ソフトバンクは7月14日、最先端技術を体感できる技術展「ギジュツノチカラ」の第3弾となる「ギジュツノチカラ Beyond 5G/6G 編」を開催し、5Gの次のシステム「Beyond 5G/6G」のコンセプトおよび実現に向けた今後の取り組みを発表した。
同イベントにおいて、先端技術開発本部 本部長の湧川隆次氏は、「インターネットが50年かけて世界の社会基盤となったように、6Gによるネットワークはデジタル産業をリードする基幹網へ進化を遂げる。インターネットはテクノロジーベンダーが中心となって発展したが、5G以降の世界あらゆる産業がデジタル化される。われわれはデジタル社会を実現する会社を目指している」と述べた。
そして、湧川氏は、デジタル化の先にはデジタルツインが出現すると語った。デジタルツインとは、物理空間の情報をもとに、仮想空間にコピーを再現する技術を指す。デジタルツインを実現するには、物理空間と仮想空間を結ぶ必要があるが、6Gによるモバイルネットワークが基地局と端末をつなぐことで、仮想空間と現実空間をリアルタイムに結びつけることが可能になるという。同社はデジタルツインにおいて、AIによって仮想空間で予測・判断したことを、6Gにより現実空間にフィードバックし、物理空間を最適化することを考えている。
また、湧川氏は「6Gは2030年頃に実現すると言われている。6Gの世界は基地局の話ではなくなり、物理空間のエッジコンピュータにAIなどのサーバ処理が可能な計算機が分散される。これらはネットワークと高度に連携して、高品質なエンド・ツー・エンドの環境を構築する」と説明した。
同社は6G実現に向けて、「アーキテクチャ」「技術」「社会」に分けて、12の挑戦に取り組む。
アーキテクチャにおける挑戦
アーキクテチャにおいては、「ベストエフォートからの脱却」「モバイルのWeb化」「AIのネットワーク」「エリア100%」に取り組む。
パケット単位で通信するこれまでのモバイルネットワークではベストエフォートを前提としたサービスを提供してきた。1つのインフラを共有している従来のモバイルネットワークでは、利用者が増えると性能が落ちることもあるが、落ちたとしても再送する仕組みがインターネットにあるため、「再送すればよい」が共通認識となっていた。
湧川氏は、「産業を支えるインフラには多様なSLAが不可欠、インターネットにおけるQoSの課題は6Gによって解決される」と述べた。ソフトバンクではMEC(Mobile Edge Computing)やネットワークスライシングなどの機能を実装することで、産業を支える社会インフラを実現していくという。
例えば、スライシングごとにSLAを決めることが可能になり、インフラに対する要求をAPIとして提供できるようにするという。「6Gネットワークはクラウドサービスのように、機能を提供できるようになる」と湧川氏は語った。
加えて、湧川氏は6Gネットワークには計算機が入ってくることで、AIの処理がエッジで行われるAIネットワークになると説明した。ソフトバンクは2019年からGPUを活用した仮想基地局の技術検証に取り組んでおり、AI技術とネットワークが融合した MEC環境を実現している。
技術における挑戦
技術に関しては、「エリアの拡張」「周波数の拡張」「電波によるセンシング」「電場による充電・給電」に取り組む。
ソフトバンクはこれまで、モバイルネットワークを拡張する際、人口カバー率に重点を置いていたが、地球全体をエリア化するために、今後は国土カバー率を重視するという。「国土全体をカバーするには、空間に電波を届けることが重要であり、災害に左右されないネットワークが必要。これからは、空からのインターネットが始まる」と湧川氏は述べた。
「空からのインターネット」を実現するには、基地局を上層に持っていく必要がある。そのため、ソフトバンクは2017年から「HAPS(High Altitude Platform Station)」事業に着手しており、「成層圏」を飛ぶ無人航空機に基地局を設置して、災害時でも途絶えない、安定的な通信サービスの提供を目指している。
同社の子会社であるHAPSモバイルは、2017 年から成層圏プラットフォームと通信システムの開発に取り組んでいる。2020 年にはソーラーパネルを搭載した成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「Sunglider」が、ニューメキシコで成層圏フライトおよび成層圏からのLTE通信に成功し、HAPSが実現可能であることを証明した。そのほか、HAPS向けの周波数の標準化活動やグローバルなアライアンスの設立などにも取り組んでいる。湧川氏は「成層圏のメッシュネットワークにも挑戦していきたい」と語っていた。
周波数の拡張としては、5Gの10倍の通信速度を実現するため、6Gにおいてはミリ波よりも高い周波数のテラヘルツ帯も視野に入れているという。一般的に、100GHzから10THzまでがテラヘルツ帯とされ、2019年に開催された世界無線通信会議(WRC-19)では、これまで割り当てられたことがなかった 275GHz以上の周波数の中で、合計137GHzが通信用途として特定された。
ソフトバンクは2020年に、ラボにテラヘルツの測定装置を整備したほか、回転反射鏡アンテナを開発し300GHzのユースケースの実験やテラヘルツ用の超小型誘電体アンテナの通信実験を実施した。
社会における挑戦
社会においては、「周波数」「安全性」「耐障害性」「カーボンフリー」に取り組む。
社会という観点から見た周波数については、これまで各事業者が占有して利用することを前提に割り当てられてきたところ、今後はIP技術を無線区間に応用することで、時間的・空間的に空いている帯域を複数事業者で共有することを目指す。
また、仮想的に基地局をアプリケーション化することで、無線機の共有も視野に入れている。これにより、必要なシーンに応じて、無線機を柔軟に利用することが可能になる。
昨今注目を集めている「カーボンフリー」については、大量のセンサーやデバイスからのデータ、あらゆる計算機によるデータ処理によって、CO2 排出量を常時監視・観察ができるようになると、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするネットゼロの達成に大きく寄与できると考えているとしている。
湧川氏はカーボンフリーに向けた取り組みとして、「AIによる無線機の省エネ化」と「HAPS活用による電力削減効果」を紹介した。前者の場合、AIを用いて通信がない時間帯は高い周波数の基地局の出力を下げるなどすることで、電力の削減につなげることができる。また、後者の場合、既存の基地局約7000局のうち、圏外のエリアが面積54%、低トラフィックのエリアの面積が11%であり、ここをカバーする基地局は約2000局となっているが、これをHAPSに置き換えると1機で済み、電力を削減できるという。
5Gに対応したスマートフォンでさえそれほど普及しておらず、6Gと言われてもピンと来ない人が多いのが正直なところかもしれない。しかし、ネットワークはわれわれの生活に不可欠なものであり、6Gがもたらす進化はわれわれの生活をさらに便利なものにすることが期待できそうだ。