パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW)は、リアルタイム照明シミュレーションツール「Lightning Flow」を2022年末にメジャーバージョンアップ。メディア向けの体験会に参加してきました。

  • 実際の風景(上)と、Lightning Flowでシミュレーションした画面(下)

無料で使える照明のシミュレーションソフト

ビルやホールなどの施設を建設するとき、照明は空間を演出する最後のエッセンスになります。しかし、設計の段階から完成後の照明の様子をシミュレーションするのは、時間や費用のかかる難しい作業でした。

Lightning Flowは照明設計を効率化するために、照明を手軽かつ高精度にシミュレーションするツールです。3Dデータ上に配置した照明(光)の効果をリアルタイムで反映し、確認できます。照明設計の業務フローを高速化し、施主や設計事務所間での円滑な合意形成に役立つものとなっています。

一般消費者が日常的に利用するものではなく、かなり専門性の高いものですが、実際に体験してみるとなかなか興味深いツールでした。

Lightning Flowは、2021年3月からパナソニックEWのWebサイトで無料提供を開始し、2021年6月から本格展開を始めています。2022年末には大幅なバージョンアップを行い、さまざまな機能の拡充と強化が図られました。誰でも導入可能ですが、使うときには建築データと照明データの両方をそろえて読み込ませる必要があります。

  • Lightning Flowのダウンロードサイト。12月のメジャーアップデートで「LIGHTNING FLOW 2」とバージョン表記しています。ダウンロードには「住宅・建築設備Webビジネス会員」へ登録(無料)が必須です

Lightning Flowの動作環境は、OSがWindows 10で、オートデスクのBIMツール「Revit 2018.3~2013」が必要。CPUやグラフィックスに求められる水準は明示していませんが、Revitが比較的重たいツールなので、Revitがきちんと動作する環境なら大丈夫と考えてよいでしょう。パソコンに導入すると、LightningFlow本体のほか、RevitAddins、BIM Tools UpdateManagerが同時にインストールされます。

「配信開始から1年半で国内のゼネコンや設計事務所を中心に約700社が導入しました。大手ゼネコンはほとんどが導入しています」と語るのは、Lightning Flowの開発責任者を務めるパナソニックEWの高島深志氏。

700社という数字は高島さんの想定範囲内とのこと。まずは順調な滑り出しと考えています。今後はダウンロード数を伸ばすだけでなく、日常的に利用されるツールにすることを目指して周知に注力していくそうです。

  • Lightning Flowを一人で開発したという、パナソニックEW ライティング事業部 エンジニアリングセンター 主幹 高島深志氏

Lightning Flowでは、Revitで作成したBIMファイルの読み込みも、Revitで読み込むBIMファイルの書き出しも行えます。建築データの3D汎用フォーマットであるFBXやIFC形式のファイルも読み込んで取り扱えます。Lightning Flow上で設計に変更を加えたり、3Dデータ内をウォークスルーで移動したりしながら設計の確認やシミュレーションが可能です。

従来の照明シミュレーションに比べると爆速の時間短縮

施設の照明を設計するときは、建設空間で必要になる明るさ、照明の性能、必要な台数や配置する場所といった「光環境」を設計して、実際に建設する前にシミュレーション上で確認します。例えばオフィスビルでは、机の配置時に机上の明るさがJISなどの基準を満たしていなければなりません。実際の建設前に確認しておかないと、後から基準に満たないとわかった場合は、手間をかけて現場で修正することになってしまうのです。

  • 建築業界では、設計段階から照明をシミュレーションで確認するのが当たり前になっていますが、従来の照明シミュレーションでは課題もありました

しかし、従来のBIMツールでは建築のデータと照明のデータが連動するものがありませんでした。照明をシミュレーションするには建築と照明のデータ形式をそろえて入力する必要があり、照明を変更すると、照明のデータを作り直して入力もやり直し。

照明(光)のシミュレーションは一般的にパソコンの処理時間も長く、修正が発生すると時間にもコストにも跳ね返っていくのです。Lightning Flowは、照明シミュレーションにかかる時間を大幅に削減した点が最大の特徴かもしれません。

  • Lightning Flowと既存の照明シミュレーションソフト、照明計算にかかる時間を比較したグラフ。これは1フロア81台の導入例ですが、照明器具が増えれば増えるほど、時間差が大きくなります。現場によっては1,000灯や2,000灯のシミュレーションが必要な場合もあると考えると、「待っていればよい」では済まない差です

また、施主や建設設計者に説明するとき、照明に詳しくない人や今まで平面でやってきた設計者に照明を立体的にとらえて判断してもらうのは難しいため、3DCGでウォークスルー映像などの資料を作って合意形成に役立てることが増えています。

これも煩雑でコストのかかる作業。プレゼン用の3DCG映像を作る場合も、BIMツールではない別の3DCGソフトを使って映像だけ作成する必要があったからです。Lightning Flowはこうした課題も解決し、照明設計の効率化が図れるようになりました。

Lightning Flowで照明設計した実例で見る、高いシミュレーション精度

Lightning Flowがどのように役立つか、わかりやすいデモンストレーションとして、パナソニックの東京汐留ビルにある社員用シェアフロア「PERCH LOUNGE(パーチラウンジ)」の照明デザインが披露されました。

2022年3月にオフィス・リノベーションが竣工したPERCH LOUNGEは、Lightning Flowを利用し、完成イメージを確認しながら照明設計を実施。Lightning Flowの画面と、実際のPERCH LOUNGEの写真を見比べると高い再現性のあることが一目瞭然です。

  • PERCH LOUNGEのフリーワークエリアは、パナソニック社員のみが利用するスペース。打ち合わせなど対話がしやすい開放的な空間です

  • Lightning Flow上でのフリーワークエリア。実際の照明と形状が異なるように見えますが、よく見ると照明の位置と明るさが同じになっています。取り込まれる外光や窓への反射もシミュレーションしています

  • エントランスから伸びる通路の右がフリーワークエリア。左は来客用のスペース。仕切りの壁にはガラスが使われ、LEDで発光して半透明になる仕組み

  • Lightning Flow上での通路と来客スペース。柱の照明や床に当たっている照明を見比べるとシミュレーションの様子がわかりやすいでしょう

シミュレーション画面上で空間の明るさを数値でリアルタイム表示

バージョンアップで強化した機能の中でも注目したいのが、「Feu(フー)」への対応です。Feuとは、空間の明るさ感を定量化して表す独自指標(2005年にパナソニックが開発)。床面や机上面の照度を表す指標としてルクス(lx)がありますが、必ずしも「高ルクスの状態」=「空間が明るく感じる」とはならないため、より正確な照明設計のために考案したものです。

Lightning Flowでは、Feuをリアルタイムで算出して画面上に表示できます。室内や通路の明るさが十分に確保されているかを、人の位置だけでなく顔の高さや向きまで考慮して簡単にチェック可能になりました。Lightning Flowの画面で視点の位置と方向を変えると、Feu値は即座に変化。ウォークスルーで暗く感じると好ましくない場所を探したり、照明を変えた場合の明るさをチェックしたりするには、とても役立つ機能といえます。

  • 空間の見た目の明るさを表す指標「Feu」

  • 数値のみではわかりづらいため、画面上部のFeu値はプリセットの想定シーンを選択することで、数値の横に「標準」「明るめ」「抑えめ」などと明るさ感も合わせて表示

施主や設計事務所との合意形成がスムーズになる照明演出データも手軽に作れる

照明演出作成シミュレーションも使い勝手の良さそうな機能です。これまで照明演出のシミュレーションを作成しようとすると、照明演出用のソフトを使い、建築データと照明器具データを入力して演出プログラムを作成する必要がありました。

Lightning Flowによる照明演出作成では、照明設計の延長線上で演出プログラムが作れます。

  • 演出プログラムだけ追加で作成すれば、動画や3DのプレゼンテーションまでLightning Flowのみで完結します

【動画】プレゼンテーション用に作る演出プログラムのデモ

  • 従来は手間の多かった照明数の変更や位置の微修正も簡単に。照明のオブジェクトを増設するときも、コピーする数と間隔を数値で指定するだけ

  • 一度に設置した照明の向きや高さ、明るさ、色、カラー演出などはまとめて設定可能

建築業界の人や建築・デザインに関心のある学生などに有用

PERCH LOUNGEの照明設計に携わった、パナソニックのライティングデザイナー・谷邨和子氏によると、Lightning Flowを利用することでイメージする照明環境を適宜ビジュアルで確認しながら照明設計が行え、シミュレーションの手間が大幅に削減できたとのこと。現在も複数の案件で活用しているそうです。

ツールの習熟に要する時間も短くて済み、3日間ほど触っていたら使いこなせるようになっていたとか。谷邨氏の「空間を活かすも殺すも照明しだい」との言葉が印象的でした。

新しくなったLightning Flowは、仕事で建築に関わる人はもちろん、建築業界に興味のある学生、空間や照明のデザインに関心のある人にとっても、触れておきたいツールといえそうです。ダウンロードサイトには詳細なマニュアルも用意。興味を感じたら軽く使ってみてはいかがでしょうか。

【動画】タイムラインによってほとんどのパラメータを時間で制御。太陽光を動かしながら室内の調光を制御したり、調光・調色を組み合わせてカラー演出したり、調整が自在です

【動画】キャラクターライブラリからアイコンを選んでドロップするだけで、人物や観葉植物などを配置。キャラクターには動作を割り当てられます。激しくツイストでダンスさせることも(どんな利用シーンを想定しているのか……)。ちょっとシュール