ソニーのフルサイズミラーレス「α」シリーズのなかでも突出したヒットとなったのが、2018年3月に登場した「α7 III」です。小型軽量ボディを維持しつつAF性能や速写性能、操作性を大幅に引き上げたことが評価され、フルサイズミラーレスのお手本的な存在となりました。3年9カ月ぶりに“無印α7”の最新モデルとして登場した「α7 IV」、落合カメラマンはαシリーズに密かに存在していた“キケンな制限”が改良されているかどうかが気になって仕方がないようです。
まずFE 50mm F1.2 GMの表現力にゾッコン
ベーシックであり続けてきた“無印α7”(「R」とか「S」とか付かないα7)は、しかし他社製の上位モデルをも凌駕する要素を有するカメラであり続けている。例えば、α7 IIIからはAF性能がグンと進化。動体に対する適応能力は、「α9」譲りを謳う本格派にまで上り詰めていた。もちろん、当時のフラッグシップ機α9とまったく同等であるわけはないのだが、同世代の他社同ランクモデルとの比較では、明らかに一枚上手の実力を持っていたのは確かだ。
そんな“無印”にIV型が追加された。「R」がIVに、「S」がIIIに進化したのに続く、待望の「無印のIV」である。グーンと上昇した実売価格には、すでに“ベーシック”な雰囲気は希薄であるような気もするけれど、これこそが現代のベーシック、つまりソニーがいうところの「次代の新基準、Beyond Basic」なのだとしたら、ははぁ~と平伏すしかない。フルサイズミラーレス機を引っ張っているのは、なんだかんだ言ってまだまだソニーだからね。
さて、今回はまず、ひっさびさに50mmレンズ1本で歩いてみることにした。α7 IVボディと一緒に借用したのは、1年チョイ前に登場したFE 50mm F1.2 GMだ。フルサイズで50mmといえば、ベーシックな「標準レンズ」。でも、コイツも30万円に迫ろうかというリッパなプライスをつけている。α7 IVと似たような価格だ。明るさがF1.2なのだからアタリマエ? ううーん、アレもコレも、びよんどべーしっく・・・。
いや、でも、実際に使ってみると、その“価値”はα7 IVより分かりやすいかもしれない。ジツにイイ感じの画を結ぶのである。開放F値で寄っても引いても、画角の隅々までボケがまったく破綻しないってのが、なんて言うのか、スゴい(語彙力が破綻)。最短撮影距離に近いところだと背景のボケがグルングルンになっちゃうとか、引きで撮っている時のちょいボケがキチャナイなんてこととは見事に無縁の、全面とことん落ち着きまくった、しかし柔らかさとシャープネスをも兼ね備える、マルチパーパスな描写力にゃ惚れるなってのがムリな相談だ。だってぇ、自分比3倍ぐらい写真が上手になったような気がしちゃうんですものぉぉ。
ボディの周辺光量補正は、あえて切って使う。うん、ヨイ。ジツにヨイ。周辺光量の落ち方も上質だ・・・。って、いけねぇ。レンズのレビューじゃなかった。今回はα7IVの話だ。
露出補正ダイヤルのイマドキな変更は賛否ありそう
α7 IVを手にすると、まずはα7 IIIとの比較でボディの厚みが増していることに気づく。これは、α7R III→α7R IV、α7S II→α7S IIIと相似の変化だ。
操作系もメニュー構成を含め一新されているのだが(メニューはα7S IIIから始まった新形態)、個人的には露出補正専用ダイヤルの消滅に至極残念な思いを抱くことになっている。デジカメの時代に、ベタな露出補正ダイヤルを堂々と残し続けてきたところには、妙なところで頑固なソニーの真っ直ぐな姿勢を感じていたりしたのだけど、いよいよ変わる時が来ちゃいましたかね。
ほぼ同じ位置に、初期設定で露出補正を担うようになっているロック付きダイヤルがあるので、専用ダイヤルがなくなっても露出補正操作そのものの使い勝手はほぼ変わらずに確保されている。だから、文句を言われる筋合いはないだろう。しかし、EVFやモニターの小さな表示に視線を送らねば、現時点の露出補正の有無とその度合いがわからないことに多大なる不便を感じたのも偽りなき事実だ。あくまでも写真撮影中心の(このカメラでは動画撮影をほとんど行わない)従来機オーナーの目線ではあるけれど。
AFは相変わらず非常に優秀だ。選択可能な759点の位相差測距点や425点のコンラストAF測距点の数は、現時点における最上位モデル「α1」に倣うもので、搭載する画像処理エンジン「BIONZ XR」もα1やα7S IIIと同等。実力は推して知るべし、である。個人的には、やはり動体に対するAF追従、とりわけ測距点自動選択(ワイド)でピントの被写体追従をカメラに丸投げしているときに感じられる信頼感と、新たにα7Cライクな使い心地が得られるようになっているトラッキングAFの実用性の高さをしっかり評価しておきたい。
人知れず(?)存在していたキケンな制限が大きく緩和された
そしてもう一点、高速連写時のピント追従を放棄するようになる絞り値の設定上限が、さりげなく向上している点にも着目するべきだろう。αシリーズに人知れず存在している「AF-Cに設定しての高速連写時に、設定とは裏腹に問答無用で1コマ目でピントが固定されてしまう」ことがあるという、知らないでいると恐ろしいことこの上ない事象。それを招かずに済む限界の絞り値が、α7 IIIではF11だったところ、α7 IVではF22にまで大幅に“緩和”されているのだ。
現在ラインアップされている中で「F22」のラインが確保できているのは、実はハイエンドのα1とこのα7 IVだけ。α7 IV、ベーシックなフリをしながら、中身は相当にイケてるヤツだったのだ。
参考までに、α9 IIはF16(α9は当初F11だったものがVer5.0でF16に向上)、α7S IIIとα7R IVとα7 IIIとα7CはF11、α7R IIIはF8など、“限界値”はモデルによって異なっている。大雑把には「世代によって違う」といってもいいだろう。そして、この無慈悲な線引きが最大のキケンをもたらすのは、主に望遠ズームレンズなどテレ端の開放F値がF6.3以上のレンズとテレコンバーターを組み合わせて使うとき。その理由は・・・もう皆さん、お分かりですね?
テレコンバーター併用時、1.4倍テレコンでは1絞り、2倍テレコンでは2絞りぶん開放F値が“暗くなる”。となると、例えばF8を限界とするα7R IIIは、そういった望遠ズームとテレコンのコンビ、かつテレ端に近い焦点距離では、動体を高速連写でピントを追従させながら撮ることは実質「できない」にも等しいわけである。また、F11限界のモデルの場合は、2倍テレコン使用時、テレ端がF5.6よりも暗い開放F値が変動するズームレンズでは、レリーズする瞬間の焦点距離によって高速連写時のピント追従が行われたり行われなかったりすることがあり得るという妙な話にもなりかねない。これ、私のようなヘソ曲がりにとっちゃ相当に興味をソソる挙動である。
とはいえ、テレコン使用の可否を含めると、上記のモロモロは実のところ現状FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用時だけの問題。現実には大した話じゃない。でも、同レンズは、比較的安価な割には非常に使い勝手の良い望遠ズームレンズであることから存在感は大きい。α7 IVがさりげなく実現している地味ながら的を射るこの進化は、ひょっとしたらFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSのため? もしそうだったら、なんだか妙にウレシイんですケドぉ~(後編に続く)。