日本IBMは、10月5日~8日の4日間、ユーザー向けオンラインイベント「Think Summit Japan」を開催した。

「テクノロジーと共創で切り拓く新時代~Design for the future with technology that matters : Reset and Create」を全体テーマに開催。会期中の4日間それぞれに、「テクノロジーと共創がもたらすサステナブルな社会」、「新時代を担う人材育成と教育の新しい形」、「AIと自動化が変えるビジネス」、「未来を拓く、最先端テクノロジー」の4分野のテーマを設定し、講演や対談などが行われている。

開催初日には、日本IBMの山口社長が登場。「コロナ禍の先は、みんなで新しい世界を作り上げていくという思いを込めて、今年のThink Summit Japanでは、『テクノロジーと共創で切り拓く新時代』、『Reset and Create』をテーマにした。毎日それぞれに設定したテーマは、日本の企業にとって、いま最も重要なテーマである。一丸となって日本の未来を切り開いていきたい」と聴講者に呼びかけた。

  • 日本IBM 代表取締役社長執行役員 山口明夫氏

    日本IBM 代表取締役社長執行役員 山口明夫氏

また、「IBMは、最高のテクノロジーを、正しく、オープンに、倫理的に活用し、個人や地域社会、そして世界にポジティブな影響を及ぼすことを目指している。これを、Good Techと呼んでいる。IBMは、環境の保護に関しても、グッドテック・カンパニーとして50年以上にわたり、信頼と透明性をもって取り組み、社会的貢献を続けてきた」と語り、「日本IBMから分社化し、9月1日から事業を開始したキンドリル・ジャパンとともに、引き続き、強固なパートナーシップでお客様の変革に貢献したい」とした。

さらに、「コロナ禍によって、テレワークの普及による働き方の多様化、DXによるビジネスやプロセスの変化、デジタルがデファクトになることでの新しいビジネスの創出と顧客体験の実現といったことが起こっている。そして、以前と同じ状態に戻ることはない。新しい世界においても、変革のスピードは緩むことがなく、さらに加速していくことは間違いない」とし、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)という言葉も多く目にするようになった。とくに、気候変動リスクへの対応に関する話題が格段に増え、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが、いかに重要かを実感している」などとした。

基調講演では、初日のテーマである「テクノロジーと共創がもたらすサステナブルな社会」という観点から言及した。山口社長が、顧客企業などを対象に、サステナビリティへの取り組みについて、時間を割いてしっかりと説明を行ったのは、今回が初めてのことである。

「気候変動や社会の分断など、世界は大きな課題を抱えている。日本でも、自然災害による被害が続き、食品廃棄の問題、シングルマザーや非正規雇用者を中心にした相対的貧困の問題が存在している。企業は、誰一人取り残さないサステナブルな社会を実現するために行動を起こさなくてはならない」と切り出した。

IBMでは、サステナビリティ実現のポイントは、「リーダーシップの重要性」、「テクノロジーの活用」、「エコシステムの形成」の3点であるとする。

  • IBMが考えるサステナビリティ実現の3つのポイント

「リーダーシップの重要性」では、2021年6月に開催されたG7サミットで、2022年のパンデミックの終息などとともに、気候および環境項目が採択されたこと、日本では、政府が2050年のカーボンニュートラルの目標などを設定し、それに伴い、企業が中期経営計画やビジョンの見直しを行い、SDGsの実現を経営の中核に据えていることなどを指摘。

「リーダーシップによるコミットメントが表明されることで、社会の機運が高まる。いまは、これをどのように実現するのか、どう実装するのかを考えていくフェーズにある。IBMは、50年前に環境ポリシーを設定し、エネルギー問題や環境保全、製品リサイクルなどに取り組んできた。今年は大きな目標として、2030年までに温室効果ガスをネットゼロにすることを発表した。再生エネルギーの調達、CO2の削減など、これまでの取り組みを加速させるとともに、炭素回収などの新たな技術の開発を通して実現する」と述べた。

調査によると83%の企業が温室効果ガスの排出抑制に取り組んでいるが、2050年にカーボンニュートラルが達成可能だと考えている企業は16%に留まるという。また、中小企業が、SDGsになかなか取り組めていないという実態もある。

総務省の試算では、現状のやり方のままでは、2030年に掲げた目標の半分程度にしか到達できないという。

こうしたギャップを埋めるためにはICTを積極的に活用し、社会全体の徹底的なデジタル化を進めることが大切であると指摘。

「すべての企業経営者が、SDGsになぜ取り組むべきなのか、どう実現できるのかといったことを、腹落ちして捉える必要がある。そこで重要なのがテクノロジーであり、より効果的、効率的な実現を目指すことができる。そして、同時に、デジタルテクノロジーを活用することで社会課題を解決することができる人材の確保、育成も課題である」とする。

社会問題は広範であり、複雑であり、それに立ち向かうには、テクノロジーの力は不可欠であると、山口社長は語る。そして、IBMは社会課題解決にために、テクノロジー企業として、次のことに取り組んでいるという。

ひとつめは、IBMで取り扱っているハードウェアの新製品は、従来モデルに比べて必ずエネルギー効率を高めることにしているという点だ。2021年9月に発表したPower10搭載サーバーの新製品は、従来モデルに比べて、エネルギー消費量を33%削減しているという。さらに、製品導入によって年間約20トンのCO2削減を見込むユーザーには、同製品および保守費用の一部を割り引く「SDGs割」制度を導入しているという。

2つめは研究開発分野での取り組みだ。IBMでは、環境にやさしい技術の開発に取り組んでおり、コバルトなどの環境に害がある重金属を使わず、海水由来の電池の開発を行っているという。また、純度の高いプラスチックをリサイクルする技術など、課題解決に直接役に立つ新たな技術を開発していることを紹介した。

IBMは、2021年5月に、最先端技術となる2nmのチップテクノロジーを発表。現在の7nmと比較して、約45%の性能向上、あるいは約75%の電力消費削減ができるという。また、量子コンピュータやAIを活用したマテリアルディスカバリーによって、炭素回収を行う素材や、環境にやさしい素材の開発、発見に取り組んでいることも示した。

そして、テクノロジーを使いこなす人材の育成では、量子ネイティブな人材を育てる学生向けキャンプの「Qiskit Camp Asia」の開催、高校生が参加できるIT人材育成の社会貢献プログラムである「P-TECH」の開催のほか、仕事から一度離れたり、求職氷河期時代の人たちなど、リスキルが必要な人たちの支援を行う「SkillBuild」を実施していることを紹介。「SkillBuild」には、現在、2500人が登録し、1000人以上が受講しているところだという。

山口社長は、「IBMは、テクノロジー企業として、社会をよくすることにテクノロジーを活用することを目指している。これをグッドテックと呼び、当社の大切なミッションとして位置づけ、世界に貢献していく考えである」と述べた。

最後のポイントが、エコシステムの形成による企業の枠を超えた協力体制である。

海外を中心に、サステナビリティの実現に向けて複数の企業が、会社横断、業界横断で、コンソーシアムを組んで取り組んでいる例を示した。

UNEP(国連環境計画)においては、海洋ゴミの削減に取り組むパイロットプログラムに参加。地球規模のデータ分析を行い、海洋ゴミを追跡するデジタルプラットフォームの構築に向けて、プロトタイプの開発、実証に取り組んでいる。また、MITとは、12社の企業とともに、気候変動に関するコンソーシアムを立ち上げ、技術開発における産学連携を推進しているところだという。日本でも量子コンピュータの領域で産官学による協議会を設立し、実用化に向けた共同研究を開始し、持続可能な社会に向けた課題解決に取り組んでいるという。

さらに、プラスチックバンクの取り組みでは、廃棄されたプラスチックを回収し、仮想通貨で買い取る仕組みをブロックチェーンで構築。途上国において、現地の人たちの生活の糧とすることで、海洋汚染と貧困層の救済という2つの課題解決を取り組んでいる例を示した。

また、鉱山の採掘作業で、人権侵害にあたる児童の労働を防ぐために、ブロックチェーン技術を活用して、鉱山から市場までのサプライチェーンのトレーサビリティを実現した事例もあるという。

「日本でも資源の循環や、CO2の取引促進のためのプラットフォーム構築など、社会的に意義のある取り組みを多く始めている。IBMはグッドテックの実践によって、よりよい社会を形成することを目指している。また、お客様のエコシステム形成を支援したり、自らがエコシステムを形成したりすることで、サステナブルな社会の実現に貢献したい」と述べた。