確かに、iPhone 12にはテザリング速度(子機がインターネットに接続するときの速度)を変化させるスイッチが用意されています。しかし、それはテザリングを速くするためのスイッチではなく、通信速度を犠牲にして互換性を向上させるためのスイッチ、むしろ「遅くするスイッチ」です。

そのスイッチとは、『設定』→「インターネット共有」画面にある「互換性を優先」スイッチのこと。これがオンのとき、Wi-Fi経由でテザリングするとき使用される周波数帯は互換性優先の2.4GHz帯となります。通信環境にもよりますが、Wi-Fiは2.4GHz帯より5GHz帯のほうが通信速度を稼げることが多いため、スイッチをオンにするとテザリング速度が低下する可能性があります。

5GHz帯(「互換性を優先」スイッチはオフ)でテザリングすると、通信条件がベストのときIEEE 802.11ac(5GHz/80MHz)、2x2 MIMO/866.7Mbpsという通信規格を利用できます。一方、2.4GHz帯(「互換性を優先」スイッチはオン)のときには、IEEE 802.11n(2.4GHz/20MHz)2x2 MIMO/144.4Mbpsがベストです。iPhoneのセルラー回線やWi-Fiの状態にもよりますが、速度的には5GHz帯のほうが有利です。

ところで、iPhoneにテザリング機能が装備された当初、5GHz帯は屋外での使用が法令により禁止されていました。その背景もあり、テザリングは2.4GHz帯に限定されていましたが、2018年10月から5GHz帯の一部(5.2GHz/W52チャンネル)に限り条件付きで屋外利用が許可されています。iPhone 12に限らず、今後2.4GHz帯/5.2GHz帯の両方でテザリングできるスマートフォンは増えていくことでしょう。

  • 「互換性を優先」スイッチがオフのときには、高速なIEEE 802.11ac規格でWi-Fiテザリングができます