パナソニックシステムソリューションズジャパン(PSSJ)、パナソニックコネクティッドソリューションズ(パナソニック)、富士急行、ナビタイムジャパンの4社は、山梨県の富士五湖周辺エリア全体の回遊性を向上する観光型MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の実証実験を11月1日~12月31日まで実施する。今回、実証実験が行われる現地を取材してきた。

同実証実験では顔認証技術と電子チケットを組み合わせ、各観光施設と交通手段(周遊バス・鉄道)をシームレスにつなぎ、紙のチケットやスマートフォンの提示が必要ない“手ぶら観光"を実現する。また、専用アプリからはエリア内の経路を検索したり、観光施設情報や混雑状況などを確認できたりする。観光型MaaSにより、コロナ禍で落ち込んでいる観光需要の回復を目指す。

  • 富士五湖周辺エリアで観光型MaaS「手ぶら観光サービス」実証実験が開始される

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富士五湖周辺エリアには、富士山周辺の自然をはじめ、富士急行が運営する遊園地「富士急ハイランド」や、洞窟(富岳風穴、鳴沢氷穴)、温泉など数多くの観光スポットがある。しかしそれらのスポットは広範囲にそれぞれ点在しており、特定の場所だけを訪れて帰る観光客が多く、山梨県の調査によると2018年の平均訪問施設数は1.3ヵ所だったという。

また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響で観光客数も減少しており、2020年の年間観光客数は1,688万人と、コロナ禍以前と比較して半数以上も減少した。

「富士五湖周辺エリアの魅力を生かしきれていない。感染症対策との両立を前提として回遊性を向上し、訪問する観光施設数・観光客数を増加させたい」と、富士急行 執行役員 事業部長の雨宮正雄氏は同実証実験の意図を語った。

  • 富士急行 執行役員 事業部長 雨宮正雄氏

富士急行が周遊電子チケット『富士五湖顔認証デジタルパス』を富士急ハイランドの公式アプリ経由で販売する。アプリ上で顔情報・クレジットカード情報を登録することで、富士五湖エリアの5つの自治体にまたがる観光施設9カ所、交通機関(周遊バス4路線、富士急行線5駅)、店舗での決済、ホテルのチェックインなど、すべてが顔認証の統合IDで利用できる。

  • 『富士五湖顔認証デジタルパス』の購入手順

  • 顔認証で富士五湖エリアの観光施設、交通機関が利用できる

パナソニック独自の顔認証技術は、ディープラーニング技術を応用した顔認証技術で、顔の向きや経年変化、メガネ・マスクなどにも影響されにくい特徴がある。富士急ハイランドでは2018年より同技術を活用した入退場システムを導入しており、入退場、アトラクション利用あわせて延べ約3,200万回利用されているという。

  • 富士急ハイランドの顔認証入場ゲート

  • アトラクションも顔パスで利用できる

今回の実証実験では、富士急ハイランドをハブとした顔認証周遊の実現を目指す。周遊バスの入口や駅の改札、店舗のレジなどに顔認証システムを設置。商品の購入費用は事前登録されたクレジットカードから引き落とされる。紙のチケットやスマートフォンを提示することなく、顔をかざすだけ富士山エリアを満喫できる。

  • 駅の改札口にはフラッパーレスでウォークスルー型の顔認証システムが導入されている。写真は河口湖駅改札

  • 周遊バスも顔認証で搭乗。顔認証用のタブレットは、パナソニックの頑丈タブレット「タフブック」が導入されている

  • 店舗での決済も顔認証。購入代金は事前登録したクレジットカードから引き落とされる

「このチケットはスマートフォンを持っていない子どもでも利用できる。富士五湖エリアの回遊性を高め、一度の旅行でより多くの観光施設を楽しく周遊してもらいたい」と、PSSJ パブリックシステム事業本部 スマートシティ推進部 MaaS推進課長の大山一朗氏は願望を語った。

  • PSSJ パブリックシステム事業本部 スマートシティ推進部 MaaS推進課長 大山一朗氏

また同チケットはパナソニック独自のダイナミックプライシング技術を活用している。過去の入場者数・天気予報などに基づきAIで来場者予測数を日別に算出し、来場者予測数に応じてチケット価格を変動させる。販売価格は大人(中学生以上)が6,300円~10,000円で、小人(小学生)が4,600円~7,300円。

また同アプリには、事前の情報収集や旅行計画表の作成までをサポートする「旅程プランニング」、リアルタイムに施設やバスの混雑度を可視化する「リアルタイム混雑情報表示」、利用者の現在位置に応じて他の施設への周遊を促すクーポンを配信する「レコメンド配信」など、回遊性を向上させ感染症対策にもつながるさまざまなサービス機能もある。

  • 旅程プランニング機能

  • リアルタイム混雑情報表示機能

4社は同実証実験を通じて、同エリアの年間観光客数を回復させるとともに、平均訪問施設数を1.3ヵ所から3カ所以上まで引き上げることを目指す。さらに、今後はさらなるサービス拡張を推進し、新たな地域観光モデルの構築を実現させる予定とのことだ。