2020年3月に5Gの本格普及に向けて動き出したモバイル業界。ソフトバンクでは、早くもその先の時代まで見据えた「ギジュツノチカラ Beyond 5G / 6G編」を開催しています。どんな未来が語られたのでしょうか? 本稿で簡単に振り返ってみたいと思います。
来るべき5G / 6Gの世界
登壇したソフトバンク 先端技術開発本部の湧川隆次氏は「ソフトバンクのBeyond 5G / 6G構想と12の挑戦」というテーマで、同社の目指すビジョンを語りました。
その冒頭、湧川氏は「今後10年間は5G(第5世代次世代通信システム)が社会基盤になり、さまざまな産業を支えていきます」と説明します。
これまで移動体通信は1Gから4Gまで、10年ごとに通信方式に大きな技術革新がありました。5Gに関しては通信方式こそ4Gを継承しますが、使える周波数が格段に増えたのが特徴。5GのSub6+ミリ波には2.2GHz幅という大きな量の周波数が割り当てられていると強調します。
そのうえで、6Gではさらに膨大な周波数(100GHz幅以上)が利用できるようになると湧川氏。気になる開始時期ですが、今後10年間は5Gの進化とともに歩んでいき、2030年頃から6Gが本格的に始まるとの見方を示しました。
ソフトバンクでは「2030年 完全デジタル社会」を掲げ、レガシーインフラからの脱却をはかります。
湧川氏は「いままで我々はさまざまなインフラを作り上げてきましたが、それが完全デジタル化されます。2020年までのモバイルネットワークは、基地局を中心としたものでした。6Gの普及した世界では、HAPS、衛星など空からのネットワークでスーパーワイドエリアを構築していく。MEC(Mobile Edge Computing、エッジコンピューティング)が我々の端末側に寄ってきて、さまざまなコンピュータ資源がばら撒かれ、そこに固定網も統合されていきます」と、エッジにコンピュータ資源が分散されることにより、ネットワークとコンピュータが合体して、ひとつのインフラになっていくとのイメージを語りました。
ここで湧川氏は、ソフトバンクが取り組む『Beyond 5G / 6Gに向けた12の挑戦』を紹介。詳細について一つひとつ説明していきました。
アーキテクチャの挑戦
4G LTEの時代になり、私たちはモバイル端末でもインターネットをストレスなく楽しめるようになりました。ただデータ通信にはインターネットの技術(パケット交換)をそのまま使っているため、ときにパケ詰まりのようなことが起こります。
ひとつのネットワーク回線を複数のサービス、アプリで共有するため、空いていれば速度は保証されますが、利用量が増えると性能が落ちるのは仕方のないことでした。そんなベストエフォートから脱却していきます。
インターネットは、複数の事業者のサービスのうえに成り立っているため、これまでは通信の品質保証が難しかったという背景があります。しかしソフトバンクのネットワーク網のなかでエンドツーエンドの通信を完結してしまえば「品質保証の概念が作れるようになる」と湧川氏。そのためにソフトバンクではMEC、ネットワークスライシングなどの機能を、日本全国を網羅するモバイルネットワークに実装していくことを考えています。
技術の挑戦
ソフトバンクではエリアの拡張として、HAPSやLEO(低軌道)衛星、GEO(静止軌道)衛星の活用を考えています。
例えば、成層圏に基地局を飛行させて直径200kmの広いエリアと上空の空間にも電波を届けるのがHAPS。湧川氏は「上空20kmの成層圏からLTE、5G、6Gの通信方式の電波を吹いて、皆さんがお持ちのモバイル端末で通信できるようにする取り組みです。4年前から商用化に向けて進めており、昨年は成層圏からの通信にも成功しました」と説明します。
HAPSの機体1機につき直径200kmをカバーできると考えると、日本全国のエリアをカバーするためには40機が必要になります。ソフトバンクでは成層圏に飛ばした40機について、機体同士をネットワークで結ぶ(成層圏メッシュネットワーク)ことで冗長化を図る方針です。
次は周波数の拡張について。6Gではミリ波の拡張、そしてテラヘルツ波の応用も視野に入れています。周波数にして100GHz~10THzのテラヘルツは、いわば細いビーム状。トラッキング技術を含め、まださまざまな課題が残っています。
この周波数を使って果たして通信できるのか、まだ不明なところが多いとしつつも「移動通信で利用できるところまで持っていきたい」と湧川氏。テラヘルツの広大な周波数を移動通信で活用すれば、さらなる超高速・大容量の通信が実現できるとあり、今後も研究開発を進めていく考えです。
6G時代には、電波の使い方も拡張されます。通信以外の用途で、例えばセンシングやトラッキングなどに応用することを考えています。また現行のワイヤレス充電は端末同士の接触が必須ですが、6G時代には離れた位置にある端末に向けて電波を吹くことで、充電・給電を行える技術も実現できる可能性があります。
湧川氏は「皆さんのお住まいに近い基地局から、電気を届けられるかも知れない。家に入ると充電が始まるような、そんなネットワークも作れる。そんなことも考えています」と述べました。
社会の挑戦
従来は各事業者が周波数を占有して利用することで電波の干渉を避けてきましたが、電波を特定の空間に送る(ビームフォーミング)、出力を変えることで干渉を抑えながら電波を共有する(オーバーレイ展開)、ひとつの電波でLTEと5Gの両方を使う(ダイナミックシェア)など、技術革新により電波を自由に制御できるようになりました。今後は、産業を超えて周波数を共有することで、限られた周波数の有効活用を進めていくことを考えています。
また近い将来、量子コンピューターのような高度な計算処理を行う端末の普及により既存の暗号化技術のセキュリティリスクが高まることを想定し、耐量子計算機暗号(PQC)や量子暗号通信(QKD)などの技術検証に取り組むことで、ソフトバンクの暗号化技術を提供していきたいとしています。
通信障害が発生したときのため、地上基地局だけでなく、HAPSなども応用することでインフラの多重化をはかっていきます。HAPS同士でも成層圏メッシュネットワークを作るなど、バックボーンの冗長化も進める方針です。他キャリア、固定事業者、地域網とも連携していきたいと説明しました。
温室効果ガスの排出を実質ゼロにするネットゼロの達成にも寄与していきます。大量のセンサーやデバイス、あらゆる計算機によるデータ処理によって排出されるCO2の常時監視・観察が必要となり、同時にプライバシー情報の取り扱いや情報セキュリティといった課題の解決も求められます。
基地局自体もカーボンニュートラルな運用を目指す方針。さらにはAIの活用により、通信量に応じてリアルタイムな基地局の稼働制御を行い、消費電力を最小化していくとしています。
HAPSもこれに貢献します。例えば北海道のとあるエリア、地上基地局なら約2,000局が必要となりますが、これをHAPSなら1機でまかなうことができます。湧川氏は「地上局だけで構成していたネットワークが大きく変わります。電力は最適化できますし、地球に優しい形でインフラを成長させていくことが可能になります」と説明しました。