日立製作所は10月11日、同社のイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN」を開幕した。同イベントは昨年に引き続きオンライン形式をとっており、10月15日まで開催される。
2日目の講演では、日立 執行役副社長の德永俊昭氏と、米GlobalLogic(グローバルロジック)President兼CEOのシャシャンク・サマント氏、日立ヴァンタラ CEOのガジェン・カンディア氏の3名が登壇し、日立が注力しているIoT基盤「Lumada(ルマーダ)」事業に関する取り組みについて紹介した。
日立が2016年に開始したルマーダ事業は、顧客のビジネス上の課題を分析し、同社が持つデジタル技術を組み合わせながら、課題解決という価値を提供するビジネスだ。同事業の売上収益は2020年度に1兆1100億円に達し、2021年度には1兆5800億円まで成長する見込みで、同社の連結売上高の16.6%に相当する。
ルマーダは、「illuminate(照らす)」と「data(データ)」の二つの英単語を組み合わせた造語で、日立のOT(制御・運用技術)にIT(情報技術)を組み合わせ、それぞれの顧客にカスタマイズしたIoT(モノのインターネット)のプラットフォームを提供する。
そして日立は2021年7月14日、ルマーダ事業のグローバル展開を加速させるため、米IT企業のグローバルロジックを95億ドル(約1兆500億円)で買収した。同社はソフトウェアの設計や開発を手掛けており、ハードウェアにIoTやAI(人工知能)などの最新技術を組み合わせる「デジタルエンジニアリング」に強みを持つ。
2000年創業で米シリコンバレーに本社を構える同社は、独BMWや米マクドナルドなど400社以上の幅広い顧客基盤を持ち、約2万2千人の従業員を抱える。また、顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組み全体を構想する共創拠点は8カ所、その技術的な実装を推進するエンジニアリングセンターは30カ所世界中で展開している。
同社の2021年3月期の売上高は9億2800万ドル(約1030億円)で、調整後EBITDA(償却前営業利益)率は23.9%だった。2021年9月28日には、ストレージ事業の改良をテーマとして日立とグローバルロジックの協創が開始し、同社の日本市場参入を実現させた。
イベント講演の冒頭で德永氏は、「グローバルロジックの高い成長率は、顧客に寄り添ったDXジャーニーを一緒に歩んでいる証であり、圧倒的な信頼を得ている」と述べた。
続いて、グローバルロジックCEOのシャシャンク氏は「グローバルロジックをひと言で表すと、デザイン主導のデジタルエンジニアリング企業だ。私たちの競争力は、デジタルプラットフォームとしてのルマーダをさらに強化し、ルマーダを活用した新しいソリューションの創出にもつながっている」と強調し、「DXは何年にも渡る旅のようなもの。日立のような長期的なパートナーを持つことが重要だ」とコメントした。
一方で日立ヴァンタラは、ストレージやクラウドサービスに加え、日立のOTとITの強みを融合したデジタルソリューションのグローバル展開を推進するため、2017年9月に発足された。ルマーダ事業においては、グローバルロジックがアジャイル形式で開発したソフトウェアをルマーダに組み込み、デジタルソリューションとして開発する役割を担う。
また、AWSやCisco、Google Cloud、Microsoft、Salesforceといった企業とのパートナーシップにより、マルチクラウド環境とソリューションを組み合わせた運用サービスも提供する。約1万人の従業員を抱え、全世界100以上の国と地域に拠点を展開している。
講演に登壇した日立ヴァンタラCEOのガジェン氏は、「パンデミックにより産業界ではデータドリブン型への変革が急速に進み、今後、組織を成功に導くためには、データに基づく意思決定がカギとなる」と、データドリブンの重要性を語った。
しかし、データドリブンを実行する上で、企業が抱える壁として「大規模な運用ができるデータインフラ不足」、「社内データの一元管理の実現」があると同氏は指摘した。
そして同氏は、「大規模な運用ができるデータインフラ不足」の課題解決事例として、オランダの金融機関のラボバンクを紹介。ラボバンクはパンデミックに伴うEC取引数急増に対応するために、従業員がデータセンターに出勤できない状況の中、仮想マシンを2千台から2万2千台に増設する必要があった。
同社は日立ヴァンタラのクラウドアーキテクチャと自動化ツールを導入し、仮想マシンの構築に必要な時間を物理サーバ1台当たり、8分に短縮することができたという。
続いて「社内データの一元管理の実現」に関しては、パンデミック下における医療機関の成功事例を紹介。イギリスのサルフォードロイヤル病院では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、緊急治療室用のベッドや人工呼吸器などの医療資源の確保や、医師と看護師との的確な連携に課題を感じていた。
この課題を解決するために日立ヴァンタラが開発したのは、患者の入退院状況や病状、病床、医療機器、手術室の空き状況などリアルタイムに把握できるソリューション。Microsoft Azureを通じて提供され、病院内のオンプレミス環境のシステムと統合された。
同ソリューションには病院内の人々と、IoT機器の場所をリアルタイムに把握することができ、その結果同病院は、治療計画や資源をより効率的に活用できるようになり、治療に専念することができるようになったとしている。
日立ヴァンタラはこうしたルマーダ事業の事例で培ったノウハウを生かし、グローバルロジックと「データをつなぐこと」で連携する。そして日立は両社のケイパビリティを生かし、ルマーダ事業のグローバル展開を加速させていく方針だ。