ニコンの「Z fc」は、同社のミラーレスカメラ「Z」シリーズの新機軸となる製品です。イメージセンサーなどのキーデバイスは2019年発売の「Z 50」と同じながら、往年のフィルムカメラ「FM」「FE」シリーズをイメージするボディシェイプとし、メカニカルダイヤルを多用してフィルム一眼レフライクなアナログ操作にこだわったのが特徴です。先日公開したファーストインプレッション「ニコン『Z fc』ファーストインプレ 手にするだけで気分が上がる!」に続き、Z fcを深掘りレビューしていきましょう。
作りのよさを随所に感じさせるボディ&操作部
Z fcを紹介するにあたり外せないのが、操作系を含む外観です。全体のシルエットは、ニコンいわく「FM2」をインスパイアしたといいますが、FM/FEシリーズは基本的にほぼ同じシェイプなので、それらのカメラをイメージしたと考えてよいでしょう。特に、いわゆるペンタカバーと言われる“三角アタマ”の周辺の造形は、まさにFM/FEシリーズのそれと感じます。
さらに、ボディの厚みがフィルム一眼レフ並に薄く仕上がっているのも見どころです。デジタル一眼レフと比べたときは当然ですが、同社のほかのミラーレスと比べても薄く仕上がっており、まさにフィルム一眼レフのボディサイズそのものと述べてよいでしょう。マニュアルフォーカス(MF)のフィルム一眼レフ時代から写真をやってきた人には懐かしく、新しい世代の写真愛好家には新鮮に映るように思われます。加えて、マグネシウムボディの質感も高く、それだけでも物欲が湧いてきそうです。
なお、FM/FEシリーズはマウント部がそのほかの部分より一段前方に出っ張っていますが(この部分をエプロンと呼びます)、本モデルでは面一(つらいち)で出っ張ってはいません。同様の形状としていたなら、よりフィルム一眼レフのイメージに近くなったかもしれませんが、Zマウントはマウント径がFマウントよりも一回り以上大きく、デザイン的にマウント周辺をスッキリさせたかったのではないかと思います。
トップカバーに並ぶメカニカルダイヤルも、FM/FEシリーズを連想させるものです。もっとも、ダイヤルなどのレイアウトや割り当てられた機能はFM/FEシリーズとは異なり、デジタルに対応した現代的なものになっています。特に、露出補正ダイヤルはカメラを構えた右手親指で操作しやすい位置に置かれ、素早い設定が可能に。ISO感度ダイヤルは、FM/FEシリーズでは巻き上げレバーのあった場所にあります。ダイヤルの操作感は節度あるもので、ボディと同様につくりのよさを感じさせます。
ちなみに、シャッタースピードダイヤルやISO感度ダイヤルなどの搭載は、ニコンのデジタルカメラでは「Df」以来。メカニカルダイヤルは、富士フイルムのXシリーズの多くが採用していますが、Z fcはそれにならったもののように思えてなりません。
ボディカラーは、現状シルバーのみを用意します。カメラを首から下げたときなどは主張が強く、よく目立つように思われます。外装は、購入後に張り替えが可能なのがユニーク。購入後、メーカーへカメラを送付する必要がありますが、ホワイト/ナチュラルグレー/サンドベージュ/コーラルピンク/ミントグリーン/アンバーブラウンの6色の合成皮革から選べます。通常価格は4,950円ですが、現在無料キャンペーン中ですので、自分好みのZ fcに仕上げたいのであれば急ぎ検討してみるとよいでしょう(別途送料1,870円が必要です)。
AFなど基本性能は不満なし、センサーのゴミ取り機構は欲しかった
キーデバイスは、同じAPS-Cフォーマットのイメージセンサーを搭載する「Z 50」を踏襲しています。有効画素数は2151万画素で、A3ノビサイズのプリントでもまったく不足のないもの。センサーシフト方式の手ブレ補正機構は備わっていませんが、それよりも搭載してほしかったなぁと思うのがイメージセンサーのゴミ除去機構。最近は、自分でイメージセンサーの清掃を行うユーザーが増えているといわれますが、失敗のリスクを考えるとしないに越したことはありません。しかも、Z fcは一眼レフにくらべマウント面から比較的浅い位置にイメージセンサーあり、レンズ交換時にはむき出しとなるため、超音波方式などのゴミ除去機構はやはり欲しいところです。
画像処理エンジンは最新の「EXPEED 6」を採用。上位モデル「Z 7II」や「Z 6II」のものと同じです(Z 7IIおよびZ 6IIは2個搭載)。ISO感度は、ベース感度ISO100、最高感度ISO51200としており、拡張によりISO102400相当のH1およびISO204800相当のH2の選択が可能です。ノイズの発生や解像感の低下は、さすがに高感度域では目立ちますが、APS-Cフォーマットのイメージセンサーを積むカメラとしてはよく抑えているほうです。前述のとおり、本機には手ブレ補正機構がありませんが、手ブレを抑えたい撮影条件ではためらわず高感度に設定してもよいでしょう。最高コマ速は、AF/AE追従で約5コマ/秒、拡張時では11コマ/秒。ここちらも、このカメラのキャラクターを考えれば不足はないでしょう。
画像処理エンジンがかかわる部分としては「クリエイティブピクチャーコントロール」も注目です。いわゆるフィルター機能のことで、搭載するピクチャーコントロールは「ポップ」「ブリーチ」「トイ」「セピア」など20種類。より変化のある表現が楽しみたいときなどに重宝しそうです。個人的にこのようなフィルター機能に欲しいのが、スマートフォンで写したかのような仕上がり。オーバーエフェクト気味に見た目キレイに仕上がるフィルターがあれば、それなりに人気を博すように思えてなりません。
AFは、瞳AFのほか動物AFも搭載しているのもトピック。このAFの動物とはイヌとネコのことで、その瞳にピントを合わせます。静止画、動画とも有効な機能で、さらに通常のシングルAF(AF-S)に加え、被写体にピントを合わせ続けるコンティニュアスAF(AF-C)にも対応。鼻の長いイヌなどを正面から写すときに特に有効です。大切なペットとの散歩や、街歩きなどで見かけたネコなど、手軽に動物の撮影が楽しめるはずです。
フォーカスポイントは、画面の水平87%、垂直85%の範囲をカバー。どこに被写体があってもピントを合わせられ、アングルにほぼ制約はありません。スペック上では、同じキーデバイスとするZ 50は-4EVがAFの機能する低輝度限界ですが、Z fcでは-4.5EVとしており、一見すると暗い場所に強そうに思えます。しかしながら、Z 50はF2.0のレンズを使用した場合の値、Z fcはF1.8のレンズを使用した場合の値ですので、実際はほぼ同じ低輝度限界と考えてよいでしょう。
動画機能は、4K/30pでの撮影が可能であるほか、フルHD/120pのスローモーション撮影にも対応しています。静止画撮影と動画撮影の切り替えは、トップカバーにあるシャッタースピードダイヤルと同軸の静止画/動画切り換えレバーで行います。直感的に操作できるので、思いついたときに素早く切り換えが可能です。
ミラーレスの撮影の要である電子ビューファインダー(EVF)は、0.39型236万ドットのディスプレイを採用。高精細でコントラストの高いリアル感ある画像を表示します。ファインダー接眼部(アイピース)の形状は大型の丸型タイプで、一眼レフの上位モデルのような雰囲気。個人的にも気に入った部分のひとつです。液晶モニターは3インチ104万ドット。自撮りでの使用を考慮したバリアングルタイプとしています。液晶モニターの背面は、一見すると人工皮革が貼られているように見えますが、プラスチックの成形によるものです。そのため、前述の人工皮革の張り替えサービスを行っても、この部分はそのままの状態となります。
スマートフォンとの連携も紹介を忘れてはならない部分です。無料のアプリ「SnapBridge」により静止画(JPEGおよびRAW)や動画をカメラから転送でき、Z fcのリモコンとしても使用が可能。SNSやブログへのアップも速やかに対応でき、家族や友人などと静止画や動画の共有もその場で楽しめます。同社の画像共有・保存サービス「NIKON IMAGE SPACE」への連携もできますので、Z fcを購入したらなるべく早めに同アプリをスマートフォンにインストールし、カメラとペアリングしておくことをオススメします。
今後のシリーズ展開にも期待したい意欲作
今回Z fcを触った限りにおいては、持って楽しく、撮って楽しいカメラだと思えました。そのボディデザインから、一部には懐古主義と捉える向きもありますが、楽しい趣味の道具として考えればアリだと思いますし、それを可能とする同社のカメラメーカーとしての歴史も感じさせます。往年の写真愛好家からこれから写真を始めてみようと考える若い人まで、広く訴求できるカメラと述べてよいでしょう。
惜しむべくは、私個人の趣味もありますが、FM/FEシリーズのようにブラックボディがないことと、APS-CフォーマットのZマウント単焦点レンズが用意されていないこと。しかしながら、これらはきっと時間が解決してくれると思います。SNSやブログなど見ると、Z fcのフルサイズ版を待望する書き込みも散見されます。メーカーにもその声は届いているはずですので、こちらについても期待してよいかもしれません。