コロナ禍の巣ごもり需要からか、最近大人気なのがヘッドフォンアンプだ。各社特色を持たせた製品をリリースしている群雄割拠のジャンルになる。 “時間がない”を理由に慢性的な練習不足にストレスを抱えている諸兄も大勢いると思うが、どんな隙間時間でも練習できるヘッドフォンアンプがあれば、みなさんの往年のテクニックが蘇るはず! ということで、今回はたくさんの製品がある中でも人気のフェンダーのヘッドフォンアンプ「MUSTANG MICRO」を紹介してみたいと思う。

  • フェンダー「MUSTANG MICRO」。記事執筆時は、15,000円前後で販売されている

“いつでも弾きたい”を実現しよう!

時間が有り余っていた学生時代と比べ、社会人ともなると自分の時間はなかなか作れないもの。大好きなギターがかたわらにあっても、夜半に帰宅する毎日では手に取って弾いてみるという気分になれないのは仕方ないところ。もちろん、そんな日々を過ごしていては、かつては弾けていたあんなフレーズ、こんなフレーズは過去のものとなり、今ではすっかり初心者並みという方々も多いのではなかろうか。

かくいう私もその1人。取材に執筆に締め切りと、ひしめき合うスケジュールの中でギターの腕前(というほどのものでもないですが)を維持することはできず、ウン十年前は弾けたフレーズをちょいとやってみると、指がつってしまうこともしばしばだ(末期症状)。

夜も遅くなれば音出し環境で練習することはできないし、朝練だってはばかられる。コロナ禍で在宅ワークが多い方でも、家にいる家族のためにギターを弾きたい気持ちをぐっと抑えている人は少なくないはずだ。

私のようなおじさんギタリストだけではなく、若い世代でも周囲への迷惑にならないようにしながら、もっとたくさん練習したいという人は多いと思う。そんなギタリスト諸兄にとって必要なのはズバリ、ヘッドフォンアンプだろう。これさえあれば、すべてのうれいは消え去り、いつでも自分が好きなサウンドで練習できる。腕が上がればギターを弾くのがますます楽しくなるし、何よりもガマンしなくてよいのが一番の薬だ。

ということで良いこと尽くしのヘッドフォンアンプ。各メーカーが製品をリリースしているが、今回はフェンダーの「MUSTANG MICRO」を用意してみた。面白い特長がたくさんあるのでじっくり見ていきたいと思う。

本体はコンパクトで、直感的な操作が可能

MUSTANG MICROを入手して最初に感じるのは本体のコンパクトさ。ジャックが折りたためるので、本体は手のひらにすっぽり収まり、ポケットや小物入れに気軽に入れられる大きさになる。

  • まさに手のひらサイズの本体

本体側面にはアンプタイプやエフェクトをコントロールするボタンや、電源スイッチが並び、上部にはひときわ大きなボリュームダイヤルがある。外部端子はヘッドフォン用のミニジャック端子とオーディオデバイスといて出力できるUSB Type C端子がある。

  • 本体側面のコントロールボタン類。左から、アンプタイプを変える「AMP」、音色の明るさを変える「EQ」、エフェクトの種類を選ぶ「EFFECTS」、エフェクトのかかり具合をコントロールする「MODIFY」となっている

  • 本体側面にあるメインスイッチ。Bluetooth対応なので、手持ちのスマートフォンの音源を流しながら曲に合わせて練習することも可能

  • 本体下部には外部端子が並ぶ。左からヘッドフォン用のミニ端子、PC連携と充電用のUSB Type C端子となる

スマートフォンのアプリで操作するヘッドフォンアンプもあるが、これはサウンド管理をすべてこの本体で完結できるので、直感的に扱えるのが魅力だ。

また、先ほども触れた通り、オーディオデバイスとしてPCへの音声入力ができるのでDTM/DAWソフトウェアや録音ソフトがあればそのままプレイをデジタル録音することが可能だ。気を付けて欲しいのは、入力デバイスとしては使えるが、PCを媒介した出力機能としては使えないので注意すること。説明書にもその用途には使えないことは明記してあるが、実際にやってみるとPCのスピーカーから出てくる音とピッキングのタイミングがかなりずれており、PCで録音はできても、モニターとしてはまったく使えないことが分かる。オーディオデバイスとして使用する場合も、本体に接続したヘッドフォンで音をモニターする必要がある。

ちなみに本体はUSB Type C端子を利用した充電式となる。メーカー公表値だと、約4時間~6時間となっており、今回のレビュー用に使った感覚でも同じだった。ただし、これは連続使用の数値なので、ちょい弾きを繰り返すような使い方の場合は、かなり違った印象になると思う。

  • ジャック部の可動範囲は広いので、ほとんどの形状のギターに装着可能

  • (右)ストラトキャスター(左)レスポールに装着すると、それぞれこんな感じになる

興味津々の搭載サウンドの種類は?

それではお待ちかね。サウンドバリエーションを紹介しよう。まずは下の図で主要なアンプタイプやエフェクトを確認していただきたい。

  • (付属マニュアルより)アンプタイプ一覧。まず目を引くのは、クリーンのラインアップ。音楽の歴史を彩ってきたフェンダーの名アンプがズラリ。ほかにも、「'65 Deluxe + Greenbox OD」('65DxとTube Screamer)とか、EVH 5150 IIIをベースにした「Metal 2000」など、クランチ、ハイゲインのメンツも手抜きなし。本体に設定表示画面などはないので、この表の「LEDカラー」を頼りに、今どのアンプになっているかを判断する

  • (付属マニュアルより)エフェクト一覧。逆にこちらは、バリエーションはあるもののリバーブ系にしぼって搭載。これは操作を本体横のボタンだけに集約するという割り切りのためもあろうが、「アンプ直で音がしっかりしてたら、あとはこれだけで充分なんじゃい」というこだわりも感じる。まぁフェンダーアンプといえばリバーブなので、これはこれで納得

アンプタイプがクリーンで4つ、クランチで3つ、ハイゲインで4つ用意されているほか、ダイレクトタイプもあるので12種類ある。それぞれのアンプタイプのゲインレベルなどは変更できず、基本的に5段階のイコライザーとマスターボリュームでコントロールするほか、ギター側のボリュームやトーンで好みの音色を探るのがこの製品の使い方だ。

私の感覚ではどのアンプタイプも割と素直で、ゲインもギターのボリュームで減衰するのでコントロールしやすく、特に不自由は感じなかった。というか、それぞれの音質はとてもよくできているので、どれを選択しても十分楽しめた。エフェクトも同様で、基本的にMODIFYボタンで聞き具合をコントロールできるのみ。ある意味潔い仕様なので直感的に使えばオッケーだ。

と、ここまでは良い部分に注目してきたが、正直にいうと本体横のボタン類はギター装着時にアクセスしづらく、操作性が良いとはとてもいえない。もちろん、曲中でアンプタイプやエフェクトを切り替えて、なんてことはまずできないと思った方がよい。個人的にはヘッドフォンアンプは練習用と割り切れば、これだけの音質でギタープレイが楽しめるだけで十分合格点だと言い切ることはできる。しかし、人によっては不便と感じることもあるかと思うのでギターにセットした状態の操作性には注意していただきたい。

シングルコイルのストラトで実演してみた

この動画で実際のサウンドを紹介しているので是非参考にしていただきたい。なお、使用ギターはノイズレスピックアップを搭載したFender Stratocaster。ギターサウンド部分は、PCに入力し録音したものを同録した動画にそのまま同期してペーストしたので、PCに出力している音色そのままだと思ってもらっていいだろう

実際のサウンドは上記動画を参考いただくとして、本体のボタンで好みのアンプタイプとエフェクトを決めてプレイするだけながら、プレイは実にご機嫌である。サウンドに関してだが、クリーンはどれもすばらしく、個性もあってプレイが楽しくなること間違いなし! 当たり前かもしれないが、フェンダーのギターと相性が抜群でハーフトーンの音色はほれぼれするほど。競合商品と比較すると、ヘッドフォンアンプとしてはやや値ははるが、この音を聴くと納得してしまう。

クランチはやや苦手な印象があるが、練習用と思えば特に不満はないレベル。まぁ、実際のアンプでもクランチに関しては個人的な好みも大きければサウンドもアンプによって千差万別なので、許容範囲内といえる。

ハイゲイン系に関してはちょっとゲインが強すぎる印象があるので、ボリュームを絞りながら好みのポジションを見つける必要があると思う。使うギターの個性に合わせて各自研究してみると面白いと思う。

基本的にギターに差して、はいどうぞでプレイしたいアイテムなので、あまり細かいことは気にせず、まずはガンガン弾いていくのが王道の使い方だろう。用意されているサウンドは豊富なので、まずはお気に入りのアンプタイプを見つけて、思い切りプレイしていただきたい。「MUSTANG MICRO」があれば、今後は練習不足のストレスとは無縁だ。ヘッドフォンアンプを探している人には最適なアイテムとしておすすめしたい製品だ。