従業員エクスペリエンス(EX)とは、従業員が組織内で働くことを通して得るすべての経験で感じたことを指します。Citrixの行った調査によると、74%の経営者が、従業員体験を改善することで大きなROI(Return On Investment)が得られると考えています。

EXを充実させることは、離職率の低下、顧客満足度の向上、新しい人材の獲得、そして仕事に対する熱意の向上につながります。EXが重要であることに異論を唱えるビジネスリーダーはほとんどいないでしょう。しかし、どのように「育むべきか」が明確でないビジネスリーダーは多いと思います。

効果的で持続性のあるEXがどのようなものなのかを明らかにするため、Citrixはさまざまな組織や市場を対象としたグローバルな調査を実施し、何十人もの専門家や実務家にインタビューを行いました。この調査の過程で、EXに取り組んでいる企業は、人を第一に考える文化があることが明らかになりました。

しかし、人を第一に考える文化を育むことは、初歩的なEX戦略に過ぎません。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、企業文化、テクノロジー、物理的スペースの概念が変わりつつあります。Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)のVUCA時代といわれる今こそ、持続可能で適応性のあるEXの重要性が高まっています。

EXを確立するための3つの原則

EX戦略を立てる上で、明確な道筋を示す行動指針として、3つの原則があります。これらの原則は、企業が最大の資産である人材の可能性を引き出すためのフレームワークとなります。

それぞれの原則の下には、より良いEXを実現するために企業が取るべき明確な行動があります。

(1)個人のキャリアアップを支援する

最大限の効果が得られる形でEX戦略を推進するために、企業は個人がベストを尽くすためのツールと環境を提供しなければなりません。組織は、自律性、熟練性、目的が説得力を持って明確に示されて初めて、実行可能なEX戦略を構築することができます。

個人の成長とビジネス目標を調和させるには、組織は職務レベルとキャリアレベルでの成長を考慮するべきです。EXの観点で問題をグループ化して診断することで、成長が阻害されている領域を示すことができます。

(2)共感し、お互いの理解を深める

Pulse Survey(パルスサーベイ)などのアンケートにより、従業員の声を拾うことは共感するための初めの一歩になります。聞きづらい質問をしなければならなかったり、従業員からの答えに対して実際に対応するためのノウハウがなかったりと、一筋縄ではいかないかもしれません。しかし、これらのハードルをクリアすることが、組織におけるEXの向上には欠かせません。

パンデミックは、社員のメンタルヘルスに大きな影響を与えました。多くの企業は、急遽テレワークに切り替え、オフィスでの共同作業モデルに慣れた従業員は、孤独な作業環境に追い込まれました。柔軟な働き方が当たり前になっていく未来において、従業員のサポートし続けるためには、組織は従業員の全体的な健康状態だけでなく、個々の進歩にも焦点を当てる必要があります。

EXに注力している企業では、このように積極的にリスニングを行うことで、従業員がストレスフリーな環境で良いパフォーマンスを発揮するためにはどうすればよいかを判断し、柔軟に変化に対応しています。

(3)各部署の連携

組織はしばしば、分断された組織図から抜け出すのに苦労します。EXを構築するのは人事部だと思われているかもしれませんが、そうではありません。EXは個人から始まります。しかし、その方針は、リーダーが定めなければなりません。そこから先は、各部門が協力して個人の進歩と共感を促進する責任があります。

各部門は、共通の目標とそれに見合ったKPIを設定することで、EXの変革を促進することができます。EX先進企業の約3分の2は、部門間で目標を共有していると回答しています。

EX向上への道のり

EXの向上には近道はありません。鍵となるのは、コロナ後の世界で、「ワークスペース」という概念をどのように進化させるか、そして柔軟な働き方が当たり前になった世界で成功するためにワークフォースをどのように準備するかということです。

今後15年の間に、91%のプロフェッショナルは、自分の組織が人間の労働力よりもテクノロジーに多くの費用をかけるようになると考えていますが、従業員の福利厚生に投資するのに、今ほど適した時期はありません。

「個人の成長」「共感」「各部門の連携」の原則は、ビジネスをより良い働き方へと導き、どのような状況であってもチームの成功に寄与するでしょう。

EXの3つの原則に沿ったアクションを実行することで、組織内で持続性があり、ハイクオリティなEXを提供し、従業員一人ひとりが最高の仕事が生み出せる組織づくりが可能になります。

著者プロフィール

國分俊宏 (こくぶん としひろ)

シトリックス・システムズ・ジャパン 株式会社 セールス・エンジニアリング統括本部 エンタープライズSE本部 本部長

グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセースルとして支援している。現在は、ハイタッチビジネスのSE部 部長として、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に浸透すべく奮闘中。