この記事では、スマートフォンにおける「NFC」の役割について解説します。「非接触」や「キャッシュレス」といった時代を象徴する用語と関係が深いこの技術、かんたんなしくみとiPhoneとAndroidそれぞれの活用事例を説明しましょう。

NFCとは

NFC(エヌエフシー、Near Field Communication)は、近距離無線通信規格のひとつで、ざっくりいえば「デバイス同士をかざして通信」するための技術です。数センチとごく短い通信範囲を逆手にとり、対応機器同士が軽く触るくらい近づけないと通信できないことが最大の特長といえるでしょう。

NFCの機能はごく小さなチップ(IC)で提供されます。スマートフォンにNFCチップが搭載されていれば、短波HF帯(13.56MHz)を利用し、すぐ近くにある他のNFC対応機器とワイヤレス通信できるようになります。

ただし、NFCの通信速度は最大424kbps(毎秒424キロビット)と比較的低速なため、写真やビデオなど大容量データの転送には向いていません。そのため、メールアドレスや電話番号などの文字情報、Wi-FiやBluetoothの接続/ペアリング情報、電子マネーのような小額決済を行うための情報など、小さなデータのやり取りに利用されています。

NFCの規格には「TypeA」や「TypeB」などがある

NFCにはいくつかの規格があり、海外ではおもに「TypeA」と「TypeB」が利用されています。日本でもTypeAはたばこの成人識別カードtaspo(タスポ)に、TypeBは運転免許証やパスポートなどに採用され、アプリを導入すればスマートフォンでも読み取ることができます。

  • NFCを内蔵したパスポートや運転免許証、マイナンバーカードの写真

    パスポートや運転免許証、マイナンバーカードにもNFCが利用されています

NFCとFelicaはどういう関係?

日本で普及しているNFCといえば、ソニーが開発した「FeliCa(フェリカ)」です。モバイルSUICAやモバイルPASMOなど交通系電子マネーに採用されているほか、おサイフケータイにも採用されていることから、スマートフォンで近距離無線による電子決済といえばFeliCaという状況です。

FelicaはNFCの一形態で、通信技術はNFC TypeFに準拠しています。通信速度がTypeA/Bの約2倍と高速なほか、電子マネーの決済時に必要な暗号化情報を保存する領域(セキュアエレメント)を備えていることがFelicaの特徴です。エンドユーザの立場からすると、NFC TypeA/BとFeliCaは互換性がない別モノと考えていいでしょう。

  • NFC決済端末にスマホをかざしている写真

    「おサイフケータイ」や「Apple Pay」に利用されている技術「FeliCa」もNFCの一種ですが、実際の運用ではFelicaとNFCに互換性はありません

iPhoneでNFCはどのように活用されている?

iPhoneにおけるNFCの用途としてまず挙げられるのが「Apple Pay」です。Apple Payに対応したクレジットカードを「Wallet」アプリに登録しておくと、iPhoneを端末にかざすことで決済が可能になります。

ただし、日本ではFeliCaが普及しているという事情から、当初はTypeA/BのみのサポートだったApple PayにFeliCa対応を追加する形となりました。iPhone 8以降の機種では全世界向けのモデルにFeliCaチップが搭載されているため、SuicaなどFeliCaを利用した電子マネーを登録すれば、海外からの渡航者も日本の駅改札や店舗でApple Payによる支払いが可能となっています。

iPhoneにおけるNFC TypeA/Bの用途といえば、ひとつには「マイナンバーカード」の読み取りが挙げられます。iPhone 7以降/iOS 13.1以降の端末にインストールした「マイナポータルAP」を起動し、「スマホでログイン」項目から画面の指示に従い操作すれば、マイナンバーカード上の個人情報を読み取り、確定申告などの処理に使うことができます。

iPhone XS以降の機種であれば、「NFCタグ」と呼ばれる薄いシールに情報を読み書きできます。たとえば、App Storeで無償配布されている「NFC Tools」を使うと、NFCタグに電話番号を書き込むことができ、そのNFCタグにiPhoneの上部をかざすだけで電話をかけることが可能になります。

  • iPhone版の「マイナポータルAP」アプリ画面

    iPhone 7以降/iOS 13.1以降のiPhoneに「マイナポータルAP」アプリをインストールすれば、マイナンバーカードの情報を読み取れます

  • NFCタグの写真

    シール状のNFCタグに情報を書き込み、iPhoneで読み取ることができます

AndoridでNFCはどのように活用されている?

AndroidにおけるNFCのサポートは、端末メーカー/機種によって異なります。フィーチャーホンの時代から「おサイフケータイ」対応を進めていた経緯から、現在も国内メーカー製Android端末の多くはFeliCaチップを搭載し、電子決済できるようになっています。

おサイフケータイ対応をうたうAndroid端末の多くは、NFC TypeA/Bにも対応しています。実際、電子マネーカードの残高照会やNFCタグの読み書きなど、iPhoneで利用されているFeliCa/NFC関連の機能は、大手通信キャリア経由で販売されているAndroid端末の大半で利用できます。

ただし、マイナンバーカードを利用した行政サービスは、内閣府が配布する「マイナポータルAP」アプリの動作確認がとれた機種でなければなりません。2021年3月30日時点でマイナポータルAPに対応するAndroid端末は269機種で、いわゆるSIMフリー端末の多くはそこに含まれません。

Android端末ならではのNFCの活用方法としては、NFC対応Bluetoothオーディオ機器とのペアリング補助が挙げられます。NFCマークがある部分にAndroid端末をかざすと、自動的にペアリングを実行してくれるというものですが、iPhoneは非対応なこととBluetoothオーディオが普及しペアリングという作業が一般化した結果、NFC対応Bluetoothオーディオ機器は市場で見かけなくなってきています。

  • Android、「設定」アプリの「機器接続」画面

    端末がNFCに対応しているかどうかは、「設定」アプリの「機器接続」画面にNFCの表示があるかどうかで見分けられます

  • NFC対応Bluetoothオーディオ機器にAndroidスマホをかざしている写真

    NFC対応Bluetoothオーディオ機器をワンタッチでペアリングすることができます

「AirTag」もNFC対応だった!

Appleが2021年4月に発売した紛失防止ガジェット「AirTag」は、iPhoneを利用した位置と方向の検出機能で知られていますが、実はNFCに対応しています。

どこかでAirTagを発見したとき、iPhone/Androidを問わずNFC対応スマートフォンの上部をAirTagの白い部分に重ねると、シリアルナンバーなどAirTagの情報を提供するWebサイトへアクセスできます。持ち主が「紛失」状態に設定したAirTagの場合、持ち主に連絡する方法の記されたメッセージも表示されるので、紛失物の発見に協力できます。

  • NFCに対応した機種であれば、AndroidスマートフォンでもAirTagの情報を読み取れます