カシオのアウトドアウオッチ「PRO TREK」の最新モデルとなる「PRW-61」(3月25日発売)が発表された。モデル名からもわかる通り、ベースデザインは「PRW-60」だ。カシオの時計として初めて、植物由来のエコ素材「バイオマスプラスチック」を樹脂パーツに採用したことが大きなトピックだ。

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    PRO TREK「PRW-61」シリーズ

が、カシオのことだ。「新しい素材を使いました。ハイ終わり」で済むはずがない。PRW-61の狙いや見どころについて、カシオ計算機でPRO TREKやG-SHOCKの商品企画を担当する技術本部 開発推進統轄部の小島一泰氏にお話を伺った。

PRO TREKはなぜバイオマスプラスチックを選んだのか

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    「PRW-61-1AJF」(57,200円)

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    アクセントカラーはイエロー

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    PRW-61Y-1BJF(59,400円)

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    アクセントカラーはレッド

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    PRW-61Y-3JF(59,400円)

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    グリーンダイヤル+カーキのバンドが特徴のカラーモデル

―― 今回のPRW-61は、樹脂パーツの素材にカシオの時計として初めてバイオマスプラスチックを使用されましたが、このプロジェクトにPRO TREK(プロトレック)を選んだのはなぜですか?

小島氏:PRO TREKは「自然を感じ、自然を楽しみ、自然を愛する」というブランドコンセプトで25年以上続けてきました。たとえば、わずかな光でも駆動できる環境配慮型のソーラー機能を搭載したり、日本自然保護協会さんとのコラボレーションを続けたりしているのも、その視点からです。

実は、「PRO TREKは自然に優しい時計であるべき」という思想はブランド創設時からあって、その中にはエコ素材を使う発想も当然ありました。でも技術的には難しく、カシオとしても中途半端なものは出せないということで、長年見送られてきたんです。それが、今回ようやく実現できました。

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    バイオマスプラスチックを使用したパーツ(ケース、裏ぶた、バンド)。時計全体に占める割合はけっこう大きい

―― バイオマスプラスチックは植物由来とのことですが、これを使うとどのように地球に優しいのでしょう?

小島氏:ひとことで言えば「二酸化炭素排出量の削減につながる」ことです。バイオ素材、いわゆるバイオプラスチックには2種類あって、ひとつは素材自体が自然回帰する「生分解性プラスチック」。土に埋めておけば、それが何十年かで分解されるものですね。もうひとつは、製品が寿命を迎えて焼却処分されるとき、石油由来のプラスチックに比べて二酸化炭素の排出量が格段に少ないバイオマスプラスチックです。PRW-61に用いた素材はこれですね。

二酸化炭素排出量が少ないことに加え、植物はもともと地上(大気中)に存在しているので、焼却時の二酸化炭素排出量が自然本来の二酸化炭素吸収量に近くなります。この差し引きをゼロにできれば、計算上、二酸化炭素排出量はゼロになる。つまり、生産活動と自然保護を両立できるというわけです。

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    カシオ計算機 技術本部 開発推進統轄部 時計プロデュース部 第一企画室 チーフ・プランナー 小島一泰氏

―― 二酸化炭素の排出量を換算でゼロにするという「カーボンニュートラル」の考え方ですね。

小島氏:そうです。環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同で、持続可能なバイオプラスチックの導入を目指した「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定しています。こちらにマイルストーンとして、導入可能性を高めつつ、国民各界各層の理解と連携協働の促進により、2030年までに、バイオマスプラスチックを最大限(約200万トン)導入するよう目指すことが記載されており、バイオマスに注力することが国の政策にも組み込まれています。

また、バイオプラスチックの普及啓発活動を行うバイオプラスチック協会には、カシオはもちろん、多くの企業(※1)が加盟しています。こうした流れに、カシオとしても積極的に参加していこうと。

※1:正会員、賛助会員、JBPAマーク会員、計378社(2022年2月1日現在)。

金型にうまく樹脂が流れない!

―― 一口にバイオマスプラスチックといってもさまざまな原料があると思いますが、その研究もカシオが? それとも既成の製品を使用しているのですか?

小島氏:基本的な部分は樹脂メーカーさんに相談をして、提案していただいています。これにカシオの樹脂成型ノウハウ、たとえばケースやバンドに必要な靭性や弾性を考慮して、カシオから配合率などの提案を加える形で開発しています。ケースと裏ぶたにはヒマシ油、バンドにはトウモロコシを原料に採用するなど、各パーツに求められる剛性や弾性に最適なチューニングをしています。

カシオも長年にわたって樹脂製品を手がけてきましたし、素材も開発してきました。それらの技術と経験を注ぎ込んでいますので、PRW-61で採用したバイオプラスチックは新開発と言ってもいいと思います。

  • カシオ、PRO TREK PRW-61
  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    各部の適性を考えて、パーツごとに原料や配合率を調整している

―― 新開発なんですか! でも、それって時計の基本設計に関わってくるというか、早い話が「再設計」になるようにも思えますが……。

小島氏:まったくその通りです。バイオマスプラスチックは従来の樹脂とは物性がかなり違うので苦労しました。樹脂の流れやすさひとつとっても、まったく違うんですよ。非常に流動性が低くて、従来モデル設計の金型に流し込んでも、まったく流れて行かないんです。

しかも流れにくいということは、金型内部の圧力が上がります。すると金型の合わせ目から樹脂がにじみ出てバリになったり、ウェルドができたり……(※2)。そこで、ランナーや湯口(※3)の数、配置を工夫して、専用金型を起こしました。

※2:ここでいうバリとは、金型の隙間から流出して硬化した樹脂部分。焼き餃子の羽根みたいなアレ。ウェルド(ライン)は、樹脂と樹脂が合流したり流動性が低い樹脂にシワが寄ったりすることで発生する成型不良。見栄えだけでなく、強度の低下にもつながる。

※3:ランナーは金型に設けられた樹脂の通路。プラモデルのパーツをつないでいるアレ。湯口は金型側面に開けられた樹脂注入口

―― やっぱり再設計じゃないですか(笑)。ともあれ、その苦労の結果、問題は解決できたんですね。

小島氏:バイオマスプラスチックの物性に対する研究が進んだこともあって、最大の難関は乗り越えたと思います。ただ、金型に樹脂を流し込めばそれで成型できるかというと、そう単純なものではありません。その日の温度や湿度なども考えて、あれこれ設定を変えながら安定した製品を作ってるというのが樹脂成型の世界なので、まったく新しい樹脂を使うのは思った以上にハードルが高いんです。

―― ところで、ベースモデルのPRW-60は裏ぶたが金属製で、ラグの裏側まで一体の設計でした。一方、PRW-61の裏ぶたはバイオマスプラスチック製で、ラグも別パーツになっていますね。ユーザーとしては、今まで金属だったパーツがプラになったことで、防水性能の低下とか、どうしても気になっちゃうところもあると思うのですが……。

  • カシオ、PRO TREK PRW-61、PRW-60

    ベースモデル「PRW-60」(左)とPRW-61(右)のケースバック。PRW-60の裏ぶたは金属の鍛造だった

小島氏:裏ぶたに反りが出てしまうと製品として致命的なので、非常に気を遣いました。この内側にはOリングというゴムのパッキンが入っていて、それを裏ぶたで押さえているのですが、このパッキンに歪みが生じるとそこから水が入ったりケース内の湿度が上がったりして、故障や誤動作のもとになります。

そこで、この精度と強度を出しながらバイオマス化するにはどうしたらいいか、何度も調整を繰り返しました。結果としてはまったく問題なく、今までのPRO TREKと変わらない品質と耐久性を実現していますので、安心してご利用いただければと思います。

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    裏ぶたをひっくり返してみたら……金属の蒸着膜によって帯電を防止している

エコ素材でもカラーの選択肢を増やす――という課題

―― 裏ぶたが樹脂製ということは、金属アレルギーのユーザーさんでも安心ですね。また、ほかの部分も一見するとPRW-60を踏襲していながら、実は色々と変わっていますよね。

小島氏:はい。まずアウトドアウオッチとして重要な時刻視認性、特に夜間や暗所での視認性を向上させるため、蓄光素材を入れてインデックスパーツを成型しました。時分針にも蓄光素材をたっぷり盛っています。さらに、LEDライトの輝度も向上しました。暗所視認性の強化はかなり力を入れた部分ですので、この点を重視する方々には特に注目していただける商品になっています。

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    インデックスや針も改善され、視認性が大きく向上

  • カシオ、PRO TREK PRW-61、PRW-60

    PRW-61(左)とPRW-60(右)のりゅうずとボタン。PRW-61は、隅々まで見直されてアップデートしていることがわかる(撮影の都合上、PRW-60は天地を入れ替えています)

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    ダイヤルをブラックライトで照らしてみた。蓄光部分の広さがよくわかる

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    スーパーイルミネーターを点灯させた状態。暗所でも、これだけ明るければ安心だ

―― マットなダイヤルも良いですね。特にグリーンのダイヤルの「PRW-61Y-3JF」! この下にソーラーセルがあるとはとは思えない質感です。

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    ソーラーセルの存在を感じさせないダイヤルの質感!

小島氏:ダイヤルの質感は、アウトドアのトレンドを意識しました。PRW-61Y-3JFについては、ソーラーモデルのダイヤルはどうしても黒になりがちですが、アースカラー、特に定番のグリーンはニーズも高いと思いまして。このモデルでは、ダイヤルとバンドのカラー(色調)のセットアップにもこだわりました。

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    PRW-61Y-3JFでは「ダイヤルとバンドのカラーの連続性」を意識したという

―― そうそう、このバンドについてもお聞きしたかったんです。エコ素材のプラスチックって、以前は再利用プラが多かったせいもあって、どれも黒っぽいイメージがあったんですよ。だから、このカーキのバンドにはちょっと驚きました。

小島氏:実は、それも今回の重要課題のひとつでした。バンドの材料メーカーさんにもカラー化できないか相談して、色々とご協力いただいて。現在は、樹脂業界全体で環境意識が大きく変わってきているんですよね。お話したように政府の方針もありますし、バイオマスの可能性を視野に入れていくことは必須という雰囲気になっています。そして生まれたのが、このグリーンダイヤルに合わせたカーキのバンドなんです。

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    アースカラーのバンドは、アウトドアとの相性が抜群。と同時に、日常のファッションにも合わせやすい

―― こうなると、もうエコとかバイオとか特に意識しませんね。まったく普通の樹脂バンドにしか見えません。

小島氏:「バイオマスプラスチックなので色はガマンしてください」みたいな制限をユーザーさんに課してしまっては、意味がありません。「カッコいい、使いやすいという理由で選んだら、実はその素材がバイオマスプラスチック製で環境に優しい製品だった」というのが一番いいんです。

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    「お客さまがカラーを選べるように」との思いから、グリーンのモデルをラインナップ

ブランドに合わせたアプローチで、環境問題に取り組むカシオ

―― その考え方は、バンドの着け心地にも反映されていますね。柔らかくても適度に張りがあって、とても着けやすい。釣りをする人はわかってくれると思うんですけど、へら竿の胴調子のようなしなやかさ(笑)。私はPRO TREKのソフトウレタンバンドが好きで、着けた感じはとても近いですね。ただ、わずかに張りがあるぶん、PRW-61のほうが装着(の作業)はしやすいかもしれません。表面の肌触りは、ソフトウレタンバンドのほうがわずかにマットですね。私はこれが好みですが、これは単純に好みの問題かも。

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    バンドはPRO TREK定番のスライドバーによる着脱式

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    スライドバーの操作性も向上。玉やバンドのスライド窓が微妙に大きくなっている。これも蓄積された開発ノウハウのフィードバック

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    きわめてしなやかで、デュラソフトバンドに負けない快適な装着感!

小島氏:前述のように、バイオマスプラスチックはどうしても硬めになりがちです。そこで、バンド裏をできるだけ抉(えぐ)って柔らかさを追求しました。一方、両脇に厚みを持たせることで、しなやかさと強度を担保しています。

こうすることで汗逃げにもなり、夏の使用でもサラリとした感触で着けていただけます。また、PRW-61のバンドには付け根にリブが入っていて、これも腕へのフィット感の向上に寄与しています。

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    バンド裏を抉(えぐ)ることで、汗を逃がす機能とバンドの柔軟性向上を両立。さらに、両脇の厚みが弾性と強度を保つ

  • カシオ、PRO TREK PRW-61、PRW-60

    PRW-60(上)とPRW-61(下)のバンド比較。バンド穴を増やして各穴の間隔を狭め、柔軟性と調整のしやすさも向上

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    バンド付け根のターゲットガイド(溝)に加え、バンド表面に縦線が刻まれた。これにより、コンパスとして地図上に置いたとき、より直観的に時計の向きを判別できる

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    バンド付け根のリブ。このおかげで、時計が腕へ巻き付くようにフィットする

  • カシオ、PRO TREK PRW-61

    遊環の表(左)と裏(右)。なんと表はシングル、裏はダブルに成形されているのだ。シンプルな見栄えとバンド先の差し込みやすさ向上という機能性を両立している。……細かい、細かいよカシオさん!

―― あと、これはあまり語られないと思うのですが、トリプルセンサーVer.3も登場から9年近く経ちます。この間、実は小数点以下のバージョンアップが行われているんですよね?

小島氏:はい。ただ、それがお客さまにわかりやすく伝える言葉、たとえば高度計の計測が1メートル単位になった――といった具体的なものではないので、特にアピールはしていません。

内容としては、センサーの感度や高密度集積技術の向上などです。ソーラーセル自体の性能や電波時計のアンテナ性能も、モデルごとにアップデートしています。このモデルに限らず、そういった見えない部分の改善は絶えず行っていますね。

―― 金型やパーツの再設計、暗所での使い勝手もバンドの装着性も向上して、さらにカタログに書かれていない性能も向上しているとくれば、モデル名に「1」を足しただけというのがもったいなく感じます。最後になりますが、今後はカシオ製品の中でバイオマスプラスチックが占める割合は増えていくのでしょうか。

小島氏:増えていくのは間違いないと思います。やはり環境問題を考えたとき、カーボンニュートラルを目指すのはもう世界的な大きな流れなので、バイオマス素材は積極的に採用していきたいと考えています。現在はそのためのロードマップも策定しているところです。

今回のような植物由来のバイオマスプラスチックに加え、再生材、これは「PRW-51」の日本自然保護協会さんとのコラボモデル(のバンド)でやってみたのですが、こういった方向も加速していくと思います。

さらには製品のロングライフ化ですね。G-SHOCKに代表される高い耐久技術によって、製品を長くお使いいただくことをエコにつなげていくなど、各ブランドに適した方向性で環境問題に取り組んでいこうという流れになっています。

  • カシオ、PRO TREK PRW-51

    PRO TREK「PRW-51」日本自然保護協会コラボレーションモデル

  • カシオ、PRO TREK PRW-51

    日本自然保護協会コラボレーションモデルに付属するクロスバンド。原料にペットボトルの再生材を使用している

やはり、PRW-61は単に樹脂をバイオマスプラスチックに置き換えただけの製品ではなかった。PRO TREKブランドの原点を見つめ直し、PRW-60を大きくリニューアルして金型から作り直し、基本性能を鍛え上げ、カラーも魅力的な完全な最新モデルだった。そして、その魅力を十分お伝えできたと思う。なお、次回はPRW-61の兄弟機ともいえるPRW-51の日本自然保護協会コラボモデル「PRW-51NJ-1JR」について、引き続きお話を伺う。こちらも乞うご期待!