米シリコンバレー発のAI企業であるパロアルトインサイトは、女子高生のSTEAM教育を支援するため、独自のAI人材カリキュラムを東京女子学園で開講している。
文部科学省が推奨しているSTEAM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)の分野を統合的に学び、将来、科学技術の発展に寄与できる人材を育てることを目的とした教育プランのこと。
政府は近年、AI人材育成を喫緊の課題としてあげている。経済産業省は、2025年までにDX(デジタルトランスフォーメーション)が進まなければ経済損失が最大12兆円になると試算しており、AI人材の育成は急務だ。
2021年11月から2022年3月にかけて全10日間の日程で行われる同カリキュラムは、「AIと私~AIで幸せを作ろう~」というテーマで、AIや機械学習、プログラミングを情報教科の観点から教えるのではなく、「なぜ、私が学ぶことに意味があるのか」というところにフォーカスを当てている。社会問題解決に使われるAI事例やビジネス導入事例などを交えて、座学ではなくプロジェクトベースで生徒にAIの技術とビジネス応用の理解を促す。講師はパロアルトインサイトCEO石角友愛(いしずみ・ともえ)氏、同CTO長谷川貴久(はせがわ・たかひさ)氏が務める。
具体的には、全4章からなるカリキュラムを実施。第1章の「AIと私」では、身近に溢れるAI活用事例を通じてAIへの理解を深めた。学生への事前アンケートでは「自分たちの将来の仕事がAIに奪われてしまうのではないか」といった漠然とした不安があったという。AIを正しく理解し、便利なツールであるという事前知識を養うために、実際に同社が手がけたプロジェクトや、日本やアメリカでのAI活用事例を紹介し、まずはAIを身近に感じるカリキュラムを実行した。
第2章の「コンピューター基礎」では、具体的な技術論を学びAIを自ら作るプロジェクトを行った。女子高生たちが自らさまざまな文房具を集め、写真を撮影し、文房具の画像をAIに学習させ、AIが正しく「筆箱」「メガネケース」「ペン」などを分類できるかどうかを実践で学んだ。
ある学生は、紙に「あ」などの文字を書き、その画像をAIに学習させ、AIに文字識別させるといった面白い試みをしていた。
また別の生徒は、「なんだ、全然判別しないじゃん」とAIを一蹴。学習させる画像のサンプル数が少ないのが原因であることを理解したその生徒は、さまざまな角度から撮影した文房具の画像を追加で読み込ませた。「結局は人が裏で動かしてるんだ」と、素性を理解したその生徒は、AIに対して抱える漠然な不安が薄まっていた。
そして第3章の「機械学習と応用」では、機械学習を理解するために、機械学習の歴史や背景、機械学習の手法を体系的に学んだ。さらにプロ棋士を下したAIのドキュメンタリー映画「AlphaGo」を鑑賞し理解を深めた。最後にチャットボットを実際に作成することで実践へと繋げた。
最後の第4章である「ファイナルプロジェクト」では、生徒に身近に溢れる社会問題や課題を選び、その課題を解決するためのAIデザインを発表する。ゼロから構想を練り、具体的な形に落とし込み、その重要性を伝えるコミニケーション能力を養うカリキュラムだ。なおこの発表は、4月に行われる予定だ。
「日本のジェンダーギャップの課題を解決したい」―― そう熱く語るのはパロアルトインサイトCEOの石角氏。同氏はこの取り組みを通じて何を実現したいのか。日本が抱えるAI人材不足問題とともに話を聞いた。