2021年12月1日より、ドイツ・ベルリンにて『VALORANT』の世界大会「2021 VALORANT Champions Tour Champions」(以下、VCT Champions)が開催されます。2021年シーズンを締めくくる本大会に出場するのは、7つの地域から出場権を勝ち取った16チーム。日本からは「Crazy Raccoon」(以下、CR)が出場します。
CRは2021年5月にアイスランド・レイキャビクで行われた「VCT Masters Stage2」、9月にドイツ・ベルリンで行われた「VCT Masters Stage3」に出場しており、再び日本代表として世界の強豪チームとの戦いに挑みます。
今回は、ベルリンに到着したade選手とTwinklコーチに、オンラインでのインタビューを実施。これまでの国際大会での経験を踏まえ、「VCT Champions」に向けてどのような準備を行ってきたのかといった話を聞きました。
最重要課題だったコミュニケーション面を強化
――ベルリンでの前回大会を経て、「VCT Champions」に向けてどのような部分に注力して練習をしてきましたか?
ade:前回大会では、コミュニケーション面が最重要課題だったので、そこを意識して練習してきました。CRは日韓のプレイヤーがいるチームなので、日本語と韓国語でコミュニケーションエラーが起こってしまう場面があります。そこで、例えば「こういうときはこれ」という共通の合言葉を作って、スムーズなコミュニケーションを行えるように意識しています。
Twinkl:チームとしては、やはりコミュニケーションエラーが課題なので、そこを意識して練習しました。コミュニケーションを行っての連携などもですね。あとは、エージェントはどんな構成がいいかなどを、皆と話しながら準備してきました。
――チーム内で合言葉を作っているとのことですが、例えばどんな合言葉を設定しているか、明かせるものがあれば教えていただけますか?
Twinkl:基本的には、マップ内の名称などです。それから、スキルは合わせて使ったほうが強いじゃないですか。なので……これは言っても大丈夫ですかね。
ade:うーん、大会前なのでちょっと難しいかもしれないですね。くわしくは企業秘密ということで、ごめんなさい(笑)。
――わかりました(笑)。ほかにもコミュニケーションエラーへの対策として、取り組まれていることがあれば教えてください。
ade:個人的には、韓国語や英語の勉強をがんばっています。とっさの報告では母国語が出てしまうので、そういうところでもできるだけエラーがないように努力していますね。
Twinkl:自分としては、コミュニケーションエラーは必ずあるものだと思っているんです。例えばどこか1カ所を直したら、さらにもっとすばららしい連携を取ろうと次の準備をするので、解決しては問題が出るということを繰り返します。
でも、時間をかけて、日本の選手も韓国の選手も、お互いの言語を勉強することで、良くなっていくでしょう。それから、コロナの状況が良くなって、オフラインの環境が整えば、もっと良くなると確信しています。
――大会では、タクティカルタイムアウト時に、選手と離れた場所から指示をされていて、コミュニケーションが難しい部分もあったかと思います。コロナ禍が続いていることで、コーチとして感じていることはありますか?
Twinkl:選手のそばで直接話しながらタイムアウトの時間を使えたら、もっとうまく伝えられると思います。でも、現状は難しいので、できるだけ短く、しっかりと伝わるように話をすることを意識していますね。また、自分が話したあと、最終的にどうするのかというコミュニケーションは選手に任せています。
――Minty選手が今回の「VCT Champions」には出場しないと発表がありましたが、これに関してもコミュニケーション面での課題があったということなのでしょうか。
Twinkl:もちろん日韓でのコミュニケーションの難しさもあったと思います。やはり味方と合わせて連携することが、大事なゲームなので。Minty選手がもっとやりやすい環境を準備できなかった自分の反省もありますが、現状は準備してきたメンバーのほうがパフォーマンスを出せるという判断で、現在のメンバーになりました。
海外チームとの差を感じるのは、臨機応変な対応力
――「VCT Champions」には世界の強豪チームが集まりますが、その中でCRにはどのような強みや特徴があると思いますか?
ade:CRは日韓混合チームなので、韓国チームと日本チームの考え方を融合できて、いろいろな戦い方や戦略を組めるところが強みかなと思っています。
Twinkl:新マップや新エージェント、バランス調整のパッチがきたときに、それを理解して分析できるところですね。選手たち自身がいろいろ研究して提案してくれたり、コーチ陣が伝えたこともすぐに理解してくれたり、選手たちがそれをちゃんと意識してやってくれるところが、CRの強みだと思います。
――これまでの国際大会で海外チームと戦って、手応えを感じたところと差を感じたところ、それぞれを教えてください。
ade:エイムの部分や、事前に準備してきた動き、作戦は通用していたと思います。逆に、まだまだだなと感じたところは、その場その場での対応力。相手がやってきたことに対して自分たちがどうするのかを、すぐに判断する力が海外のチームはとても高かったので、そこに差を感じましたね。
Twinkl:エイムや撃ち合い、戦略の差もあったと思います。でも、やはり一番差を感じたところは、臨機応変にその場での判断ができるかどうか。でも、経験してみて乗り越えられると感じたので、CRもそうなれるように意識している段階です。
――ベルリンでの前回大会を経て、海外からのCRのイメージや評価について変化を感じたことはありましたか?
ade:個人的には、メディアなどで海外の反応を見ないようにしているので、正直あまり変わったようには感じていません。プレイに支障が出ると良くないので、自分たちの力をいつも通り発揮できるようにするために、あまり反応は見ないようにしています。
Twinkl:選手たちには、あまり評判は伝えないようにしています。ただ、送られてきた情報やレビューを見ると、前回大会の最後の「Gambit Esports」との試合後に評判が良くなって、今回の「VCT Champions」ではグループステージを突破できるのではないかと期待されていました。なので、良い姿を見せられるようにがんばりたいです。
最も警戒するのは、因縁のチーム「Gambit Esports」
――「VCT Champions」において、最も警戒しているチームや選手を教えてください。また、戦ってみたいと思うチームはありますか?
ade:最も警戒しているチームは「Gambit Esports」で、その中でも一番警戒しているのはnAts選手ですね。nAts選手は、世界でナンバー1と言っても過言ではないセンチネルのプレイヤー。自由にさせてしまうと、試合の状況を一変させるような選手なので、そこはしっかり対応していきたいと思っています。
個人的に一番戦ってみたいチームは、「Fnatic」です。世界的に見ても、かなり戦略的なチームだと思うので、「Fnatic」と戦っていろんなものを得られたらうれしいです。
Twinkl:同じく自分も、最も警戒しているのは「Gambit Esports」と、nAts選手ですね。「Gambit Esports」は時間管理がうまくて、揺さぶってくるところに怖さを感じます。加えて、ラーク(チームの本隊と離れて1人で別行動をすること)がすごくうまい。チームとして穴ができたところを利用してくるのが巧みなので、そこもnAts選手の強みだと思います。
戦ってみたいと思うチームは、「Cloud9」ですね。自分としては縁もあるし、アメリカで高く評価されたチームでもあるので、「Cloud9」と戦って勝ちたいです。
――前回大会では、nAts選手のラークに苦しめられた場面もありました。どのような対策をしてきたか、言える範囲で教えていただけますか?
ade:ラークへの対応としては、自分たちのチームのシステムを見直して、できるだけ穴が生まれないようにしています。自分たちがわからない状況を、できるだけ減らせるよう準備してきました。
Twinkl:ラークが刺さっているのは、チームのローテーションから発生する空白の時間に対してだと思うんですね。特にラークされやすいマップがあるので、そこでどのような策を取るのか、チーム全体で見直して準備しています。
世界大会というアウェイな環境で、力を発揮するために
――ベルリンでは、普段と違う練習環境や生活環境になると思います。アウェイな場所でプレイするにあたって、対策されていることがあれば教えてください。
ade:やはり環境が変化することへの不安は感じていて、それに対する自分の準備としては、ドイツに来る1週間くらい前からドイツの時間に合わせた生活リズムにしていました。あとは、どの環境でも適応できるように、モニターや椅子をいつも同じ高さにセッティングするようにしていますね。
Twinkl:世界大会なので、アジアからだけでなく、EUやNAなど各地域からチームが来ています。ベルリンではどういうところを意識して練習するのかなどを話しました。
また、世界大会なのですべての対応を話すのは難しいですが、できるだけ各チームの弱みを把握しようと努力しています。例えば、「あるチームはクリアリングが弱いから、角のポジションを使いましょう」などですね。
――CRは2021年、複数の国際大会を経験されています。今回はまだ到着されたばかりだと思いますが、チームの雰囲気や緊張感はいかがでしょうか。
ade:ほどよい緊張感だと思います。前回大会の「VCT Masters Stage3」は、僕やFisker選手にとっては初めての国際大会だったので、かなり緊張していました。でも、今回は2度目の国際大会なので、緊張もしていますが、ほどよいリラックス感があって、試合に対して集中できるような準備はできていると思います。
Twinkl:まだ改善が必要なところはありますが、全員がんばって準備してきたので、チームとして良い状況だと思っています。あとは残りの約1週間、しっかり準備して、良い姿を見せたいですね。
――試合で緊張したときのほぐし方として、何か取り入れていることはありますか?
ade:僕はガムが好きなので、ひたすらガムを噛んでいます。それ以外は特にないですね。
Twinkl:自分は忙しくてバタバタしているので、緊張というよりは、どう伝えるかなどの悩みが多いです。選手たちの緊張をほぐすことは意識していて、例えばガムやチョコを用意してあげたりしています。
――ちなみに、先ほどデバイスのセッティングについて話がありましたが、高さをそろえるためにはメジャーなどを使うのでしょうか。
Ade:僕はガムのケースでやっています(笑)。高さを合わせるときも、ガムのケースの高さにしたりとか。キーボードとマウスパッドの距離も、ガムのケースの距離にしていたりします。
1年を通じて成長を遂げてきた、CRのプレイに注目
――新マップ「フラクチャー」や新エージェント「チェンバー」の追加もありましたが、プレイされた感想はいかがでしょうか。
ade:フラクチャーは、かなり守り側が有利なマップだと思っています。なので、守り側でラウンドを取られないことも大事ですが、攻め側でいかに有利を作り、ラウンドを多く取得できるかが重要かなと思っていますね。ほかのマップとは違って、ミッドと呼ばれる中央のポジションがないので、難しいと感じます。
チェンバーについては、センチネルなのにセンチネルではないような、独特で難しいエージェントだと思います。個人的には、とても好きなエージェントです。
Twinkl:ほかのマップは似た考え方でもやりやすい感覚がありますが、今回のフラクチャーは概念が変わるような難しいマップだと思います。守り側はどうやって有利を保っていくか、攻め側は守りのどこに弱点を見出すのかなどが、大事になってくると考えています。
チェンバーに関しては、今回の大会では使用できないので惜しいですが、ピストルの概念が変わるようなエージェントだと思うので楽しみにしています。
――それでは最後に、「VCT Champions」を観戦するファンに向けて、CRのどんなプレイに注目してほしいかなど、メッセージをお願いします。
ade:僕自身はあまり派手なプレイはないと思いますが、チームを支えるような粘り強いプレイを見てもらえたらうれしいです。そういう力でチームを支えて、Munchkin選手やFisker選手、neth選手、Medusa選手、Bazzi選手といった、スタープレイヤーたちが輝く姿を応援していただければと思います。応援よろしくお願いします。
Twinkl:もちろん選手個人の強さにも期待してほしいですが、今回の「VCT Champions」は1年間かけて迎えた大会なので、CRというチームが1年間どう変化してきて、どこがアップグレードしたのかを、ぜひ見てほしいですね。ベルリンでの前回大会と比べて、ここが良くなったなとか、そういうところも見てもらえたらうれしいです。
――「VCT Champions」での活躍を応援しています。Ade選手、Twinklコーチ、本日はありがとうございました!