念願のiPhone取り扱いを実現したことで、楽天モバイルは先行する3キャリアと対等に勝負するための必要なハードルを一つ越えたことになります。しかし、真価が問われるのはこれからの展開です。

楽天モバイルは、自前の基地局網を展開する携帯キャリア(MNO)としては15年ぶりに新規参入した事業者となりました。現世代の4G LTEでは先行3キャリアがすでに人口カバー率99%超という広いエリアで展開しているだけに、同等のサービスを実現するためには急ピッチで基地局を展開する必要があります。

そのため、楽天モバイルでは当初は都市部など人口が多いエリアから展開する計画を立てており、足りないエリアは当面、ライバルとなるauから借り受けてローミング回線として提供する方式をとっています。

  • エリアと基地局の展開は、サービス開始当初から常に楽天モバイルにつきまとってきた課題。4月22日の発表会では、当初予定より5年前倒した、2021年夏頃に4G回線の人口カバー率が96%になる見込みだと紹介されました

楽天モバイルでは、本格参入となった2020年4月以来、当初の計画の5倍の勢いで基地局を設置し、そのエリア展開攻勢を強めてきました。その結果として東京都下や東京近郊の主要駅などは一通りエリア化できた状況です。

auとのローミング契約は「人口カバー率が70%を超えたエリアから終了する」という取り決めとなっており、都市部では順次auローミングが終了する地域が増えています。そうしたエリアでは、楽天モバイル網が十分でなく、場合によっては「圏外」の表示が出る場合もあります(余談ですが、東京近郊の駅近にある筆者の自宅も2021年3月末からほぼ圏外になりました)。

また、NTTドコモのahamoなど、先行キャリアもオンライン限定のサブブランドとして、月額3,000円を切る料金プランを用意してきました。これは楽天モバイルの上限料金(自社エリアでのデータ無制限で月額3,278円)と競合する価格帯です。

  • 楽天モバイルの料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は段階制。月1GBまでのデータ通信は0円、1GB超過後~3GBまでは1,078円/月、3GB超過後~20GBまでは2,178円/月、20GB超過後は自社エリア内無制限で3,278円/月となっています

こうした他社からの攻勢と、エリア展開の不足を補うためには、地道に基地局網を増やしていく以外に対策はないでしょう。その展開が早ければ早いほど、楽天モバイルの満足度は高まるはずです。

つっこんだ見方をすれば、今回のiPhone取り扱い開始により、ユーザーの転出が増える可能性もあります。SIMロック解除したiPhoneでは、SIMを差し替えるだけで利用開始できるという手軽さがあり、裏を返せば、現状の携帯キャリアに不満があれば、他社への乗り換えも簡単ということになるからです。

MNP転出などで手数料を設定していない楽天モバイルにとっては、ユーザーの満足度を高い水準で維持すること以外につなぎ止める方策は残されていません。

eSIMで2回線目需要が狙えるか

エリア展開では先行する3キャリアと勝負にならないという現状ですが、楽天モバイルには「2回線目」という勝機もあります。最新のiPhoneは「eSIM」に対応しているためです。

eSIMは物理的なSIMカードがなく、携帯契約の情報をソフトウェアで記録する仕組みです。iPhone 8以降のiPhoneは、SIMカードとeSIMの2種類の契約を同時に登録し、待ち受けできるようになっています。

つまり、eSIMを活用すれば「従来の携帯契約はそのままで、楽天モバイルを2回線目に追加する」という使い方ができます。たとえば、大手キャリアの契約は小容量プランに変えて、データ通信は楽天モバイルを中心に使って節約するといった用途もあり得るでしょう。また、楽天モバイルの通話アプリ「楽天Link」で通話する場合は通話料が無料となるため、他社のデータ通信を使いつつ、通話は楽天Linkで行うという使い方もよさそうです。