欧米で若年層に高い支持を受けているのに比して、日本では現状マイナーな存在にとどまっているSnapchat。これまで運営会社であるSnapが日本に拠点を持たず、日本国内に向けたプロモーションが不十分だったのもその一因でしたが、3月29日に同社は日本オフィスを設立し、Snapchatを日本国内で本格的に展開していく姿勢を明らかにしました。この日本オフィス開設に合わせ、Snap日本オフィス代表の長谷川倫也氏に話を聞きました。

  • 長谷川倫也氏

    Snap日本オフィス代表の長谷川倫也氏。ソニー、アマゾンジャパン、フェイスブックジャパンを経て2021年8月より現職。フェイスブックジャパン時代は、Facebook/Instagramの成長を推進するグロース責任者を務めた

Snapchatが“ソーシャルメディアの処方箋”であるという理由

現在、Snapchatといえば、「レンズ」と呼ばれるフィルターで自撮り画像などを加工して共有できる“自撮りアプリ”としての面に注目が集まっています。しかし長谷川氏は、Snapchatは何よりもまず“ソーシャルメディアの処方箋”であると言います。

多くのSNSとSnapchatの違いとして長谷川氏が指摘するのは、想定しているコミュニケーション対象との距離の違い。一般的なSNSではまったくの他人がその投稿を見る可能性も考えなければならないのに対し、Snapchatのコミュニケーションは親しい友人や仲のよい友達との会話のような距離感を想定しています。

Snapchatが最初に始めた「見た投稿は消える」という仕組みはその表れのひとつといえます。長谷川氏は「たとえば、街で友達とたまたま会って話をしたときにそれを録音して残そうとは思いませんよね。Snapchatで見た投稿が消えるのも同じことなんです」と説明していました。

  • Snapchatのシンボルマーク

    Snapchatのシンボルマークは、ゴーストの図案

またSnapchatでは、まず写真や動画などのコンテンツがあって「そのコンテンツをどの相手に見せるか」を考えるというコンテンツファーストのUXを採用しています。「だから裏アカという考え方がないんです」というのが長谷川氏の弁。個々のコンテンツごとに届ける相手を選択できる仕組みだから、別人格としてアカウントを分けることでコミュニケーション対象を切り替えるという必要がない――というわけです。文脈を共有できない相手に投稿が届いてしまって炎上するというリスクも回避できます。

また、投稿後についても、長谷川氏が「基本的に既読スルーでOKです」というように、いいねやコメントをつける必要がないコミュニケーションスタイルになります。これは、受け手側に負担がないというのと同時に、発信側もいいねやコメントによってコントロールされることがないというメリットがあります。いわゆる“SNS疲れ”の原因は「投稿を見たらいいねやコメントをつけなきゃいけない」「いいねやコメントがつくような投稿をしなきゃいけない」というところが大きいものですが、Snapchatはその点から自由になれるのです。

こういったSnapchatのコミュニケーションの特徴が、Snapchatが“ソーシャルメディアの処方箋”であるというゆえん。長谷川氏は、「誰かを演じなくていい、自分のありのままの姿をさらけ出して友達とおしゃべりができるという、今までになかったツールだと思っています」と表現していました。

カメラアプリとしての機能に注目が集まりすぎてしまった!?

こういった特徴を見ると、同調圧力が強くネットを通じたコミュニケーショントラブルも多い日本社会にマッチするアプリのように思えます。にもかかわらず、日本でSnapchatが広く使われるに至っていないことについて、長谷川氏は「カメラアプリとしての面だけに注目が集まってしまっているのかなと思っています」と言います。

  • 長谷川氏

    「Snapchatのカメラアプリとしての面だけに注目が集まってしまった」という長谷川氏

他のSNSと異なるコミュニケーションスタイルはSnapchatの大きな特徴ですが、もうひとつのSnapchatの特徴は前述の「レンズ」で自撮り画像などを加工した動画が作れる強力なARプラットフォームとしての側面。Snapchatを紹介する際に、見た目にもわかりやすくキャッチーな「レンズ」による動画加工という部分にスポットがあたりすぎて、Snapchatのコミュニケーションスタイルの部分が見逃されているという分析です。

Snapとしても、「これまでは日本に根付いた打ち出し方をできていなかった」という認識はあるとのこと。このたびSnap日本支社が設立され、「Snapchatが日本にマッチしたツールであるという丁寧に説明していく」(長谷川氏)ことで、そのギャップの解消に取り組んでいくそうです。

また、「Snapchatのそもそもの価値が日本にマッチするものだと思っているので、日本で広めていくにあたって何かびっくりするような新機能を用意しなければいけないとは思っていないんです」としながらも、「いろんな機能やコンテンツが日本のカルチャーに合わせてローカライズされるべきだと思いますし、Snap Starのようなインフルエンサーのコンテンツも日本語のものをふやしていきたい」と、日本向けのコンテンツも拡充していく姿勢です。こういった施策により、日本国内での展開を図っていくとのことでした。

  • Snap日本オフィス

    東京都渋谷区のSnap日本オフィス。スタッフを含めた体制は拡充を図っている最中とのこと

とはいえ、AR機能もSnapchatの重要な側面であり、日本国内でのユーザー拡大においても大きな役割を果たすことが期待されています。Snap日本支社では日本国内におけるユーザー拡大のメインターゲットは中高生~大学生の若年層と考えているそうですが、具体的なコミュニティ拡大の施策として、大学のサークルなどを対象としたレンズ制作ツール「Lens Studio」の講習会などを開いています。この講習会に参加したサークルの中で一気にSnapchatの利用が広がるケースなどもあるようで、そういった様子を見て長谷川氏もあらためて日本国内でのSnapchat展開に手ごたえを感じていると語っていました。

  • レンズ「Anime Style」

    日本のアニメにインスパイアされたレンズ「Anime Style」。たんなるカメラアプリではないとはいうものの、強力なAR機能がSnapchatの特徴であることは間違いない

全世界で3.19億人のデイリーアクティブユーザーを持ち、特に欧米では13~24歳の浸透率が90%、ユーザーは1日平均30回アプリを開くというSnapchat。利用しているユーザーの95%が「Snapchatは自分をハッピーにしてくれる」と答えているそうです。Snap参加以前の長谷川氏は外側からSnapchatを見て「なんで日本に浸透していないんだろう」と感じており、「これから流行るものを自分で手掛けられるチャンス」と考えてSnap参加を決めたそうです。単なる“面白いカメラアプリ”にとどまらないSnapchatの魅力が日本でどのように広がっていくか、楽しみにしたいと思います。