サムスンから、フォルダブル(折りたたみ)スマートフォン「Galaxy Z」シリーズの最新モデルが登場しました。開くとタブレットになる「Galaxy Z Fold3 5G」は、折りたたんだ状態ならスマートフォンのように手軽に持ち運べるのに、開けばタブレットにもなるということで、スマートフォンとタブレットのいいとこどりの製品です。
発売はNTTドコモとauからで、いずれも10月6日の発売。価格は、ドコモ版なら一括23万7,600円、au版は23万7,565円となっています。
タブレットで快適にアプリを使える
Galaxy Z Fold3は、横折りでは3世代目となる同社の折りたたみ端末。折りたたむとスマートフォン、開くとタブレットというスタイルは、他社からもいくつか登場していますが、着実に世代を重ねて育てている点はサムスンらしく好感の持てるところです。
3代目となって、とくに開いたときのメインディスプレイ周りが進化しています。ディスプレイを折りたたむ必要があるため、通常のディスプレイとは異なる工夫が必要になります。これまでは少し柔らかめの感触だったのですが、今回は通常のスマートフォンと大差ありません。きちんと硬く、ガラスの感触。指で押し込んでも不安は感じません。
頑丈な画面でも折りたためるというのは、さすがの技術力。その分、やや中央の凹みは従来よりも感じる印象があります。折りたたむためにはこの中央のシワの部分が必要なため、仕方のないところでしょう。左右にスワイプする際に凹みは感じるので違和感はありますが、画面を見ている限りは決定的な違和感があるというほどではありません。
基本的な構造は従来通り。7.6インチ2,208×1,768のタブレットモードは、厚さ6.4mmと薄型で、大画面を快適に使えます。タブレットとしてはやや小型ですが、最新のiPad miniが8.3インチ2,261×1,488ピクセルなので、小型タブレットとしては十分でしょう。iPad miniは16:10とやや横長ながら一般的なアスペクト比なのに対して、Z Fold3は正方形に近いデザイン。デジタルカメラの写真表示や電子書籍の表示には向いています。16:9の動画表示には上下の黒帯が大きくなるので一長一短でしょう。
折りたたみスマホならではの使い方として、少しだけ折った状態で手に持つと手のひらへのフィット感が良くなって、安定して保持できます。書籍を開いているようなイメージです。画面が真ん中で折れてしまうのでベストなスタイルではないのですが、雑誌の見開きを見ているような感覚で、それほどコンテンツ閲覧の邪魔とは感じませんでした。
大画面を生かしたマルチウィンドウ機能も搭載しています。3つのアプリまで同時起動して並べて利用できます。加えて、4つ目のアプリをフロー状態で起動できるので、最大4つのアプリを1画面に同時表示できます。
それぞれのアプリのサイズを自由に変えたり、1タップでアプリの表示位置を切り替えたりもできますし、同時起動するアプリを登録することもできます。これは、画面の隅から画面内側にスワイプすると表示されるエッジパネルに登録され、3つのアプリを1タッチで起動できるのも便利。
一部のアプリでは、タブレットに最適化されたUIも採用されています。「設定」のように、左側に項目選択、右側に機能設定が表示されるので、いちいち画面が切り替わらずに素早い操作が可能になります。
カレンダーアプリやGmailなどでもこうしたUIが採用されており、使いやすさが向上します。Z Fold3用のUIというよりはタブレットで使いやすいUIで、アプリベンダー側の設計次第となりますが、Androidタブレットが決して普及しているとは言えない中で、Z Fold3には頑張って欲しいところです。
多様な使い方ができるフレックスモード
単なるタブレットではなく、折りたたみという点を生かした使い方もできます。折りたたむということは、ノートPCのように自立させることが可能で、ディスプレイを半ばぐらいまで折り曲げて上下に分割したフレックスモードが特徴的です。
PCのように画面を自立させることができるので、テーブルに置いた状態で画面を見るという使い方ができます。画面は半分しか使えないのですが、サイズとしては6.2インチで、24.5:9のカバーディスプレイと同等になります。スマホを横にしてみているのと同じ感覚で閲覧できます。
一番分かりやすいのが動画の視聴でしょう。タブレットサイズに比べると小さいのですが、十分内容は分かりますし、音声を中心にざっくりと映像を確認したいという場合には良さそうです。何より、YouTubeアプリだと自動的にUIが最適なモードになるため、扱いやすいのもメリットの1つです。
このフレックスモード専用UIは、一部の対応アプリで利用できます。YouTubeであれば上半分に動画、下半分にコメント欄が表示され、視聴とコメント確認が同時に行えます。
フレックスモードに対応しているかどうかは、Z Fold3の設定にある「フレックスモードパネル」から確認できます。基本的にはサムスン製標準アプリの一部と、Google製のアプリの一部、そしてZoomです。ただ、試用機でZoomを使ってみたのですが、フレックスモードが動作しませんでした。何が問題なのかは不明ですが、ちょっと残念なところです。
カメラアプリのフレックスモードも使いやすいUIです。タブレットモードでカメラを起動すると、大画面で撮影ができるので使いやすいのですが、フレックスモードにすると上半分にライブビュー、下半分にカメラコントロールが表示され、ライブビューにテキストが重ならないので撮影に集中ます。撮影した画像はすぐに画面の下半分に表示され、前の画像を確認しつつの撮影も可能。スワイプで画像送りや削除などもその場ですぐに行えます。
メインカメラでの撮影時に、背面(被写体側)になるカバーディスプレイをライブビューとして利用できる機能も便利。フレックスモードだと、平面に置いてスマホを固定できるため、三脚を使うような自撮りの撮影ができます。離れていてもジェスチャー(カメラに手のひらを見せるとシャッターが切れる)とカバーディスプレイを活用すれば撮影が行えます。
もう一つ便利なのがローアングル撮影機能。カメラのライブビューが下半分の画面に移動し、シャッターボタンや各種設定ボタンも下半分に集約されます。Z Fold3を途中まで折りたたむと、カメラが上を向いて見上げるような形になりますが、メインディスプレイの下半分にモニタやシャッターボタンがあるため、折りたたんだボディに邪魔されずにライブビューを確認しつつ撮影ができるわけです。
名前の通り、ローアングルでの撮影を便利にする機能ですが、それだけ出なく、見上げるように撮影をするアオリ撮影にも有効です。
折りたたんで立てかけたり角度を付けたり、工夫次第で様々なアングルで撮影を行えるため、単なるスマホカメラとは異なる楽しさがあります。折りたたんだスマホモードで使えば普通のスマホカメラとして使えますし、フレックスモードで色々な撮影を行える点は便利です。
コンテンツ視聴に最適なタブレットモード
スマホとタブレットが切り替えられるZ Fold3では、気軽に持ち歩いた上で必要に応じて大画面での利用ができます。個人的に期待しているのは電子書籍で、4:3というアスペクト比も電子書籍向け。
横持ちにすると、7.6インチというサイズは見開きで漫画を快適に読める最小サイズと言えるかもしれません。本体サイズは128.1×158.2なので、文庫本を閉じたサイズよりも一回り大きいぐらい。文庫本は開くとさらに倍のサイズになるので、総じて一回り小さいサイズぐらいです。つまりZ Fold3の画面は文庫本よりも小さいので、それなりに表示は小さくなります。
それでも、7.6インチサイズならば漫画の吹き出し、小説のルビを含めて視認性は高く、個人的には十分なサイズと感じました。一部の漫画アプリで縦表示固定のUIになってしまうといった問題はありますが、見開きで漫画や小説を快適に読めるのは便利です。
動画の視聴ももちろん快適です。YouTubeはフレックスモードに対応しますし、NetflixやAmazonプライム、TVerといったアプリでも問題なく、7.6インチの大画面で動画が楽しめました。
スピーカーサイズも大きいようで、しっかりとした音圧で高音から低音までをバランスよく再生してくれます。フレックスモードだとテーブルなどに置くためか、反響による音圧の向上もあって、そのまま映画を観ても迫力のある音響になります。
総じて、コンテンツ視聴は快適。何しろ、持ち歩く際にはほぼスマホサイズで、重量も271gと、画面サイズが小さいのもありますがiPad miniの297g(セルラーモデル)よりも軽い。気軽に取り出して大画面サイズになるというのは得がたい特徴です。
タブレットモードで利用する際に問題となるのがインカメラです。タブレットによっては、ディスプレイ周囲のベゼルを太くしてそこに収めたり、パンチホール型にして画面上に埋め込んだりしていますが、どちらにせよ画面領域を狭めることになります。
それに対してZ Fold3は、本体サイズギリギリまでディスプレイが広がっているため、ベゼルには埋め込めません。かといってパンチホールにすると、その場所に黒い穴が空いていて目立つほか、ペンで書いていてもその部分だけ描画が途切れたり、線が切れているように見えたりしてしまいます。
そこでZ Fold3では、まだ新しい技術である、画面にインカメラを埋め込むアンダーディスプレイカメラを採用しました。この場合、画素密度を減らして透過させているため、インカメラがある場所でもそのまま画面表示が行われます。よく見るとそこにカメラがあるのは分かるのですが、多少はごまかせる、という印象です。
背面カメラの位置やヒンジの位置などを考えるとインカメラの配置はこの場所しかなかったのかもしれませんが、コンテンツに被りやすい位置ではあって、「画面の端に注目すると違和感がある」という感じです。とはいえ、カメラを探すのではなく、コンテンツに集中していると意外に気にならないものです。まあ、一度気付くと目に付くので、そうなると残念な気持ちにはなりますが、常に黒い点が浮かぶパンチホールよりは良いように感じました。
もう1つのメリットは、インカメラ上でもタッチ操作が可能で、色を塗るといった操作もできるという点です。端から端まで、インカメラを気にせずに描画できるというのもメリットでしょう。
新しい使い方を提案するカメラ
メインカメラはトリプルカメラですが、あまり目新しくはありません。画角123度の超広角カメラ、画角83度の広角カメラ、画角45度の望遠カメラの3つを搭載。いずれも12MPの解像度で、Galaxy Sシリーズのような64MPや108MPといった高解像度センサーは採用されていません。倍率としては0.5倍、1倍、2倍となり、超広角から望遠までカバーしてくれます。
8Kの動画撮影もサポートしませんが、かなり強力な手ブレ補正機能を搭載しており、一般的な用途では十分でしょう。12MPというのは、現状ではピクセルサイズや画素数のバランスがいいセンサーです。
最近のGalaxyの特徴であるシングルテイク機能や背景をぼかすポートレートモード、3つのカメラの映像を同時に表示して撮影を補助するディレクターズビューも搭載しますが、やはり特徴はカメラの使い方にあるでしょう。
前述の通り、フレックスモードなら三脚を使わずに置いた状態で撮影ができますが、そのまま手に持っても意外に使いやすいスタイルです。ゲーム機のコントローラーのように手に持って、安定して両手で撮影できるのです。この持ち方だとカメラに指が掛かることもないですし、ローアングルやウエストレベルでの撮影もしやすいのです。
基本的に、カメラの画質はメインカメラが高く、インカメラはメインカメラほど高画質ではありません。特に今回はアンダーディスプレイカメラでカメラの前面にディスプレイがあるため、画質は低下しがち。自撮りの使いやすさはインカメラの方が上ですが、通常のスマホカメラよりも快適にメインカメラで自撮りできるZ Fold3は、無理にインカメラを使わず、メインカメラで自撮りをするとよさそうです。
撮影画像の確認も大画面で行える点もメリットです。スマホモードで気軽に撮影した後、タブレットモードにすれば撮影画像の確認も大画面で行えます。ピントチェックも構図チェックも、大画面の方が快適で、スマホとタブレットの一体化によるメリットです。
USBなり無線LANなりで転送したデジタルカメラの画像を確認する場合も、大画面ならより快適。最近のデジカメはUSB Type-Cを採用したものも増えてきたため、ケーブル1本で直結して画像転送できて、より快適になりました。
Lightroom mobileで画像を取り込みつつオンラインにバックアップし、そのままPC側のLightroomに同期されるという使い方もいい感じです。Lightroom mobileのUIがもう少しAndroidタブレットに最適化されると使いやすいのですが、大画面でサムネイルから写真を選んでピントなどのチェックができて、用が済んだらコンパクトなスマホになる、というZ Fold3の使い勝手の良さが際立ちます。
Sペンにも対応して完成度がさらに向上
加えて、必要に応じてSペンが使える点も見逃せません。これまではGalaxy Noteシリーズで利用していたSペンですが、いよいよZ Fold3でペン入力に対応しました。ただし、従来Galaxy Note用のSペンは使えず、専用のS Pen Fold EditionかS Pen Proのいずれかが必要です。
Galaxy Noteのように本体にホルダーが設けられているわけではないので、別途持ち歩くか、ペン収納に対応したケースの装着が必要です。残念なところですが、その分ペンは太く持ちやすいため、書きやすさが向上しています。
Z Fold3対応ペンは、ペン先が沈み込むようになっており、必要以上に力を入れて画面を損傷しないようになっています。ペン対応したとはいえ、通常のガラスに比べれば強度が劣るため、力を入れすぎて破損する、といったことが起きないように配慮されています。
実際の書き味は、Galaxy Noteと遜色ありません。滑らかに描写が行えて、細かい部分までしっかりと書き込めます。やや滑りやすく、もう少し引っかかりがあると書き味はさらに増しそうなので、複数の書き味のペン先があると良さそうです(ペン先の変更は可能)。
Sペンの機能としては、ペン先を画面に近づけてペンのボタンを1秒ほど押して離すと表示されるエアコマンドを利用可能。これはSペン用のショートカットで、ペンを使うアプリを登録しておくといいでしょう。
エアコマンドとしては他に、翻訳、Bixby Vision、ルーペ、小窓表示という4つの機能も搭載します。このあたりは従来のGalaxy Noteにもあった機能です。
S Pen Proの場合はBluetoothを内蔵しており、Z Fold3とペアリングすることで、ボタンを押しながらペンを振って操作するエアアクションもサポートしています。スイッチで切り替えれば、Galaxy Noteでも使えるのがS Pen Proのメリット。ペンが長いS Pen Proは、イラストを本気で描く場合などにもお勧めです。
加えて、Sペンでキーボードのようにテキスト入力することもできます。テキストボックスに直接手書きできるという機能で、テキストボックスの上に手書きをすると、リアルタイムに手書き認識してテキスト化してくれます。
ペンを持っていて、検索するときだけペンを置いてキーボードを両手で入力して……といった動作をしなくても、手に持つペンでささっと手書きすれば検索できます。短文で済むときは手書きの方が早い場合もあります。
手書き認識されたテキストの上で線を引くと文字を削除するなど、ジャスチャー機能も備えており、機能としてはなかなか優れています。デフォルトのIMEである「Galaxyキーボード」にもSペンでのテキスト入力機能を搭載しており、こちらはテキストボックスを問わず、画面上のどこでも書き込め、テキスト化してくれます。
こうしたテキスト認識機能は、メモ帳アプリの「Galaxy Notes」にも搭載されており、手書きした文字を後からテキスト化したり、リアルタイムにテキスト化しながらテキスト入力ができます。
Galaxy Noteに比べると、さらなる大画面でより手書きがしやすい。それでありながら、普段はスマホサイズで持ち歩けるというのは、繰り返しになりますがやはり便利です。
ちなみに、ゲームも大画面で楽しめるので、ゲームを重視しているユーザーにもお勧めです。レーシングゲームやFPSなど、美麗なCGのゲームを大画面で楽しみつつ、気軽に持ち運べるタブレットということで、ゲーミングデバイスとしても優秀です。
Z Fold3は、タブレットサイズの画面をスマホの気分で持ち歩けるというのが最大の利点です。Sペンに対応したことで、既存のタブレット端末でできることはほぼカバーしました。しいて言えばキーボードカバーのような製品がないのですが、これは折りたたみのコンパクトなBluetoothキーボードを持ち歩けばいいでしょう。
しかも、フレックスモードならカバーがなくても自立しますし、ほぼ無段階でディスプレイの角度が変えられるので、見やすさも十分。
一般的なタブレットでは折りたたんでスマホのようにコンパクトに持ち歩くことはできません。バッグを持たずにスマホだけ持ち歩いたつもりでも、いざという時にはそれがタブレットの大画面で使えるのだから、普通のタブレットではこうはいきません。
もちろん、スマホとしては分厚く、スマホとしては重い、という点は、スマホ単体で見ればマイナスです。値段も23万7,600円(ドコモ版)となかなかのもの。ちなみに、グローバルでもドイツでは1,799ユーロですし、基本的には23万円前後で販売されているようです(米国の1799.99ドルは税別)。いずれにしても、スマホ+タブレットの値段と考えれば妥当とも言えます。厚みやサイズ、折りたたみの手間といった単独のスマホやタブレットにはない弱点があるので、その分をデメリットとして考えれば高いというイメージにもなるかもしれません。
もちろん、その開くという一手間が面倒ということもありますし、どちらにしても中途半端、といえなくもありません。このあたりは人によって判断が分かれるところでしょう。
それでも、デバイスの完成度がさらに高まったことで、一般的なユーザーでも先進性と使い勝手の良さを感じられる製品に仕上がっています。大画面タブレットを持ち歩くにはわざわざバッグが必要で面倒、スマホも持ち歩いているのに……という人なら、1台ですませられるZ Fold3にメリットはありそうです。