キヤノンのフルサイズミラーレス「EOS R」シリーズ用のRFレンズでユニークな存在といえるのが、「明るさを抑えて圧倒的な小型軽量化と低価格化を図った超望遠レンズ」です。特にユーザーを驚かせたのが、2021年に発売した超望遠ズーム「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」。先に投入したLレンズの超望遠ズーム「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」と比べて小型軽量なうえ30万円以上も安い点が注目され、「RF100-500mmから買い替えた」というユーザーが続出したほど。ズームレンジが重なるこれらの2本、使って分かる違いは何なのか、どちらを買うのが正解なのか、仕事でもプライベートでもEOS R5を使っている大浦カメラマンに試してもらいました。
動きものを中心に撮影し、操作性や“撮影の楽しさ”をチェック
まずこの企画は、マイナビニュース本コーナーを担当するI編集氏の朝イチメールからスタートした。「性格の似たような製品を使ってみて、ズバリこっちが買い! なーんて企画やってみません?」とメールには書かれており、氏らしい思いつきで書いたことがよく分かる。企画なんぞ思いつきから始まることが多いのでそれはそれで納得だが、タチが悪いのは文脈から企画の緩さがヒシヒシと伝わってくること。「ボクの考えた企画面白そうでしょう? その記念すべき第1回目は『RF100-400mm F5.6-8 IS USM』と『RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM』の対決ってどうすかぁ?」と曰う。
実は「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」については半年ほど前にこのマイナビニュースでレビューやっているし、「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」についても「EOS R3」のレビューで本レンズを使いキヤノンイーグルスの練習風景を撮っている。どちらも閲覧者数が多く、それに気をよくしたI編集氏が会社のある千代田区一ツ橋に向かう通勤電車のなかで直接対決を思いついたらしい。このところレンズの性能は価格やクラスに関係なく高次元なものとなっているため比較レビューは難しいのではと一瞬考えたが、クライアントには逆らえない立場。一つ返事で受けてしまったのである。
そんなこんなで今回は“使ってみた感”を特に重きを置いて見比べてみたいと思う。比較で撮影を行った被写体については、レンズの用途などを考慮し動きものをメインとしている。具体的には航空機、鉄道、子どものサッカーなど選んでみた。撮影していくなかでどんな操作感だったか、どっちが撮っていて楽しかったか、そして参考までにちょっとだけ写りはどうだったかなどを述べていきたい。なお、カメラは自前の「EOS R5」を使用。AF動作はサーボAF(コンティニュアスAF)をメインとし、AF方式は領域拡大AF(周囲)を選択、そのほかのAFに関する機能はデフォルトとしている。また、お断りとして子どものサッカーの作例については、大人の事情により絵になる写真が掲載できなかったことをご承知いただければと思う。
レンズの装備に差はあるものの、描写はほぼ互角!
まずは、航空機。羽田空港C滑走路が臨める第二ターミナル展望デッキと羽田空港近くの城南島で行った。レンズを振り回ししやすいのは、言うまでもなく軽量コンパクトな「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」(以下100-400mm)。「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」(以下100-500mm)から付け替えると拍子抜けしてしまうほどカメラが軽く感じられる。特にタキシングを終えスレッシュホールドで離陸指示を待つ航空機や、着陸してくる航空機にカメラを向け続けているときなどこの軽さは助かることが多かった。“軽さは正義”を実感した瞬間でもある。
離着陸する航空機を撮る場合シャッターを切りながらズーミングすることが多い。航空機と言ってもボーイング737、エアバスA320など小さなナローボディ機から、ボーイング777、エアバスA350の大きなワイドボディ機のものまであり、しかも離着陸するタイミングなど個々で異なるため、状況に応じて、また画面の中の航空機の大きさに合わせてズーミングする必要があるからだ。そのためズームリングの操作感は非常に大切に思っている。その点100-500mmはズームリングの回転の重さを調整する「調整リング」を備えているのは嬉しいところ。スムーズからタイトまで好みの重さに調整でき、とても便利に思えている。私の場合、航空機の撮影では臨機応変にズームリングが動かせるよう一番スムーズに動くように設定。カメラを持つ手に影響の及ばない軽い力でのズーミングを可能としている。なお、カメラを肩から下げて移動するような場合、100-500mmにはズームロックボタンがないため、この「調整リング」をタイト側にしておくのがオススメだ。
第二ターミナル展望デッキでの撮影は、晴天ながら大気中の水蒸気が多くすっきりしない条件であったが、両レンズともヌケがよく裸眼で見た以上にクリアな写りに思えた。また、城南島での撮影は曇りであったが、白い機体と白い曇り空の見切りも良好で、これも両レンズのコントラストの高さ(ヌケの良さ)によるものが大きいようだ。価格の差は4倍ほどともなるが、その違いを明確に感じるようなことはなく両者いい勝負である。
▼RF100-400mm F5.6-8 IS USMで撮影
▼RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMで撮影
鉄道では、新幹線とモノレールにレンズを向けてみた。新幹線は高層ビルの最上階展望室からガラス越しに俯瞰し、流し撮りで狙った。焦点距離は300mmあたりからテレ端までを使用。ぐっと画面に大きく引き寄せて撮影を行なっている。どちらの作例もガチピンでしっかりとAFが被写体を捕捉していることが分かる。振り回ししやすいレンズについては言うまでもないが、かといって100-500mmが振り回ししにくいかと言うとそうでもない。また、鏡筒が白色だからガラスに映り込むのではという向きもあるが、今回はレンズを斜め下方向に向けての撮影のためその心配も不要である。写りについては、ガラス越しに被写体を撮っているので弁明は避けるが、結果に違いが見受けられなかったことは述べておきたい。
モノレールについては、遠く東京湾の見通せるポイントで手持ち撮影。AFはこの作例のみ「ワンショットAF」つまりシングルAFを使い置きピンとしている。いずれも写真のピントはガチピンで気持ちがイイ。300mmほどの焦点距離のため感度をISO400にしていることもあるが、強力な手ブレ補正機構によりブレも両者よく抑えている。こちらもコントラストの高さ、いわゆるヌケのよさが目立つ。遠くにある東京湾アクアラインの排気口(風の塔)をどちらもそれなりにしっかり写し込んでいることからも分かる。100-500mmと異なりコーティングにASC(Air Sphere Coating)を採用していない100-400mmも同様なのはご立派としか言いようがない。