大阪大学(阪大)は6月17日、AIとナノポアを融合させた技術を開発したころで、唾液の5分間計測で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を90%以上の感度・特異度で診断することに成功したと発表した。

同成果は、阪大 産業科学研究所の谷口正輝教授、阪大 微生物病研究所の松浦善治教授(現:感染症総合教育研究拠点拠点長・特任教授(常勤))、阪大 大学院医学系研究科の朝野和典教授(現:大阪府立健康安全基盤 研究所理事長)らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

新型コロナのような感染症の拡大を防ぐためには、ワクチンや治療薬の開発のほか、感染しているかどうかを見極める検査技術が必要とされる。その検査についても、結果が出るまでの時間が短いこと、そして精度が高いことが求められるが、PCR検査は精度は良いが時間がかかるという課題があった。

こうした背景のもと研究チームは今回、1個のウイルスを電流で計測できるナノポアと、その電流波形を学習するAIを融合させることで、1個のウイルスを高速・高精度に識別するAIナノポア技術の開発に成功したという。

具体的には、ウイルスよりも大きな直径を持ち、電解質で満たされた貫通孔であるナノポアに流れるイオン電流を計測し、ウイルスの性状を読み取るが、その電流のパターンをAIに学ばせることで、1個のウイルス性状を読み取るというものだという。

実験では、AIナノポアにより、培養されたSARS、MERS、SARS-2、229Eコロナウイルスを高精度に識別することに成功。しかも、唾液検体を5分間計測するだけで、陽性・陰性を感度90%・特異度96%で検査できることが実証されたという。

また、培養されたSARS-CoV-2とインフルエンザウイルスA型の高精度な識別にも成功したという。AIナノポアは新たなウイルスでもAIに学習させることでそれらに対する検出法も迅速に構築することが可能であるため、今後、起こりうるであろう新たな感染症にも素早く対応することができる可能性があるとしている。

なお、研究チームでは、今回の検査法を用いた大規模フィールドテストを2021年春に開催された春のセンバツ高校野球で実施しており、実際にPCR検査との一致率100%を達成したとしている。

  • AIナノポア

    AIナノポアのイメージ。ウイルスがナノポアを通過して生じた電流を計測し、AIがそのパターンからウイルスの種類を判別する (出所:阪大Webサイト)