはなるものの、盗難防止にも一役買います。アプリにはフレンド機能が用意され、この電子キーをシェアできるほか、サイクリングや待ち合わせのための位置共有もできます。

  • 電動アシスト化と同時に「コネクテッド化」できることも特徴

    電動アシスト化と同時に「コネクテッド化」できることも特徴

なお、自動車のDCMのように車両からモバイルネットワークに直接つながる通信機を組み込むことはせず、Bluetoothでスマートフォンとやり取りすることを前提としたシンプルな構成となっています。

自動車メーカーならではのユニークな試みとして、通信機能を持つホンダ車から得られた「急ブレーキをかけた場所」などの情報をもとに、事故リスクが高いと思われる危険スポットが地図上に表示されます。デジタル技術で安心・便利に進化していくコネクテッドカーのエッセンスを、自転車という最も身近なモビリティで体感できる点も見どころのひとつでしょう。

  • おまけ。こちらは貴重な「Honda A型」を搭載した自転車。普段はツインリンクもてぎ(栃木県)併設のホンダコレクションホールで保存されています

    おまけ。こちらは貴重な「Honda A型」を搭載した自転車。普段はツインリンクもてぎ(栃木県)併設のホンダコレクションホールで保存されています

  • Honda A型も自転車そのものはホンダ製ではなく、自転車を文字通りの“原動機付自転車”にするためのキットでした。そう考えると、SmaChariは原点回帰のようにも感じられますね

    Honda A型も自転車そのものはホンダ製ではなく、自転車を文字通りの“原動機付自転車”にするためのキットでした。そう考えると、SmaChariは原点回帰のようにも感じられますね