現在、世界経済に大きな影響を及ぼしている半導体供給の危機に対して、その対応策として必要とされているサプライチェーンの再構築とデジタルインフラストラクチャの可能性の考察を、デジタルインフラストラクチャの世界的なプラットフォーマーであるエクイニクスジャパンからの特別寄稿記事としてお届けします。

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著者・エクイニクスジャパン デジタルストラテジーリード日本担当 村上慎一

世界的な半導体不足は、現在の世界経済に大きな影響を与えており、世界の産業界では、引き続き2022年もこの半導体不足に起因したサプライチェーンの混乱が継続すると予測されています。最新半導体を製造する工場の建設には、多額の建設費だけではなく、最新半導体を製造する技術の研究開発にも多額の資金と技術力を必要とするため、これらに対応可能な半導体製造に特化した企業(ファンダリ企業)の数は世界的にも限られています。さらに半導体の開発、製造を一手に担ってきた統合半導体製造企業(IDM)も、効率化の観点から自社半導体の製造をファンダリ企業に委託するケースが増えてきており、自社の生産能力を拡大できていません。

一方、アップルやグーグル、NVIDIAと言った世界的なテクノロジー企業は、自社製品、サービスの差別化を図るため、さらに特殊な機能の実装や高性能化、省電力化を求めており、最新の半導体はより多様化することが予想されています。さらに2019年に始まったコロナウィルスによるパンデミックにより、在宅勤務や巣ごもり需要が世界的な半導体不足に拍車をかけ、電機業界、自動車業界などに大きな混乱を生み出しました。各産業界においては、2022年にかけてもこの混乱に対応するため、工場の操業停止など生産調整を実施しており、サプライチェーンを制御するために多大な時間とコストを費やしています。

また、技術的には、アップルやグーグルなど主要なテクノロジー企業は、より高性能、高機能で省電力なプロセッサやメモリーなどの半導体製品を必要としています。最近、IBMが世界で初めて2nmnプロセス技術による半導体チップを開発しました。今後、より多くの半導体企業がこれに続くと予想されています。このような最新技術を使った半導体製品は、100億個を超えるトランジスタにより構成されており、また、多層化が進む中、設計データやマスキングデータなどのデータサイズは巨大化しています。そのため、半導体業界のサプライチェーンでは大容量のデータを如何に安全かつ高速に共有することができるかという点が重要になっており、これを支えるIT基盤への要求も高まっています。

では、半導体企業ではどのようにしてデジタルインフラストラクチャを構築して、効率化を図り、サプライチェーンの混乱を緩和して、将来の拡張性を担保しようとしているのでしょうか?

サプライチェーンのレジリエンスと可視化を実現するために安全なダイレクト接続を利用

世界のファンダリ企業の多くは東アジア地域に存在しています。2020年での半導体製造における世界シェアは、台湾が63%を占め、韓国が18%、中国が6%でした。世界の半導体製造はこの地域に大きく依存しています。さらに、多くのファブレス企業は、米国のシリコンバレーを拠点として、世界の複数都市に開発研究拠点を置いた世界規模でのマルチロケーションなR&D体制となっています。ファブレス企業とファンダリ企業の物理的距離は、パンデミックによる世界的な移動や交通システムの制約による影響を受け、半導体製造業界が抱える構造的な脆弱性を露呈してしまいました。

サプライチェーンの混乱が継続する中、半導体企業は、地域や物理的な距離の影響を最小化して、安全かつリアルタイムにコミュニケーション可能なデジタルインフラへの投資を開始しています。これにより、現在の半導体不足の一要因となっているサプライチェーンの需要予測における非効率性、所謂「ブルウィップ効果」の抑制につなげようとしています。堅剛なデジタルインフラストラクチャを構築することにより、複数の企業で構成され複雑化している半導体業界のサプライチェーンで、的確な投資計画、需要予測と生産計画をさまざまな外的要因などに対応しながら、関係各社間での連携を加速することにより実現しようとしています。実際、アクセンチュアの「Globality and Complexity of the Semiconductor Ecosystem Report (クリックでpdfファイルが開きます)」によると、平均でこのサプライチェーンには25カ国が関係しているとされています。

生産性と生産効率を拡大するIIoTプラットフォームの構築

デジタルインフラストラクチャを先んじて導入している企業では、エッジリソースを活用してサービスと利用者やパートナーを近接に配置することで生産性を向上しています。例えば、エクイニクスが提唱している「Interconnection Oriented Architecture (IOA)」を使用して設計されたデジタルインフラストラクチャでは、ITサービスと利用者もしくは半導体工場との間の距離を最小化して安全でプライベートな接続よりクラウドやネットワークなどさまざまなサービスを使ったデータ交換を最適化することができます。

  • エクイニクスが提唱する「IOA」によるデジタル化プロセス

世界市場における半導体製品への需要拡大に対して、半導体企業には常に高い生産能力が要求されています。対応策のひとつが堅剛なIIoT (製造業における、モノのインターネット) プラットフォームを構築することです。IIoTにより生産過程における物理的なプロセスを完全に可視化することにより、生産品質と歩留まりを向上させ生産能力を強化することができます。また、生産ラインにおける生産機器の稼働状態などをリアルタイムでモニターして分析することにより、予防保守、保全なども実現することが可能になります。これによりサプラインチェーンにおける稼働率と生産効率を改善して、生産能力の向上に貢献すると同時にサプライチェーン全体に渡り正確な生産計画と供給計画の提供を実現します。

シームレスなリモートワークを活用

パンデミックの影響によるリモートワークと政府によるロックダウンが半導体不足を加速したことは言うまでもありません。多くの半導体企業では、リモートワークとその管理、コミュニケーションなどを支えるデジタル基盤の整備が遅れていました。特に企業活動において不可欠となるコミュニケーション機能での整備遅れは、企業における生産の遅れだけではなく、サプライチェーン全体の崩壊を招き、サプライチェーンの混乱を引き起こしました。生産面でも複数の工場で生産能力が低下し、設計フェーズでの遅延を発生させました。例えば、マレーシアでは、2021年6月の間に企業は全従業員の60%しか稼働することができませんでした。

このような課題に対し、製品設計や製品テストなど非生産作業に従事するエンジニアに対して、リモートで設計、検証テストを行えるツールや環境を整備することにより、プロセスを中断する可能性を軽減することができます。従業員、パートナー、関係者が安全で優れたユーザ体験を得ることができるデジタルインフラストラクチャを構築することで、自宅やさまざまなリモート環境から業務を継続することが可能になります。

コネクテッドクラウドアーキテクチャ

半導体業界全体が市場の需要と期待に対応していくためには、企業とサプライチェーン全体に常に新しい技術への対応が求められています。スマートフォンやモバイルデバイス、コンピュータ業界における市場での競争は激しさを増すばかりで、半導体設計部門へは常に高速化、高機能化、そして低電力化への強い要求があります。ゆえに半導体設計部門では常に極小化と多層化へのチャレンジを繰り返しており、それを支援するEDAシステムの要求も高まっています。また、半導体設計フェーズにおいても設計作業の工程ごとの分業化が進み、大容量の設計データやマスクデータを複数のプロジェクトチームや場所、組織からアクセスして使用する機会も増えてきています。そのため、最新のEDAシステムや設計プロジェクトの環境では、複数のアクセスが同時に発生し、大量の同時I/O操作が発生することが増え、ストレージ性能がボトルネックになりEDAシステムを使った設計や検証シミュレーションの実行時間に影響を与えています。

つまり、最新のEDAシステムでは、ストレージ関連の性能が重要になります。例えば、「Platform Equinix」上に展開されたデジタルインフラストラクチャを活用し、Equinix Metalと共に提供されるPure Storageを利用することにより、最新の半導体設計で必要とされる同時アクセス性能とマルチクラウドへの接続性がより簡単に実現され、すべての利用者とパートナーに対し、必要な場所へ低遅延でシームレスなアクセスを可能にします。Pure Storageは、数百万IOPS、75GB/sの性能までシームレスに拡張することができるため、最新の半導体設計や製造プロセスの進化を支援します。

パンデミックの影響により、半導体の設計プロセスにおいてもリモートワーク環境への要求が高まっています。これらの要求に対して、一部のEDAツールベンダーは、自社のEDAツールをパブリッククラウド上にホスティングしてサービスとして提供することを始めています。

  • Platform Equinixの展開イメージ

Microsoft AzureとPure Storageを使用することにより、IDM企業やファブレス企業は、最新半導体のIPデータや設計データを自社のデザインセンターやR&D組織に近いエクイニクスのIBXに設置されたFlashBladeに移動、保存することができるようになります。また、自動化ツールを使用することにより、ローカルデータセンターとエクイニクスのデータセンター間でのデータ可搬性に対する運用オーバーヘッドも削減することが可能になります。さらにAzure上に展開され提供されるEDAツールに対して、Equinix Fabricを介して接続することにより、安全で低遅延なアクセスが実現されます。Platform Equinixが提供するEquinix Metal やEquinix Fabricを活用することにより、半導体企業におけるデータ主権を維持しながら、比類ない拡張性を提供するAzureクラウドのコンピューティングパワーをオンデマンドに利用するが可能になります。

エクイニクスが提供するさらなる価値

エクイニクスは、パートナーであるサービスプロバイダとオンデマンドで最適化されたインターコネクションを全世界に提供しています。エクイニクスを利用することにより、半導体企業は、ネットワーク遅延の問題を意識することなく、Azureなどのクラウド上のEDAアプリケーションやAI/MLテクノロジーを活用することができるようになります。また、理想的なIIoTプラットフォームを構築して半導体工場の品質、生産性を向上することも可能になります。IDM型の企業は、エクイニクスを活用したグローバルバックボーンネットワークを利用することでIDM2.0戦略を実践し、R&Dネットワークを強化、共同での事業を加速して生産部門も強化することが可能になります。デジタルインフラストラクチャを利用者やパートナーに近接させることで、EDAシステムにおけるユーザ体験を最適化して前工程と後工程の効率化を実現し、パンデミックの中でも半導体企業の革新をさらに促進します。

世界中の65カ所の主要都市にある235を上回るInterconnection Business Exchange(IBX) データセンターとPlatform Equinixを活用して、半導体企業は、ファブレス企業とファンダリ企業との間を安全でプライベートな接続を可能とし、理想的なIIoTプラットフォームを強化、次世代半導体の研究開発を加速します。

先進的な取り組みをひろく読者の皆様に紹介するため、寄稿記事を掲載しました。

◆ Equinix (エクイニクス)について
Equinixは世界的なデジタルインフラストラクチャ企業として、デジタル変革を志す全ての企業に対し、必要なインフラストラクチャを相互接続することが可能な高信頼のプラットフォームを提供しています。Equinixにおいて企業のお客様は、最適な場所で適切なパートナーとつながり、ビジネスの優位性を加速し、成功の可能性を最大化することが可能です。